すごいぼんやりしているように見えたんだけど、ゴネることあるんだ。
少し驚いていると、ナズナはそんなあたしの様子に苦笑した。
「アキカだって、人の子だ。クォーターエルフでもな」
「いや、別に人外扱いしたわけじゃないんだけど」
そう思われていたのかと、少し心外に思っていたら、前方からため息が聞こえた。
「イチャつくのは、馬車を降りてからにしてくれませんかね…」
「イチャついてはいない。ユキヤ、少し疲れているな? 眠れ。王太子命令だ」
ユキヤ君はやれやれと肩をすくめ、窓枠に頭を乗せて目を閉じる。
すぐに寝息を立て始めたところを見るに、本当に疲れていたようだ。
「ナズナ、よくわかったね」
「弟だからな。カナリア、楽にして良いぞ」
「すみません、殿下。やっぱり、ちょっとピリついちゃいますよね」
カナリアが苦笑している。
お疲れ様、カナリア。
◆◆◆
馬車に揺られて早四日。
残り行程半分になった所で、馬車に並行して護衛についてくれていた騎士の人達に話しかけられた。
「よぉ、嬢ちゃんがナズナ殿下の専属護衛だって?」
「…そうですけど」
不躾に話しかけられて、あたしは若干警戒する。
男の人が全員そうだとは限らないけど、エンリケの件もある。
礼儀を失した奴には、それ相応の態度でと決めていた。
「そう警戒すんなよ。ニーナの奴がベタ褒めする奴だからよ、ちょっと手合わせ願いてぇなって思っただけだって。嬢ちゃん達、あんま王宮の中から出て来ねぇじゃねぇか」
「それはそうでしょう。専属護衛が王宮を出てどうするんです」
それもそうだ、と騎士達は笑う。
一体何だと一層警戒を強めていると、宿の手配をしていたカナリアが戻ってくる。
「あれ、おっちゃん何やってんの? シャルが美人だからってちょっかいかけると、ナズナ殿下のお怒り喰らうよ?」
「おいおい、美人なのは認めるけどよ。ちょっかいはかけてねぇって…殿下! 本当に無実ですから!!」
馬車の中から、ナズナがこちらを見ていた。
確かにちょっと眉が寄って、不機嫌そうではある。
馬車に酔ったのかな?
それとも座り心地が悪かったから、機嫌が悪いのかな?
としか、あたしは思わなかったわけだけれど。
「シャル、こちらね。ロベルト・ダーカン第一騎士団長。ニーナ隊長の同郷で、飲み仲間なんだって。シャルに絡んだのも、脳筋だってだけだと思うよ? ニーナ隊長がよく言ってるの聞いてるし」
第一騎士団。
確か騎士団は王族直轄だと聞いたことがある。
その他に第二騎士団と続いて、第十騎士団まであり、魔法師団もあったはず。
じゃあ、王族親衛隊は何なのだとレイラさんに問うたら、騎士団は外の守りだが、親衛隊は中の守りだと教えられた。
「ニーナめ、余計な事を…」
「脳筋なのは認めるんですね、団長」
ケラケラ笑うカナリアに、うるせぇと言って小突く姿は、おじと姪にしか見えない。
血縁関係はないはずだけどね。
カナリアは平民の出だし、ロベルトさんはラストネームしかない辺り、下流から中流の間の人だろうと推測できた。
「あの、ニーナ隊長がベタ褒めって何を仰っていたのですか?」
「おん? 親衛隊の手練れをバッタバッタと切り伏せたとか、魔法の腕の覚えのある連中を屈服させたとか。後はそうだな…百人組手で息も切らさず、全員ぶっ倒したとかな」
あたしはカナリアの方を見る。
弁明してくれると助かったのだが、彼女は
「本当の事ばっか」
と言った。
えぇ、確かにそうですよ。
剣を持たせられ、模擬試合したら皆負かしてしまったし、魔法の練習って言われて複合魔法を使ったら、魔法が得意な隊員達は1から魔法の勉強を始めてしまったし、百人組手についてだって、多対一でどれくらいでへばるかの測定やったら全員吹っ飛ばしちゃったあたしですよ。
「だから、俺らと手合わせして欲しいんだよ。俺らもそれなりに王族の方達を守ってきたと自負があるんでな」
ロベルト団長以下、騎士達もうんうんと頷く。
「…ナズナ殿下の御許可が出たら、お相手しますけど…」
「おう、頼むぜ嬢ちゃん」
あたしはナズナの所に行って、今のやりとりを説明する。
だが、彼は呆れ返ったような表情で
「別に心配などしていない。ダーカンは妻子持ちだし、不貞を働くような奴ではない。信頼できる者の一人だ。本当にシャルと手合わせしたいだけなんだろうが…力量を見誤るとは、耄碌したか?」
と宣った。
「で、やって良いの?」
「流石に簡易結界は張れん。怪我をさせてはまずいだろう」
はい、ナズナは不許可だそうです。
ホッとしたのも束の間、カナリアがやってきた。
先ほどの話を聞いていたようで、
「殿下、シャル回復魔法も使えますよ?」
と余計な事を言ってくる。
「知っている。だが、シャルの力量は判っているな? 怪我をしても治しきれないだろう」
「いや、シャル
「カーナーリーアー!」
後ろから、カナリアの口を塞ぎ、ナズナから離す。