「えー、皆さんおはようございます。今年の文化祭ですが、明後日から開催となるようです。まぁ、各自羽目を外し過ぎないようお願いします。あぁ、今日から外部の人が出入りするので、干渉はしないように」
去年と同様、業者が入っての物になるのか。
今年は誰にも邪魔をされず、ナズナと周れたらいいな、なんて思いつつあたしはチラリとナズナの方を見る。
〈ナズナ、まだ怒ってるの?〉
〈なんで怒っていないと思っている〉
念話で会話してみたが、棘がついた返しをされてしまった。
嫉妬深い人だなぁ…あたしもだけれど。
〈ロゼを怒らないであげて。あの子、まだ自分の性別があやふやなのよ。カヅキはちゃんと確立させていたけれど〉
〈…シャル、そんなに俺を嫉妬させたいのか〉
頬杖をつきながら、ナズナはあたしをジロリと見る。
その視線が少し恐ろしくて、あたしは目を逸らしてしまった。
〈……別に、そういうつもりじゃ……ごめんなさい…〉
胸が痛い。
なんでそんな目であたしを見るの、ナズナ?
あたし、何か悪い事でもした?
あたしは先生が話している時だったが、挙手する。
「先生、大変申し訳ないのですが…少し体調が悪くなってしまって…早退させていただきたいのですが…」
「おい、シャル…!」
こんな早々帰りたくは無かったが、療養明けでナズナからのその視線は泣きたくなった。
別に浮気したわけではないし、あたしが罪悪感を覚える必要性もなかったが、ちょっと耐えられなかったのである。
「ナズナ君と一緒に帰りますか?」
「…いいえ、自分の専属護衛と共に帰ります…。ブリジットさん、すみません」
同じクラスに編入されていたブリジットさんが立ち上がり、あたしの傍まで来て鞄を持ってくれた。
「いいえ、テスタロッサ嬢。病み上がりですから当然です。殿下、命に変えましても無事に寮まで送り届けます」
そう言い、彼女はあたしの手に自分の手を添え、教室から連れ出す。
途中頭を撫でられたので、あたしがナズナの視線を怖がってしまったと、気付いたみたいだった。
◆◆◆
何事もなく寮に辿り着き、ブリジットさんはあたしを部屋まで送り届けると、
「ちゃんと鍵閉めておくんだよ、シャルロット。ナズナ殿下が心配するからね。あと、殿下も早退してくる可能性あるけど…大丈夫そ?」
「…はい、大丈夫です。多分…」
そう言った後、ルルが引き止められれば良いんだけど、とブリジットさんは苦笑しながら、部屋から出て行った。
いつもはいない時間帯。
時計の針だけが、鳴り響く部屋。
レヴィ達も何処かに行っているようで、物音一つしなかった。
「世界にあたしだけみたい…」
ポツリと呟く。
そんな事ある訳ないのに。
ブンブンと頭を振って、あたしはナズナと共用になっている寝室の扉を開ける。
ちなみに着替えは、同じ部屋ではしない。
彼が着替えとかを持ってお風呂場の方へ行くのだ。
まぁ、あたしの素肌なんて見ようものなら、理性がすぐ崩壊してしまうのだろうと、察しはしたが。
制服を脱ぎハンガーにかけ、寝巻きになっているネグリジェを着ようとした瞬間、玄関の扉が勢いよく閉まる音がした。
ブリジットさんが出て行った後ちゃんと鍵は閉めたので、入って来れるとしたら一人しかいない。
「シャル? 着替えているのか?」
扉がノックされる。
ナズナが帰ってきたのだ。
なんで貴方まで早退するのよ、馬鹿。
「そうだけど…なんで帰ってきたの?」
「……あの後、ロゼに謝り倒されてな。シャルが言ってた事が、正しいと気付いた。いや、お前はいつでも正しかったのに、狭量な俺がそれを理解していなかったんだ。すまなかった、シャルロット。怖がらせて、すまなかった…」
コツン、と扉がもう一度鳴る。
多分今の音は、ナズナの頭が扉に当たった音だ。
寝室の扉に鍵は付いていない。
入ろうと思えば入れるのに、彼はそうしなかった。
あたしが着替え中だと言った事もあるだろうが。
あたしはネグリジェを着て、寝室の扉を開ける。
少し泣きそうになりながら、ナズナがあたしを見ていた。
「…なんで、貴方が泣きそうになってるのよ」
「お前に申し訳なくてな…少し、嫌な想像もした。お前が俺に呆れ、別れて別の男と一緒になると。あぁ、お前の事は言えないな…」
あたしをキツく抱きしめ、ナズナの声が震え始める。
「俺の女神、俺の
「…別れたら、あたしの名前の方に傷がつくのよ。それ、貴方理解していて?」
王太子と別れた令嬢ではなく、王太子が婚約破棄した傷物令嬢として、あたしは扱われる事になるだろう。
社交界に行く気はないし、もう彼以上に愛せる人はいないと思うので、あたしは独り身で生きて行くしかない。
そこまで考えてから発言しているのだろうか、ナズナは。
200話いきましたー
というか、いつも喧嘩してるな
こいつら…