人間の魔法で回復できるかわからなかったから、安心した。
〈シャル。悪いが、ゲンブに結界を張ってやってくれないか? 誰がどのようにコアを埋め込んだかわからない以上、また同じような事が起こるかもしれない〉
ミラの言葉にあたしは頷き、ゲンブに時限付きの結界を張る。
ゲンブが回復し、動けるようになるまでの間だけ張られるように。
ひっくり返っていたゲンブが少し動き、目をこちらに向けた。
そして目を細めた後、一言だけ言葉を発する。
〈ありがとう〉
とても優しげな声でそう言い、目を閉じた。
「どういたしまして。ゆっくり休んでてね、ゲンブ。ありがとう、ミラ。呼びかけに応えてくれて。本当に助かった」
あたしの背後にいたミラに振り向いて、彼女を抱きしめると、ミラはあたしの頭を撫でてくる。
〈別に良い。困ったら呼んでくれ。では、四大が煩いから帰る。またな、シャル〉
そう言って、ミラは消えた。
あたしは結構存在を忘れてたエルを見て、苦笑する。
「ごめん、エル。あたしこれから城に行かなきゃ行けないんだけど…一人で帰れそう?」
「大丈夫です。シャルさん…私、今回の件を機にもっと精進しようと思います。いつか、シャルさんみたいになれるように」
あたしみたいって…人間辞めるって事になるんだけど…。
まぁ、エルがやる気に満ちているのだから、水を差すのはやめておこう。
◆◆◆
エルとその場で別れ、あたしはレヴィとルティを伴い、城の城門前に転移する。
いくらあたしがナズナの婚約者と言えど、いきなり城の中に出るのはまた違うと思ったからだ。
「こんにちは。シャルロット・マリアライト・テスタロッサです。用事が終わりましたので、ナズナ殿下にお目もじ致したく、参上しました。登城しても宜しいでしょうか?」
衛兵の人に、如何を問う。
だが、いつもはにこやかに通してくれる衛兵の人が、今日は少し厳し目の顔で、あたしだけに聞こえるよう小声で言った。
「シャルロット様、今日はやめておいた方がよろしいかと思います。城内が慌ただしくなっており、非常に緊迫しております。その、小耳に挟んだ程度ではありますが…臨戦態勢に入っているのだとか。なんでも、隣国が開戦を言い渡してきたそうで…」
あたしは驚いて、思わず自分の口元に手を当てる。
だから、ナズナだけでなくアルテミシアさんも呼ばれたのか、と納得した。
あたしは手を下ろし、衛兵を見る。
「…それでも、中に入れていただけないでしょうか。殿下が帰れと仰るなら、すぐさま下城致します」
「ですが…」
あたしを心配して衛兵の人は帰そうとしてくるが、あたしは元々ナズナの専属護衛だ。
こんな事で帰るわけにはいかない。
押し問答を続けていると、衛兵の人の肩に誰かの手が置かれた。
「ニーナ隊長…」
「シャルロット、殿下が呼んでいる。それにお前、殿下からシャルロットが来たら、すぐに城の中へ入れるよう通達が来ていたはずだぞ? 他の衛兵が私を呼んでなかったら、彼女は諦めて帰っていた事だろう。お前、殿下の意に背いたと処罰されるところだったろうに、まったく…」
彼が本気で、心配して言っていたのは分かっていたから、これ以上問答をして通してくれなければ、ニーナ隊長の言う通り帰る所だった。
ナズナに念話を飛ばしてからだが。
「ニーナ隊長、殿下はどちらにいらっしゃいますか?」
「謁見の間だ。他の21貴族の当主も集まっているから、お前のお義父上もいるだろう」
衛兵とニーナ隊長に礼を言い、あたしは早足で謁見室に向かう。
あたしが到着したのを見て、謁見室前の衛兵が扉を開いてくれた。
扉が開かれた事により、部屋の中にいた人達の目線が一気にあたしへと向く。
「お話の途中、大変申し訳ありません。シャルロット・マリアライト・テスタロッサ、参上致しました」
「シャルロット、こちらへ」
ナズナが、玉座に座る陛下の横からあたしに向かって、手を差し出してきた。
あたしは一礼してから部屋の中に入り、レヴィとルティを伴って彼の傍に行き、その手を取る。
〈一体何が起こってるのよ。説明して〉
念話でナズナに尋ねた。
彼はチラリとこちらを見た後、目線を前方に向ける。
「バルマバラットから、我が国に向けて宣戦布告があった。無血開城をすれば、命までは取らない、とな。だが、先の戦の折、バルマバラットはノースイットの侵攻を此方に報告せず、素通りさせた前科がある。皆も聞き及んでいるかとは思うが、バルマバラットは民に重税を課し、男は徴兵、女子供は慰み者となっている。処刑など当たり前で、敵対するものは全て殺す。対して、王族は裕福な暮らしをしているそうだ。その国が我が国に宣戦布告をした。何故か? 答えなど明白だ。我が国の資源を欲したのだろう事はわかる」
ナズナは、この場にいる者全員にそう説明し始めた。
ざわざわと、当主達が思い思いに話している。
当主達がいる場から少し離れたところに、アルテミシアさんの姿を見つけた。