釘刺すじゃん、エル。
まぁ、グレゴワール君はエルに任せて、あたしは大亀の観察を続ける。
「ルティ、あの瘴気可燃性だと思う?」
「つけて見なければわからんぞ、我が主。吾がブレスで焼き払っても良いが…」
ルティのドラゴンブレスなら、確かにさっさと片が付くだろう。
だが、その威力を知っているあたしからしたら、それは許可出来るものではない。
「貴方、ブレスの威力調節出来る?」
「我が主。なら聞くが、人間は呼吸をどう調節しているのだ?」
そう聞いてくるという事は、出来ないのよね。
ごめん、と謝り、大亀を見る。
大亀はその場に留まり、動かない。
今まで討伐者が来ていたはずだから、危険を感じて動くはずなのに。
何か理由がある?
「闇帝、いけません!!」
エルのそんな制止の声と、魔法発動は同時で。
思考に耽って、気がつくのが遅れた。
「
人のサイズぐらいの闇属性の槍が、大亀の腕を傷つける。
魔法の発動がこちら側だと理解した大亀が、咆哮をあげた。
その瞬間、瘴気が増したのを見てあたしは舌打ちをする。
「闇帝! シャルさんの邪魔をするなと、マスターから言われていたではないですか!! あぁ、なんて事…」
「シャルロットさん、僕の実力を見てもらえましたか!? やはり、殿下より僕の方が」
ルティが、グレゴワール君の口を塞いだ。
黙れ、と少し低めの声で彼は言う。
「我が主、如何とする?」
「…もう少し観察を続けたかったが、そこの愚か者のせいで出来なくなったな。ルティ、ブレスの使用を許可する。レヴィ、ルティのブレスの余波が他に行かぬよう、水流で止めろ。出来るな、二人共?」
ルティはグレゴワール君から手を離し、あたしに跪く。
レヴィもあたしの隣で大亀を観察していたが、ルティ同様跪いた。
「「承知」」
「では行け」
二人は元の姿に戻り、あたしの指示通りに動く。
大亀は二人に任せ、グレゴワール君…もう君づけはいいか。
あたしの邪魔をした彼の所に行き、腹を蹴り上げた。
「ぐふっ?!」
魔力を乗せたから、重い蹴りだった事だろう。
エルは自分が蹴られたわけではないのに、とても痛そうな顔でグレゴワールを見ていた。
「エル、止められなかったの?」
「申し訳ありません、シャルさん。闇帝がまさか、こんなに魔力を隠すのが上手な方だなんて。気が付いた時には、もう発動した直後でした」
なら、仕方ない。
そう思ったあたしは、グレゴワールの顔を踏みつける。
「ぐぅ…っ」
「ねぇ、お坊ちゃん。あたしはね? 穏便に片を付けようと思ってたのよ? あの大亀、今まで討伐に来た人達が沢山いたはずなのに、あの場から動こうとしてなかったみたいなの。それは何故だろうと疑問に思ってね。もしかしたら、あの瘴気が原因なのかしら、って」
あたしは彼を踏みつけた足に体重を乗せ、顔面を土にめり込ませた。
「それを貴方が台無しにした。これがナズナだったなら、貴方みたいな突飛な行動などしない。あたしの考えをちゃんと聞いてから動くわ……貴方、ナズナにとって代われると思ったら、大間違いよ。あたしはあんたみたいな奴、大嫌いだから」
そう言って足を退ける。
あたしに大嫌いと言われ、彼はショックを受けているようだが、そんな事知ったこっちゃない。
「レヴィ、ルティ。戦況はどうだ」
あたしは戦闘に入っている二人に問いかける。
〔我が主。此奴、硬すぎるぞ〕
〔ルティが全力を出しても、罅一つ入っておらぬ!! 何だこの硬さは!! 我が主の力で消し炭にした方が良いのではないか?!〕
二人が全力を出しても傷が付けられないって、どういう事?
大亀を見ても、魔法を使ってシールドを張っている気配はない。
なら自前のがあるのかと思ってサーチしても引っかからない。
「…もしかして、精霊の類?」
そんなまさか、と思いつつ、あたしの思考ではもうお手上げなので、彼女を呼んでみる事にした。
呼んで応えてくれるかは、分からなかったけれど。
「ミラ」
〈呼んだか、シャル?〉
迷いの森にある、精霊の祠にいるであろう彼女が、目の前に現れる。
まさか現れてくれるとは思ってなかったあたしは、少し驚いた。
〈何故そのように驚く? 呼んだのはお前だろうに〉
「いや、そうなんだけれど。貴女、精霊の祠から離れても良いの? 元素の精霊なのでしょう?」
うーん? と首を傾げたミラは、あたしに抱きついてくる。
〈私はお前と繋がっているからな。呼ばれれば、何処へでも現れる。それで、どうしたんだ? 何か聞きたい事があったんだろう?〉
あたしの力を調節するために同調してくれているミラは、あたしが疑問を抱いている事も理解しているようで、そう尋ねてきた。
「あの大亀、瘴気に侵されているけれど…元は精霊だったのではないかと思って」
〈うん? あぁ、ゲンブの奴じゃないか。誰かが、ゲンブに瘴気を埋め込んだようだな〉
やっぱり、精霊だった。
それに、ミラの知り合いっぽい。
どうにか助けてあげたい。
「ミラ、どうやったら瘴気を消せるかわかる?」