「エルで結構ですよ、シャルロットさん。もちろん呼び捨てで。敬語もなしで良いですよ。噂の出所は…まぁ、シャルロットさんにはお分かりでしょう?」
にこやかに笑うエレオノールさん、もといエルに、あたしは苦笑した。
仲良くしたいと、言外に彼女は言っているのだ。
そして噂の出所など、ターニャ以外あり得ないだろう。
いくらなんでも持ち上げすぎじゃないかしら?
魔王討伐は事実だとしても、才女だの気高いだの。
ため息しか出てこないわよ、ターニャ…。
「じゃあ、あたしもシャルで。エルは…敬語なしって言っても無理そうだね」
「それはすみません。ジルベルト家は、神に仕える一族なもので。幼少の頃よりこの喋り方なんです」
別にそれは構わないし、直せとも思ってはいない。
大丈夫だよ、と彼女に返し、あたしは抱きしめてくれているナズナの腕を軽く叩いて、離れてもらった。
立ち上がって少し扉の方に下がり、あたしは皆に向けてカーテシーをする。
「初めましての方もいらっしゃいますので、ご挨拶申し上げます。シャルロット・マリアライト・テスタロッサと申します。ギルドでは光姫の称号を頂いております。そして、光栄にもナズナ殿下に見初めて頂きまして、婚約者の位を賜りました。今後ご迷惑をおかけする事かと思いますが、御指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」
グレゴワール君があたしを見てまた、美しい、と呟く。
にこやかに笑いながら、あたしは心の中で思う。
黙ってろ、お前は。
ナズナの機嫌がこれ以上悪くなったら、どうしてくれる。
宥めるの本当に大変なんだからね?!
「シャル。挨拶も済んだし、もう帰るか」
「殿下…あたし達は会議に参加する為に来たのですよ? あと、そんなに擦らないでください。血が滲む事はありませんが、少し痛いです」
グレゴワール君に口付けされた手の甲を、ナズナは服の袖で擦ってきたので、苦言を呈す。
ムッとしてしまったナズナは、あたしをグレゴワール君から遠い席、元々自分が座っていた席に座らせた。
隣にはエルがいる。
「エレオノール、シャルを頼む」
「承知しました、殿下。シャルさんに闇帝は近付けさせませんとも」
溺愛が過保護になりつつあるわよ、ナズナ。
あと、エルはなんでそんな乗り気なのかしら…。
◆◆◆
ナズナの予想通りギルドの運営についてや、称号持ちだが相性が悪すぎて撤退せざるを得なかった魔物の情報とかの会議だった。
「光姫、地仁と氷嬢が討伐出来なかった魔物、お前に任せていいか?」
地仁は、アスカリドさん。
氷嬢はフォルトゥナさんの事だろう。
二人の手に負えないって、結構な事ではないのだろうか。
称号持ちの中では、二人共トップクラスなのだろうし。
「地と氷に耐性ありですか…別に良いですけれど…殿下、そんなに見ないでください…」
ナズナが会議中ずっとあたしを見つめてくるものだから、凄く気が散る。
あたしの好きな顔、好きな目だから余計に。
ただ、ナズナの横であたしを同じように見ている、グレゴワール君の目線は鬱陶しく感じる。
「アルテミシア、俺も着いていっていいんだろう?」
「構わんが…」
ナズナの言葉にアルテミシアさんが許可を出した瞬間、はいはい、と元気よくグレゴワール君が挙手した。
「なら、僕も着いて行きます! シャルロットさんを魔物から守るのは、僕でなければなりませんからね!」
「…闇帝、言いたくはないが…正直足手纏いだと思うぞ、お前は。光姫の邪魔をしない方がいい」
アルテミシアさんにそう言われた彼は、机をバンっと叩く。
あまりの大きな音に、あたしはまた肩を揺らした。
「何故ですか?! 大体、二組で組むのなら、僕がシャルロットさんに相応しいと思うのですが!!」
正直な所、グレゴワール君みたいな人あたしは好かない。
むしろ苦手な分類に属する。
意思表示をする時、大声を出さなくてもいいのに出す所。
自分にとって不都合が起こると、物に当たる所。
そして、自分が常に正しく、人は自分に従うべき存在だと思っている所。
前世のお父様を思い出して、気分が悪くなってしまう。
「グレゴワール、黙れ。この会議中、お前がそのように振る舞うつもりなら、俺はシャルを連れて帰るぞ。お前のせいで場の空気も悪い。少しは慎め、馬鹿者が」
隣の席に座るナズナからの叱責に、グレゴワール君は黙った。
あたしを連れて帰る、という部分だけでのみ黙った感はあるが、それだけでもホッとするので、ずっと黙ってて頂きたい。
「なら、この後討伐しに行きますね、マスター」
「あぁ、そうしてくれ。さて、次の議題だが…」
アルテミシアさんがそう言うのと同時くらいに、扉の外が騒がしくなる。
彼女の眉が少し上がり、それを察してかクロエが扉の方に歩いていく。
扉を少し開け、2、3言話すと、彼はアルテミシアさんの傍に来て、あたし達に聞こえないよう耳打ちをした。
その動作はちゃんと副ギルドマスターをしていて、普段からこうならアルテミシアさんに殴られたりしないのにな、なんて思った。