ここは入り口で、そして設置されている機械はどうやら太鼓のようだったが、あたしは首を傾げる。
「どうやって、太鼓で遊ぶのかしら?」
叩く以外何もないと思うのだけど。
説明文を見ると、音楽と共に流れてくるマーカー通りに太鼓を叩いて遊ぶものらしい。
ナズナも音に少し顔を顰めていたが、あたしの後ろからパンフレットを覗き込む。
「面白そうだな。やっていくか、シャル?」
「…でも、結構人がいるわね」
そちらをチラリと見ると人だかりが出来ていて、順番待ちが発生していた。
台数が多いとは言ってもだ。
「少し見て回ってから、面白そうと思ったもので遊びましょうか。チェルシー、ありがとう。お仕事頑張ってね」
「はい、お嬢様! また冬休みになったら、テスタロッサに帰ってきてくださいね! メイド一同、お嬢様のお帰りをお待ちしています!」
あたしはそれに対して、微笑むだけにしておく。
結婚したら、帰ろうと思っても帰れないだろう。
里帰りさせてもらえるとしたら、出産の時くらい…?
いやナズナの場合、心配だから城で産んで欲しいとか言いかねないな…。
チェルシーと別れ、少し歩いてから難しい顔をしていると、ナズナが苦笑いをした。
「シャル? 別に、お前へ二度とテスタロッサに帰るな、とは言っていないぞ。帰りたかったら、帰れば良い。その間の業務は、全て俺がしよう。だから、テスタロッサに帰りたくなったら言ってくれ。快く送り出そうじゃないか。だが、早く帰ってきてくれよ? 寂しくて俺が死んでしまうからな」
あたしの肩を抱き、ナズナはあたしの頭へ頬擦りをしてくる。
歩いているのに器用な事だ。
「…心読まないでもらっても良いかしら…でも、ありがとう。そう言ってもらえて、少し気が楽になったわ。それに、貴方が寂しがり屋だなんて初めて聞いたわ。ふふ…ちゃんと、貴方の所に帰ってくるわよ。貴方の隣は、あたしの場所なのでしょう?」
そう尋ねると、ナズナは頭から顔を離し、あぁ、と頷いてくれる。
暫く歩いていると、あまり並んでいない機械を見つけて、あたしは首を傾げた。
「なんでここ、人いないのかしら?」
「…今まで見てきた奴は、腕とかしか動かしていなかったが、これは足を使うからじゃないか? だから疲れて、皆他の所に行っているのかもな」
成程。
あたしはパンフレットの説明文を見る。
確かにナズナの言う通り、これは足元にある板を踏んで遊ぶものらしい。
一応一人でもプレイ出来るみたいだが、二人でも出来るみたい。
「ナズナ」
「あぁ、やってみようか」
ボタン入力だけでプレイ出来るみたいで、お金はいらないようだった。
本来ならコインを投入する口も、今はテープみたいなもので塞がれている。
「最初はイージーから…」
音楽が流れ、目の前のディスプレイに矢印が上から下へと流れていく。
それを、足元にある板に対応した矢印を踏む事でプレイするようだ。
イージーを選んだ事により、あんまり流れてくる矢印が多くなくて少し物足りなさを感じる。
ナズナもそう思っていたようで、今度はハードでやってみようと言われた。
ハードを選んでやってみたが、流れてくる矢印の数が多くなり、あたしは本当にステップを踏んでいるような感覚に陥る。
「これ、本当にゲームなの?!」
「ゲームだろう。ふむ、中々面白い。体を動かして遊ぶものだから、あまり皆が寄り付かなかったのか。俺は好きだぞ、こういうの」
タタタタン、タンタン。
そんなリズムで、あたしとナズナはステップを踏んでいく。
所々、あたしとナズナのプレイで違う所が出てくるが、それもまた面白い。
三回くらいやっていると、人だかりが出来ていてあたしはナズナに言う。
「人増えてきたし、ここら辺でやめにしない?」
「そうだな。汗もかいたし、やめておくか」
プレイが終わり、あたしとナズナが板から降りると拍手喝采に見舞われた。
驚いていると、ナズナが苦笑しながらあたしに耳打ちしてくる。
「多分、俺とお前のプレイが皆からは踊っているように見えたのだろう。シャルは見目も良いしな」
「それを言うなら貴方もでしょう、ナズナ。まぁ、良いわ。お夕飯のご飯買って帰りましょう?」
そうだな、と彼は言い、あたし達は連れ立ってその場から去った。
◆◆◆
寮に帰ってきて、ナズナは汗を流してくるとお風呂場に行ってしまった。
あたしはお夕飯の食べ物を冷蔵庫に入れた後、甘いものが食べたくなって買ってしまったものを、机の上に広げた。
クレープ、苺大福、あんドーナツ、ロールケーキ、苺のショートケーキ、クレームブリュレ。
「クレープはお皿に乗っている物は食べた事あるけど…甘くなかったのよね」
それもそうだろう。
材料の中に卵が入っているのだから。
そこの知識だけはある。
それに、出された物は野菜とかお肉とかと一緒に出てきた。
クレープが食べてみたいと言ったあたしへの、長谷川なりの苦肉の策だったのかもしれない。
「本当、我儘だったなぁ…長谷川にも迷惑ばっかりかけて」