そんな二人の様子を見て、あたしは見せつけるようにナズナの首へ腕を絡め、キスをした。
「……っ?!」
戸惑った声なき声をあげたナズナだったが、あたしの意図が分かったようで、抱きしめる腕に力が込められる。
唇を離し、あたしは二人へ妖艶に微笑む。
「あたしはナズナのものなの。彼以上の人なんていない。あたしの事、清純そうに見えていたのかしら? 手篭めにできると思ったら大間違いよ、お二方」
あたしがそう言うと、二人は慌てて部屋の前から走って逃げていった。
さて、あの扉直さなきゃ、とナズナから手を離したのだが…彼が全く離れてくれない。
「ナズナ? 扉直さなきゃ…」
「お前は清純だろ? 演技に気付かれなくて良かったな、シャル」
離して欲しいとナズナを見るが、彼はニヤリと笑って頬にキスを落としてきた。
う、と言葉に詰まって、あたしはナズナから目を逸らす。
確かに世間知らずのお嬢様ではあるけど、清濁は知っているつもりなのに。
「…ナズナ」
「ん? …わかった、そんな目で見るなシャル。離すから」
ジト目で彼を見上げると、素直に手を離してくれた。
最初からそうしてもらいたいのだが、いかんせん、彼の頭はお子ちゃまである。
お気に入りは手元に置いておきたいのだろう。
そのお気に入りがあたしなのが、嬉しくもあり少し困る所ではあるが。
あたしは時間回帰の魔法を使い、扉を元に戻す。
「…お風呂行ってくるわ」
「あぁ。俺は叔父上に先程の話をしてくる。ルティとレヴィに、部屋の前を見張らせておけ。あいつら…誰の女に手を出そうとしたか、思い知らせてやる…!」
怒髪天をついてらっしゃるナズナは、目つきを鋭くしながら部屋の外へ出ていった。
あたしは二人を呼び出し、部屋の外にルティを置き、お風呂場にレヴィを連れて行く。
何となく嫌な予感がしたからだ。
こういう時は、必ず当たる気がする。
「レヴィ、不審者がいないか見てきてくれない? 露天風呂の方も隈無く」
「了承した、我が主」
レヴィがお風呂場の方に入っていき、数分後。
衝撃音が聞こえ、あたしはやっぱりと音がした方に歩いていく。
お風呂場の中に入るのに着衣はどうかと思うが、まぁ、多分非常事態なので構わないだろう。
音がした露天風呂の方を見にいくと、囲いの一部が破壊され、翔さんと柊さんが倒れ伏していた。
「レヴィ、殺しちゃった?」
「いいや、気絶しておるだけだ。殺せというなら殺すが」
あたしは首を横に振る。
殺したところで、こちらの不利益になるだけだし。
あたしがそういう系だと思った二人は、こうしてお風呂場を覗きにきたのだろう。
無防備だからと、ナズナがこの場にいないからと、手篭めにできると思ったのか。
女性をなんだと思ってるのだ、この輩どもは。
真贋を見極めてから、出直してこいと言いたい。
「シャル!! 今の音は…」
蓮さんを連れて、ナズナが露天風呂に現れた。
あたしは彼の方を見、苦笑しながら肩を竦める。
囲いの外に倒れている二人と、あたしの様子を見て、ナズナは蓮さんを睨みつけた。
「叔父上、貴方の指示か?」
「とんでもない。こんな馬鹿げた事、誰が命じるものか。愚息達の暴走だ。まったく…シャルロット殿が傾国の美女のように美しいからと、現を抜かしおって…すまぬ、シャルロット殿」
蓮さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
あたしは首を横に振り、ニコリと笑った。
「申し訳ありませんが、私は殿下のお部屋に移動させていただきたく思います。お風呂がこんな状態ですと、使えませんし…」
それは勿論、と答えてもらえ、翔さんと柊さんは蓮さんの手によって引きずられながら連れて行かれた。
「で、シャル? 本当のところはどうなんだ?」
蓮さん達の姿が見えなくなってから、ナズナが尋ねてくる。
あたしはまた肩を竦めた。
「なんであたしが読心術使える前提で話してるのよ、貴方は」
「お前なら出来そうだと思って」
軽く言ってくるナズナを、あたしは睨んだ。
「やろうと思えば出来るだろうけど、なんで今しなくちゃいけないの。それに、それを使ったら多分貴方の心も全て覗かれてしまうでしょうけど、それでも良いの?」
「……それは困る」
あたしから顔を背け、そう呟くナズナに、ほらね、とあたしはため息をついた。
◆◆◆
ナズナの方の部屋に移り、お風呂をいただいたあたしは、寝巻きであるネグリジェに着替える。
オフショルダーで淡い色のそれは、あたしのお気に入りの一つでもあった。
「なんか、疲れた…」
いくら昼寝した所で、朝早く起きて着飾ったのだ。
眠気は出てくるというものだろう。
欠伸をして少し目を擦りながら脱衣所から出ると、ナズナが目の前にいるのに気付かず、ぶつかった。
「…ごめん、何?」
「シャル…今日は疲れたな…。もう寝よう」
彼はそう言い、あたしをお姫様抱っこして寝室に向かう。
ナズナもまさか、従兄弟が暴走するとは思ってなかったのだろう。
少し顔に疲労の色が見えた。
「ごめん、多分あたしのせいだ…」