「
「お前がわかるまで、このままだからな」
それ本気で言ってるのこの人?!
嘘でしょ、と思って彼を見るけど、こんな冗談言う人じゃないのは分かりきっているので、あたしは本気で泣き始めた。
ボロボロと涙をこぼし始めたあたしを見たナズナは、ため息をついて手を離してから、あたしを抱きしめる。
「シャル、泣くな」
「泣くもん…っ! うわぁあんっ!!」
ぽんぽんとあやすように背中を軽く叩かれて、あたしは嗚咽をもらしながら、また再びウトウトし始める。
「シャル、流石に寝過ぎだ。全く…俺の妃は眠り姫だったのか?」
「うぅ…」
眠くて反論出来ない。
あたしは多少の抗議の意を込めて、彼の服を握りしめる。
「シャール? シャルロットー?」
「やぁ…」
嫌だと、このままが良いとフルフル首を横に振るが、ナズナに抱き上げられた。
そのまま外に連れて行かれ、夕陽が眩しくて、あたしは彼の首に腕を回して顔を背けた。
「シャル、少し散歩しようか。お前、昨日俺と別れてからずっと中にいただろう? あまり、お前と共にいられなかったから、俺も多少寂しかったんだぞ?」
「露天風呂とか…廊下だって、外に面していたじゃない…ずっと、部屋の中になんて…籠ってないし…」
ナズナが歩く揺れが心地良すぎて、やっぱり瞼が重くなる。
ギュッと、首に回した腕の力を強くするとそこを軽く叩かれた。
「シャル、締まってる」
「…ごめん」
ナズナがあたしを落とす事は多分ないだろうと、少し
彼はあたしを抱き抱える体勢を、重力魔法も使って変え、片腕にあたしを乗せるような形にした。
まだ瞼を擦っていたあたしの手を、ナズナは取る。
「せっかくの白い肌が赤くなるぞ、シャル」
「んん…だって、眠いんだもの…」
少し不満げに彼を見たが、ナズナは優しげな目を向けてきていた。
なんで、なんてもう疑問に思う事はない。
「ナズナ、ごめんね。殴っちゃって」
「俺こそすまなかった。やはり、シャルには敵わないな」
ナズナに謝罪すると、苦笑しながらも彼から謝罪が返って来た。
あたしの手を離し、ナズナはあたしの蒼い髪に触れる。
「この髪の長さ、久方ぶりに見たな」
「あの先輩に切られて、短くなっちゃったものね。懐かしい?」
尋ねると、あぁ、とナズナは嬉しそうに目を細めた。
「出会った頃のシャルを思い出すよ」
「貴方、あたしを見るなり目を逸らしていたのにね。それに、貴方と出会ってまだ一年と少ししか経っていないのに、結構長く一緒にいるような感覚がしているわ」
俺もだ、とナズナは笑う。
彼の笑顔を好きになって、彼を守りたいと願った。
彼の隣にいられたらいい、けれど叶わぬ願いだと、そう思っていたのに。
「あたしって、本当に神に愛されているのかもしれないわね? 願ったらなんでも叶いそう」
「最高神に会ったんだ。それは愛されている証拠だろう?」
最高神の名前を出されて、あたしは眉を寄せた。
「あいつ、好きじゃない…」
「シャル…」
あたしの言葉に、ナズナが苦笑する。
彼から夕陽の方に顔を向けた。
「…吾妻ノ国から見る夕陽も、綺麗ね。ねぇ、ナズナ。あたし、帰ったらあそこに行きたい」
「あそこ?」
何処だろう、と首を傾げているであろうナズナの方を見ず、あたしは言う。
「貴方のお気に入りの場所。トリスタン領にある、あの小高い丘。貴方があたしに、プロポーズしてくれた所。二人で、また行きたいわ。貴方とゆっくり、そこで過ごしたい」
「…あぁ。リューネに帰ったら、一緒に行こう」
彼の方を見ると、眩しそうにあたしを見つめていた。
だからあたしは、彼に微笑みかけたのだ。
愛しているという意味を込めて。
◆◆◆
ナズナが使用人の人に、夕飯はあたしの部屋で、あたしの分も一緒に持ってきて貰うよう頼んでいた。
あたしは髪が長くなったので、三つ編みにしてからお団子にして創造魔法で作ったピンで留める。
夕飯が運ばれてきたが、ナズナはお箸を頼み、あたしを見てニコリと笑った。
「教えてくれるんだろう? シャル」
「勿論」
お箸の使い方をレクチャーすると、彼は難なく使いこなせるようになった。
豆とかを掴むのには苦労しているようだったが。
「この、ハシ? は便利だな。片手で使えるのも良い。もう片方の手が空くからな」
「食べながら何かをしようと思っているなら、それは行儀が悪いわナズナ。そんな事したら怒るからね」
わかってるさ、と返してくるが、あたしが注意しなかったら、多分書類とかを見ながらご飯食べたんじゃなかろうか、と思う。
食事を終え、食器類を使用人の人に下げてもらい、ナズナは自分の部屋に帰る…かと思いきや。
「今日は一緒にいたい」
そう言って彼は、ソファーに座ってゆっくりしていたあたしへ、甘えるように抱きついてくる。
そんな彼の様子に、あたしはクスリと笑ってしまう。
「なんで笑うんだ…」