「あたしに言わないでよ。そう命令を下してきたのは、前世のお父様なのだから。それに、大変だったのはターニャだったと思うわ。メイド長の業務の傍ら、あたしに付きっきりで、色んな言語とか経営学とかを教えていたのだから。それに加えて、あたしの食生活の管理とかもしていたのよ? いつ休んでいたのかしら」
過労死してもおかしくなかったのに。
「あのカヅキの師匠だろう? それこそ、転生者だったのかもしれんがな」
「そんな馬鹿な。長谷川だって、ちゃんと人だったのよ? あたしみたいな人外ではなかったわ」
そう言うと、彼から軽く額を叩かれた。
「…痛いじゃないの」
叩かれた額を撫でながらナズナに文句を言うが、彼はあたし以上にムッとしている。
「自分を卑下するなと言ったはずだぞ、シャル。お前は人外ではない。俺の愛しい妃だ。わかったな?」
「…貴方って人は…何回あたしを泣かせるつもりよ…」
プイッ、とあたしは顔を横に向けた。
そんなあたしを見て、彼は苦笑する。
「泣かせたくはないんだがな。ほら、シャル口を開けろ」
ナズナが先程の料理を、マスターした箸で器用に持ち、あたしに差し出してきていた。
あたしは素直に口を開ける。
口の中に入った料理を咀嚼し、あたしは目を丸くした。
「…美味しい…!」
「だろう? 俺も結構好きなんだ、これ」
ナズナもあたしに差し出してきた箸で、普通に食事しているのを見て、あたしは少し恥ずかしくなり目を逸らす。
そんなあたしを見て、彼は少しだけ首を傾げた。
「どうした、シャル?」
「いや、あの…間接キス、だなぁ…と、思ってしまいまして…」
あたしの発言に、ナズナは箸とあたしを交互に見て吹き出した。
「おま…っ! いつも、キスしてるじゃ、ないか…っ! 何を今更……くく…っ!!」
「そんなに笑う事ないじゃない?!」
ツボに入ってしまったようで、ナズナはずっと笑っていた。
それに対して、あたしはジト目で彼を見てしまう。
「いや、悪かった、シャル…! お前、それで恥ずかしがって、いたら…くく…っ! それ以上の事をする時、
「もう…っ! 笑い過ぎよ、酷いわあなた」
体ごと顔を背けると、笑い過ぎて涙が出ていたナズナが立ち上がったようで、あたしが座っていた席に来て後ろから抱きしめてくる。
「シャル、そんなに拗ねないでくれ。俺が悪かったよ」
「別に拗ねてないわ」
拗ねてはいない。
あの発言であんなに笑うものだから、ちょっとだけ悔しかっただけだ。
爆笑されるとは、思っていなかったから。
「シャール?」
ナズナが顔を覗き込んできて、そのままキスをされる。
ここが奥まった席で良かった。
周りからは見え辛いから。
「ナズナ…貴方ね…!」
非難めいた目線を投げるが、彼は優しく微笑むだけだった。
「好きだ、シャルロット。愛してる。お前の意外な一面が見れて、嬉しかったんだ。もっと、俺に見せてくれないか…? もっと…お前を知りたい…」
そう言いつつ、彼はもう一度キスをしてくる。
あたしもそれを受け入れ、暫く唇を合わせていた。
「…ナズナ、も、長…っ!」
彼の肩を押し、離れさせる。
ナズナはちょっと名残惜しげだったが、あたしは少し息が上がってしまっていた。
「シャル、食事を終えたら今度は何処に行こうか? 今年もベルファが何か出しているようだぞ」
「……じゃあ、そこに行きましょうか。今年も絶叫系じゃなければ良いわね、ナズナ?」
ニコリと彼に笑むと、ナズナが引き攣り笑いを返してくる。
よほど去年の事が堪えたらしい。
その表情が見れただけで、あたしは良しとした。
◆◆◆
「…? 何かしら、ここ」
テスタロッサの催物会場が今回は室内だった事もあり、あたしはナズナと連れ立って来てみた、のは良いのだけれど。
色んな機械が、所狭しと並べられている。
多分、遊ぶものなんでしょうけど。
どうやって遊ぶのか、さっぱりわからないわ…。
音も五月蝿いし。
「カヅキがいたら聞けたのかしら…」
あたしと違って、彼女は結構外の世界の事を知っていたから。
これもどう遊ぶのか、分かったはずだ。
「あ、お嬢様ー!」
聞き慣れた声にそちらに顔を向けると、去年と同じくチェルシーがあたしに手を振ってきていた。
「チェルシー! ここどういう場所なの?」
機械の音が大きいため、結構な大声でないと自分の声も相手の声も聞こえない。
チェルシーはえーと、と少し考えて説明を始めてくれた。
「ここ、奥様が言うには、ゲームセンターの音ゲーコーナーと呼ばれる場所を再現したみたいです! お嬢様が来たら、パンフレットを渡して説明しろって言われました!」
「…ターニャ…」
貴女、何でもかんでもあたしの行動予測しすぎじゃ無いかしら。
流石、あたしの元世話係。
小さい頃から世話をしてきたから、あたしの行動予測は立てられるという事なのだろう。
「はい、お嬢様! パンフレットです!」
「ありがとう! えーと…?」
この場所の地図と、設置されている機械の種類、その説明がパンフレットには載っていた。