あたしは後ろにいるナズナを見つつ、首を傾げる。
だが彼は、フルフルと首を横に振った。
「リューネ国の女性で、男性の仕事を理解出来ている者など、ほんの一握りしかいない。大体は家の中の事を取り仕切ったりしている。外の仕事の事など、夫人達は知らないんだ。だから、まぁ…外を知らないからこそ、ヴィオレッタみたいな性格の女性が多いわけで…」
「………」
今までの経験上、ナズナの言いたい事は分かった。
要するに、世間知らずのお嬢様方がそのまま大きくなったと言いたいわけだ。
あたしも前世は似たようなものだったから、何も言えないんだけど。
「あたしは、貴方のお眼鏡には適っているのかしら?」
「それは勿論。お前程、政務の事や采配を理解している女性はいない。お前が俺の妃になってくれて、どれだけ助かっているか」
あたしに頬擦りしてくる彼にくすぐったさを感じるが、あたしは一つ、彼の言葉を訂正する。
「まだ妃じゃないわよ、ナズナ」
「いずれなるだろう? 細かい事はいいんだ」
良くないと思うんだけど。
反論しようとしたら、重力魔法を使われて浮かばされた。
ジト目で彼を睨むが、彼はニヤリと笑うだけで何も言わない。
「貴方、あたしが貴方より魔力使うの上手いって分かっててやってるのよね?」
「分かってるが? うん、浮かぶシャルも美しいな」
あたしはすぐさま魔法を
手加減して蹴ったのだが、彼に防がれた。
「足癖が悪いな、シャル。スカートの中が見えそうだぞ?」
「じゃあ、その掴んでる手を離しなさいよ?!」
防いだと同時に、ナズナは蹴ったあたしの足を掴んで離そうとしない。
それどころか足へキスしてきて、あたしは顔が熱くなるのを感じた。
あたしを見ながらというのも、意地が悪い。
「ちょっと…っ! もういい加減に…っ!!」
「名残惜しいが、まぁ仕方ないだろう。これ以上、お前を虐めるつもりはないさ」
そう言って、ナズナはあたしの足から手を離した。
涙目になっていたであろうあたしは、彼の鳩尾に拳を叩き込む。
「ぐぅ…?!」
まさかそうくると思ってなかったナズナは、鳩尾を押さえて蹲った。
「変態、馬鹿、すけべ!!」
「い、いずれ、そういう時だって…来るだろうに…何を恥ずかしがって…」
「黙れこの馬鹿!!」
まだ何か言うナズナの後頭部に、踵落としをする。
脳が揺れたようで、彼はそのまま気絶した。
「ルティ、ナズナを部屋に投げ入れてきて!! 今すぐ!!」
やれやれ、といった感じのルティは、ナズナを抱え上げて転移する。
本当に彼には面倒事ばっかり処理してもらっている気がする…いや、気がする、ではなく、そうだ。
「我が主…」
「何も言わないでレヴィ。わかってるから…」
あたしは顔を覆い、蹲った。
本当に、レヴィにもルティにも申し訳ない。
こんな主で。
「絶対ナズナに嫌われた…」
「いや、彼奴は馬鹿だから、これくらいで我が主を嫌うような狭量な奴ではないと思うが…」
レヴィが慰めてくれるが、今回ばかりは絶対に呆れられたし嫌われたに違いない。
いくら書類仕事が得意だからといって、こんなお転婆で、照れ隠しで暴力振るうような女、願い下げだろう。
「もういっそ…ターニャに頭下げて許してもらってから、既成事実でも作ってやろうかしら…卒業式まであと数ヶ月だし…? 子供できたところで問題ないわよねぇ?!」
「我が主が錯乱した?! 我が夫、早く戻ってこい!!」
ケラケラ笑い出すあたしにレヴィが慌て出して肩を揺さぶってきたが、気力がなくなるまであたしは笑い続けたのだった。
◆◆◆
その後疲れ果てたあたしは、レヴィにベッドへ運んでもらい、そのまま寝てしまったようだ。
寝返りを打つと、頭を撫でられる。
そっと目を開けると、ナズナが苦笑しながらあたしを見つめていた。
「…今何時?」
「もうそろそろ、夕方だな。シャル、流石に痛かったぞ」
軽くデコピンされて、あたしの意識ははっきりする。
あたしは布団を頭まで被り、彼に言った。
「……嫌いになったでしょ、あたしの事」
「だから、なんでそういう発想になるんだお前は。あれぐらいで嫌いになるなら俺は誰も愛せないし、なんなら王太子の地位だって他の奴に譲ってる。良いか、シャル? 俺がこの地位にいるのは、お前と婚姻を結ぶ為だ…そう言ったらお前、自分の能力がーとか、顔がいいからーとか言い始めるだろうが…そんな物なくても、俺はお前を愛してると、何度言えば信じてくれるんだ?」
布団から少し顔を出して、あたしはナズナを見る。
真剣な顔で言う彼に、あたしは目を伏せた。
「だって…自分に自信がないのだもの…。貴方みたいな素敵な人に愛されているって…いまだに夢なんじゃないかと思うんだもの…」
「何処が夢なんだ、何処が」
被ってる布団を剥ぎ取り、ナズナはあたしの頬を引っ張ってくる。
少し強く引っ張ってきてたので、あたしは若干涙目になった。