「俺も小耳に挟んだ程度だが。三年は学年別対抗戦がなくなったそうだ。本来なら三学期辺りで行く予定ではあったそうだが…その…お前の実力を見た生徒達から、校長に直談判があったそうだぞ。あれと戦いたくない、死なないとしてもトラウマになる、戦争の英雄となんて死んでもごめんだ、とか何とか」
それはそれは。
あたしも、ナズナとまた戦う事になるなんてゴメン被るので、正直それは助かる。
「まぁ、最近はやっかみも無くなってきたから、そうでしょうよ」
「俺はお前と戦いたかったけどな。今度は負けないつもりだったんだが…」
クレープを食べ終えたあたしは、その紙ごみをナズナに投げつけた。
それをキャッチする彼の隙をついて、あたしは背後に素早く転移し、ナズナの首に手をかける。
「貴方、これ反応出来ていて? ここが戦場なら、貴方もう死んでいるわよ?」
「……俺の発言が悪かったのは、理解出来た。シャル、すまない。泣きそうにならないでくれ」
カヅキの催眠療法でマシになったとはいえ、ナズナを殺してしまったというトラウマは無くなるはずなく。
あたしは手を離し、後ろから彼を抱きしめる。
「…戦闘狂、人でなし、女たらし、馬鹿王子」
「…女たらしって…別にお前以外に好かれたいとは思っていないんだが…あぁ、泣くなシャル。俺が悪かったよ」
ボロボロ涙を流し、嗚咽が漏れるあたしの頭をナズナは撫でてくれた。
いつもなら立ち上がって抱きしめてくるのだが、あたしが後ろからそうしているので立ち上がる事も出来ないのだろう。
暫く泣き続け、もう涙も出なくなってきた頃、あたしはナズナから離れた。
「ごめん、感情的になった…」
涙を拭い、彼の横を通り過ぎようとする。
だが腕を掴まれ、立ち上がったナズナの腕の中に閉じ込められた。
「シャル…シャルロット…すまない…許してくれ。また俺は、お前の傷を増やしてしまったらしい…すまなかった、シャルロット…」
「…良いよ。貴方がそういう人なのは、解っていた事なのに。感情的になったあたしが悪いの。気にしないで、ナズナ」
ふっと笑うと、ナズナは少し悲しそうな顔をした。
本当に気にしないで欲しいのに。
「そんな貴方も愛しているから。ね、ナズナ」
「シャル…本当にすまなかった。俺も、お前を愛している」
コツン、と額を合わせてきたナズナは、そのままあたしから手を離した。
キスしないのかとあたしは彼を見るが、ナズナは苦笑しながらあたしの甘いものを指差す。
「温くなったり、クリームが溶けたりして不味くなるぞ」
「…ありがとう」
あたしが甘いものを食べている姿を、微笑ましく見ていたものね貴方…。
◆◆◆
文化祭二日目。
朝ご飯はどうしようと思っていると、ナズナが麺類のコーナーに連れて行ってくれ、二人で麺類を啜る。
吾妻からも出店しているらしく、これはラーメンという食べ物だと教えられた。
人前で啜るのが恥ずかしくて、あたしは蓮華と呼ばれるスプーンでラーメンを食べていく。
寒い中食べる温かい物は身に沁みて美味しい。
お腹も膨れたので、あたし達は校内に入って何か面白いものがないか見て回った。
「…お化け屋敷?」
「シャル、入ってみるか?」
文字を読んだだけなのに、ナズナはそう尋ねてくる。
あたしはそれに、呆れた目を向けた。
「貴方が入りたいだけじゃないの、それ」
「…いや、うん。正直、こういう系は初めて見てな。前にも話したが、一年の頃はヴィオレッタに連れ回され、見る所ではなかったし…」
二年の頃はあたしの事があって、一人で見て回る気にもならなかったんだろう。
あたしが悪いわけではないし、アズール商会のあの先輩が悪いのだが、ごめんナズナ。
「じゃあ、入りましょうか。あたしだけ楽しんでも悪いもの」
そう言って、あたしは笑いながら彼の腕に抱きつく。
これはデートなのだ。
お互い楽しまなければ意味がない。
だが、その判断をした事をこの後後悔する事になる。
ナズナと共に入ったお化け屋敷は教室の一区画のはずなのだが、魔法で規模を拡大しているらしく結構な広さがあると感じた。
それに加えて、風魔法を使っているのか若干生ぬるい風が吹いているし、土魔法で草も生やしていて、雰囲気はバッチリである。
室内も少しの照明しかなくて、薄暗い。
不気味さが凄くて、あたしはナズナの腕を抱きしめる。
「シャル、痛い」
「ご、ごめんなさい…でも、ちょっと怖くて…雛桔梗、あたしの筋力もリミッターかけられないかしら…」
もしかしたら、恐怖でナズナの腕を折ってしまうかもしれない、と危惧したあたしは、雛桔梗に尋ねる。
【我が主の筋力も魔力由来ですので、完全にリミッターをかければ、問題ないかと思われます】
「じゃあお願い…」
ガチン、と頭の中で音がして、あたしは少し脱力した。
ナズナが心配するが、問題ないと彼に返す。
「うわ…体が重い…。成程、これが魔力がない状態なのね…。最初から、リミッターつけていれば良かったかしら…」
そうしたら面倒事も減った気がしなくもない。