手をいい加減離して欲しいと言おうと思ったのに、グレゴワール君は、あたしの言葉に被せるように話し出し、困惑する。
こんなに人に話を聞いてもらえないのは、初めてだ。
どうしようと思っていた所、あたしの真横から魔法が発動する揺らぎを感じる。
そこにいる人物なんて、一人だけだ。
「
「ぐぁぁあっ?!」
グレゴワール君が床に突っ伏す。
重力系の魔法を食らって、立ち上がれないようだ。
「貴様…誰に向かって、そんな
とても低いお声でそう宣うあたしの愛しい殿下は、怒髪天を突いてしまったようで、グレゴワール君にそう尋ねる。
あたしに対して怒っているわけではないのだが、怖くて横を向けず、あたしはグレゴワール君を見つめる他ない。
アオバ君の時以上に怒っている気がする。
迂闊でごめん、ナズナ。
「殿下、処罰なら外でやった方がいい。ここは上階だ。下手しなくても床が抜けて、下に被害が行く」
「アスカリドの言う通りです。やめた方が良いです。そんなに怒ると、光のお姉さんが怖がるです。殿下、お姉さん怖がらせたいです?」
ガタイのいい茶髪の男の人と、鉛白色の髪の女の子がナズナを止めに入る。
二人の言葉は耳に届いているだろうに、ナズナは魔法を止めようとしない。
「殿下、シャルロットさんが怯えてらっしゃいますよ? その証拠に、殿下の方を一切見ないではありませんか。そのままですと、関係に亀裂が入るのでは?」
エレオノールさんも口添えをしてくれる。
三人共、止めに入ってくれてありがとう。
本当に怖くて、ナズナの方に顔を向けれないのよね。
ナズナはため息をつき、魔法を止めた。
シャル、と名前を呼ばれたので、あたしは彼の方を見る。
不安そうな顔であたしを見ていたので、あたしは指を鳴らし時を止めた。
「すまん、シャル。怖かったか…?」
「とても。いや、ごめん。あたしが迂闊だった。思い出し笑いをしてしまって…この人に微笑みかけたわけではないのだけど」
あたしの足元に大の字になって倒れている、グレゴワール君を見る。
何だろう、女難の相ならぬ男難の相でも出てるのかしら、あたし。
これ、あの無能のせいとか言わないわよね?
「好かれるなら、貴方以外嫌だわ」
「シャル」
後ろから抱きしめられ、あたしは彼の頭を撫でた。
ナズナもあたしに甘えるように、頬擦りをしてくる。
くすぐったくて、クスクス笑ってしまった。
「シャル、愛してる」
「あたしも。愛してるわ、ナズナ」
彼が身を乗り出し、あたしにキスをしてきたので受け入れる。
唇を離した彼に、あたしは尋ねた。
「ところで、あちらのお二人はどなた? 貴方、人の顔と名前は覚えているのでしょう?」
「茶髪の男の方は、アスカリド・バスティア。ギルドでもトップに入る程の実力者で、俺も何回か顔を合わせた事がある。そっちの少女は、フォルトゥナ・アデライード。アスカリドの、仕事でのパートナーだ。よく2人で組んでやっている」
ナズナを止めてくれた二人、アスカリドさんとフォルトゥナさん。
よし、覚えた。
指を鳴らし、魔法を解除する。
ナズナは少し不満げに、もっとイチャついていたかったと、小声で呟いた。
「帰ってからね」
「はっ!! 殿下何を…何をしているのですか、僕の美しい人に!!」
彼の言葉に苦笑していると、グレゴワール君が起き上がった。
あれで気絶してくれていたら良かったのに、彼はあたしを抱きしめているナズナを見て怒り始める。
貴方にそんな権利ないんだけど、と思ってしまうが、多分ナズナの方が彼の扱いは上手いだろう。
グレゴワール君のファミリーネームに聞き覚えがあったからだ。
ベルナール家は、21貴族の一つのはず。
あたしの家である、テスタロッサ家と同じ。
「何をしていると言えば、見た通りだと思います闇帝。それに、殿下は彼女にそうする権利があります。闇帝の耳には入っていなかったのですか? 殿下が才女と名高い、テスタロッサ家のご令嬢とノーム2の月に婚約したと。その方の容姿も、聞き及んでいるはずですよ? 私の耳にでさえ入ってきているのですから」
本を読んでいるミントグリーンの髪の女の子が、グレゴワール君の疑問に答えた。
それに対して、ロゼが困ったように笑う。
「アエラ、それ僕情報じゃないの?」
「先輩情報でも、私の周りでさえ知っているのです。闇帝は私より家格が上ですので、その話なんてとっくの昔に知っているものだと思ってました」
ロゼが言ってた相棒って、彼女の事っぽい。
あまり人と関わってこなかった彼が、人見知りを発動せず話せているという事は、知り合いだという事だ。
紹介する前に知ってしまったけど、まぁ良いか。
グレゴワール君は、そんな馬鹿なと呟いた。
「テスタロッサ家の才女、魔王討伐の英雄、気高い魂が殿下の心を射止めた。なんて、噂されていますものね?」
クスクス笑いながら、エレオノールさんも言う。
「いや、あの、エレオノールさん、なんですかその噂」