「全部に毒が入ってない事は確認してるけど…それは悪いから良いわよ。それに、あたし苦手なものないの。前世であったアレルギーも、今世ではないし」
アレルギー? とナズナが首を傾げたので簡単に説明する事にした。
「アレルギーっていうのはね、えっと…普通に食事をしたら毒を食べたような状態になる事かしら。アレルゲンっていうのがあって、それが体に合わなくて拒否反応を起こしてしまう…んだけど、理解出来てる?」
「…要するに、ある物を食べたらそれが体には毒になっていた、という事か?」
流石ナズナ。
この世界にはアレルギーという言葉自体ないし、存在さえ知らない人達が多いというのに。
頭の回転が速いのと、あたしの拙い説明で理解してくれるとは。
あたしの恋人、素敵。
「そう。あたし、前世では卵アレルギーだったの。軽度だと、蕁麻疹っていってね。身体中に赤い発疹が出来るの。重度だとアナフィラキシーっていって、呼吸困難や意識障害、最悪の場合死んでしまう、ってやつでね。あたしは重度だったの。それも幼い頃に食べた卵料理で発症したものだから、あたしの食事関連は長谷川…ターニャが全て管理してくれてたの」
フランクフルトを魔法で串から外し、風魔法で一口大に切ってから、創造魔法で作ったフォークで食べる。
ナズナも別の物を食べながら、あたしの話を聞いてくれていた。
「前世のお父様達は、そんなもの甘えだって考えだったんだけど、ターニャが根気強く説得と説明を繰り返ししてくれて。コンタミネーション、っていう…アレルゲンと別のものが接触しないように、ってうちの料理人達にも言ってくれて、細心の注意を払ってくれてたの。カヅキに料理を教えてたのも、その為だったんだろうなぁ。自分が年老いて何も出来なくなった時に、あたしを守れるようにって」
「…発症したら、どう対処してたんだ?」
ナズナが真剣な顔であたしに尋ねる。
うーん、とあたしは覚えている限りの事を、彼に話す。
「食べてしまうと、あたし呼吸困難になっていたから…確かカヅキが、小学校の頃間違って食べて倒れてしまったあたしの太腿に、注射を打ってくれていたような…意識が朦朧としてたから、これ以上は覚えていないの。次に気が付いたら、病院のベッドの上だったし」
「そうか…今は、本当にないんだよな?」
ないない、とあたしは食事を進める。
それは、雛桔梗にもチェックしてもらって確認済みだ。
でも、記憶を思い出す前にそれをやっていたあたし偉い。
死にたくないという気持ちで、アレルギーってやつがあるのか気になったあの時のあたし、グッジョブ。
あたしの言葉に、ナズナがホッとしていた。
まぁ、アレルギーであたしが倒れました、なんて彼には絶対対処出来ないし、そもそも薬自体この世界にはないだろう。
気付け薬ぐらいはあるだろうが、アナフィラキシーには効かない。
原因不明の病として、処理されるのがオチである。
「…これ、どうやって食べるのかしら」
次に食べようと思っていた物を見ながら、あたしは呟く。
薄焼きの生地と同じく、薄く焼いた卵の間にキャベツと焼きそばが挟まっていた。
それが薄い紙のお皿に乗っている。
あたしはそれを真横から見た。
「…手では…食べられないわよね。挟むものもないし…うーん…?」
「いや、普通に切って食べるんだぞシャル…お前、これも食べた事なかったのか?」
ナズナが驚いた顔をあたしに向ける。
傾けていた体を起こし、肩を竦めた。
「あるわけないでしょう? むしろ、食べさせてもらえなかったわよ」
「聞きたいんだが、お前の家はどうなっていたんだ…」
どうとは、どういう意味だろうか?
あたしの食生活がどうなっていたのかという問いだろうか?
それとも、あたしの家族の話だろうか?
取り敢えず、聞いてみよう。
「どうって? どういう意味?」
「お前の前世の家族とか、色々だ。一体どういう生活してたんだ、お前」
言われたので、あたしは思い出せる範囲で話す。
そう言えばノーム1の月、デートした時にそんな話をしたけれど、あたしは詳しく彼に話していなかったな、と思いつつ。
「朝6時に起床、身支度を整えて食堂に行き、お父様達に挨拶と朝食の時間。学校に向かう前、間で予習と復習。午前9時から15時まで学校。帰宅の間に、お父様からの命令で経営学をターニャから習い、帰宅後各種レッスン。20時に夕食。その時もお父様達に挨拶。21時から午前0時までターニャから各国の言語、作法を習う。午前1時までに入浴を済ませて、入眠。って生活を物心ついた時から死ぬ前までずっとしていたわ。睡眠時間は平均4時間から5時間くらいね」
あたしが思い出しながら言うと、ナズナが自分の顔を覆ってしまった。
何かおかしかっただろうか?
「シャル…流石にそれは…スパルタ過ぎないか…?」