「違う。お前は全く悪くない。暴走したアイツらが悪い」
寝室に着き、ベッドへあたしをゆっくりと降ろしたナズナは、その隣に寝転がる。
あたしを抱き寄せて、彼は目を閉じた。
「ナズナ…」
「ん…?」
あたしも眠気がピークになり、ウトウトしながら彼に言う。
「大好き…」
「…俺も」
そのまま意識を暗転させ、次に気が付いたら朝だった。
横を見るともうナズナの姿はなく、彼がいたところを触るとまだ暖かかったので、つい先程起きたのかと、あたしはぼーっとした頭で思う。
「ナズナ…」
嫌な想像をしてしまう。
多分、いずれ訪れる、永遠の別れを。
今この瞬間、それが訪れてしまったら、と。
「っ!!」
あたしは意識を覚醒させ、布団から飛び出した。
そんな事あるわけないのに、あたしは寝室の扉を力任せに開ける。
もしそこにナズナがいなかったら、あたしは泣き崩れるんだろうと、想像してしまった。
「…シャル、どうした?」
ちょうど寝室に戻ろうとしていたのであろうナズナが、驚いたようにあたしを見ている。
そんな彼にあたしは抱きついた。
あたしの様子が少しおかしい事はわかっていたであろうに、ナズナはあたしを抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でてくれる。
「どうした? 怖い夢でも見たか?」
「ナズナ…」
彼の体温で少し安心したあたしは、彼の背に手を回し、目を閉じた。
「ん…?」
ナズナの名前を呼んだからか、優しく聞き返してくれる彼がとても愛おしいと思う。
その間、ナズナはあたしの頭を撫でる手を止めない。
「…そう…そうなの…怖い夢を見たの。貴方がいなくなってしまう夢。とても…とても、怖かった…」
「シャルロット。俺がお前の元からいなくなるなど、絶対にあり得ない事だ。死が二人を分かつとも、俺はお前の傍に居るとも」
強く抱きしめられ、あたしは少し笑ってしまう。
そんなあたしを見たナズナが、ホッとしたような顔をした。
「ごめんね、ナズナ。もう大丈夫だよ。貴方、もう一度眠る?」
「いいや。目が冴えた。シャル、散歩でもするか?」
昨日の事もあってあまり外には出たくないなとは思ったが、ナズナも一緒なので何とかなるか、と考え直す。
あと目が冴えたのはあたしのせいなので、少し申し訳なく思った。
「そうだね。今何時?」
「朝の5時だ。この季節は少し冷えるだろうから、これを羽織っていけ」
ナズナはクローゼットから薄手の上着を取り出し、あたしにかけてくれる。
彼を見ながら、もしかしたら、と予感めいたものを感じた。
その予感は外れるかもしれないし、その場合彼に多大な迷惑をかける事になるだろう。
でも、その予感にかけてみようと思った。
「ナズナ、お願いがあるの」
「ん? なんだ?」
上着をあたしにかけた状態で、ナズナは首を傾げる。
あたしは意を決して、彼にお願いしてみた。
「あたしの首に、軽く手をかけて欲しいのだけど」
「…シャル、それは…」
そんな事をしたら、と彼の顔は物語っていたけれど、あたしは苦笑いをする。
「もしかしたら、って予感めいたものがあって。ほら、最近直感力が上がってきた気がしてて。もしかしたら、気絶しないかもしれないじゃない?」
「…シャル」
ナズナの眉が寄って、少し顔が険しくなっていた。
あたしの名前を呼ぶ声も、険が含まれている。
いや、うん。
無茶苦茶なお願いだってのはわかってるよ?
恋人の首に手をかけるなんて、軽くても嫌だよね。
わかってるんだけど…。
「貴方を愛しているからこそ、信じているからこそ、お願いしているのだけど…ダメ?」
「……っ! お前、その顔は反則だろうが…っ!」
少し泣きそうな顔で、彼にお願いしてみる。
ナズナはあたしから手を離し、片手で顔を覆って俯いた。
深いため息をつきながら。
「…シャル、お前気絶したらどうするんだ…」
地を這うような声で問われて、あたしは少し悩む。
気絶したらどうする、か。
「…ターニャにお願いして、婚姻を結ぶの早めてもらう」
「やるか」
そう言った瞬間、ナズナは顔を上げて即答した。
あたしが気絶する方に賭けたわね、こいつ。
しなかったら、どうしてくれようか。
ムッとしたけれど、あたしは少し深呼吸をして彼が手にかけやすいよう、ちょっとだけ顔を反らす。
そっと、ナズナがあたしの首に手をかけた。
宮塚が、あたしの首に手をかけたような恐怖感はなく、ただ、ナズナの手が暖かいと感じるだけだった。
「……平気」
「そうか……もういいか? いいよな?」
そう言って、ナズナはあたしの首から手を離し、その場に蹲る。
呆れてため息を吐かれるかと思っていたあたしは、少し驚いた。
「ナ、ナズナ? 大丈夫?」
「…大丈夫かと聞きたいのは、こちらの方なんだがな…シャルロット、お前…本当に平気か?」
ナズナが心配になって彼と同じ目線まで屈むと、上目遣いでナズナはあたしを見てくる。
その目は、本気であたしを心配している目だった。
「うん…本当に平気。多分、貴方だからなのかもしれないけれど」
「…チョーカーとか付けたら、気絶しそうだなお前」