「…心読まないでもらっていいかしら」
プイッと、ナズナから顔を背ける。
クックッと笑ったナズナは、あたしの頭を撫でてきた。
「目を覚ましてくれて良かった。もしかしたら、このまま眠ったままかもしれない、と侍医に言われていたものでな。ここ一月で、縁談の数が…」
「はぁ?」
口を滑らせた、といった感じで、ナズナは自分の口を塞ぎ、横を向く。
「ちょっと、ナズナ。縁談ってどういう事? 貴方受けたわけ?」
「受けるわけないだろう!! 俺にはお前だけでいいと言ったのに、親父達が勝手に縁談を持ってきやがって…全部断るのにどれだけ苦労したか…っ!!」
自分の太ももを殴りつけ、ナズナは怒りで肩を震わせていた。
痛そうと思うと同時に、申し訳ないと思ってしまう。
「それは…お疲れ様です…。ごめんね、ナズナ。余計な苦労をかけたみたいで…」
「…別に良い。お前が目覚めなくても、俺の妃はお前だけだ。他の女などいらん。お前が生きてさえいてくれたら、俺は…」
ナズナがあたしの手を取り、涙を流し始めた。
泣きそうになっているのは何回も見ていたが、本当に泣く姿は初めてで、あたしは驚く。
「ナズナ、泣かないで…あたし、無事だったわけだし…ね?」
「死にかけていただろう?! お前が倒れた後、生きた心地がしなかった…っ!!」
宮塚の時は三日だったのに、今回は一ヶ月も眠っていたのだから、それは心配するよね。
侍医さんからも、起きるかわからないって言われてたらしいし。
泣く姿も絵になるな、この人。
なんて、頭の片隅で思う。
「うっ、ぐ…っ!」
あたしは激痛を推して、起き上がった。
その声にナズナが慌てて、あたしの背に手を添えてくれる。
「ごめんね、ナズナ。泣かないで。あたし、ちゃんと生きてるから。今後は、あんな無茶しません。貴方より先に逝くつもりはないわ。出来れば一緒に死ねれば良いけれど…」
「シャル…」
彼の手を握り、あたしは微笑む。
そんなあたしを、ナズナは抱きしめてくれた。
「シャル…シャルロット…っ!!」
「うん…大好きだよ、ナズナ…」
彼が泣き止むまであたしはナズナの背を撫で続け、暫くしてから抱きしめる腕の力が強くなる。
どうやら泣き止んだようだが、今度は顔を見せるのが恥ずかしいらしい。
カヅキと一緒じゃん、と思ったのは内緒だ。
「ナズナ? まだ体が痛いのだけど。横になりたいわ」
「…俺も、横になる」
そう言ってあたしを抱きしめたまま、彼は本当に横になり、圧迫感であたしは眉を寄せる。
「ちょっと、重いのだけど。体重かけないでもらってもいい? こっち傷病人なんだけれど? 本当に息の根止まりそう…退いて」
「すまん…っ!!」
さっきまでいい雰囲気だったのに、この人ってば…。
あたしの言い方がキツくなったのは、まぁ、許して欲しいところではある。
「あたしが眠っている間、何があったか教えてもらえない?」
「あ、あぁ…」
あたしが眠った後、テスタロッサの兵達が敵方の本陣まで侵攻し、大将を捕えたらしい。
連れてこられたその人は、ナズナの従兄弟で名をアレクシスという。
陛下の姉君の息子なのだが、バルマバラットがあんな国になったのは、彼が原因だったみたい。
「王位を簒奪したようでな。伯母上も亡き者になっていたようだ」
こちらの国に侵攻したのも、そのアレクシスが自分の国で贅沢が出来なくなってきたから、リューネを自分のものとし更に贅沢三昧をしようと画策したから、だとか。
「…堕落者じゃないの」
「眠っているお前を見られた時なんて、アレクシスを殺しかけたぞ俺は」
美しい宝石のようだ、その美しさで何人の男を誑かして来たのだろうね。
ナズナにそう言ったらしい。
激昂したナズナを、ルティが抑えてくれたようだ。
ちなみに、あたしはレヴィに抱き抱えられていたみたい。
先週処刑は済んだそうで、バルマバラットはリューネの統治下に置かれるそうだ。
そして先月半ば、戦争が終結した直後。
ユキヤ君とオリヴィエさんの子供が産まれたと、ナズナから聞かされた。
「え、おめでたいじゃない」
「今の俺以上に泣いていたぞ、ユキヤの奴」
そりゃ、初めての子供だし。
好きな人との間の子供だから、尚更だろう。
経過も順調なようで、母子共に健康そのものらしく、あたしは胸を撫で下ろす。
そしてあたしはナズナを見て、少し眉を寄せる。
「貴方、泣かなそうよね。むしろ淡々と、そうか、で済ませそう」
「…シャル、俺はそこまで冷淡ではないぞ…? お前が苦しんでいるのに、冷静でいられるはずがないだろう…」
まぁ、あたしが一ヶ月寝込んで泣いちゃうくらいだから、そうなんだろうけど。
シンクから聞いたあの事が、たまに頭をよぎってしまうのだ。
「シャル? まさか、シンクの話を思い出してるんじゃないだろうな」
「…将来離婚…」
そう言うと、ナズナはベッドに突っ伏し嘆き始める。
本当にこの人は…あたしの事愛しすぎてないか?
将来大丈夫なのかしら、この国…。
ベッドに横になりながら、本気で心配になった日になった。
(補足)
この時代、経口接種出来なきゃ
死ぬような時代なんですが
なっちゃんが一ヶ月眠ってても
平気だったのは
魔力=栄養なので
死ななかっただけです
普通死にます
ナズナは毎日お見舞いに来て
雛桔梗になっちゃんは大丈夫なのかと
毎日聞いていました
だからなっちゃんが目を覚ました時
嬉しくて泣いてしまったのですね