その場合、ナズナと会えても恋人になる可能性はなかっただろう、とは思うけど。
「雛桔梗、貴女大丈夫?」
【問題ありません、我が主。私のバッテリーはあと一週間保つ予定です。予定外の戦闘がない限りはですが】
そんな事になったら、すぐさまリミッター外してもらうわよ。
ナズナの腕に抱きつきながら、あたしはお化け屋敷内の道を進む。
途中、脅かし役の人が出てきて悲鳴をあげた。
そんなあたしを見たナズナは少し驚いているようで、抱きつかれている腕とは逆の手で頭を撫でてくれる。
「シャル、お前怖いのスピリット系じゃなかったか?」
「何よ! 普通にこういうのも怖いでしょう?! 今、魔力も何もない普通の女の子になってるのよ?! なんでナズナ平気なの?! す、少しは、あたしを労っ…きゃあぁぁあっ?!」
目の前に逆さになった脅かし役が出てきて、あたしはまた悲鳴をあげた。
ナズナはやれやれ、と苦笑したようであたしの腕を外し、子供を抱き上げるような抱き方をする。
「ナ、ナズナ?」
「目を閉じていろ、シャル。お前、案外怖がりだったんだな」
彼の肩に顔を埋め、あたしは言われた通り目を閉じた。
音も怖いのに、ナズナが守ってくれている安心感がある。
いつもは、あたしが彼を守っているはずなんだけどなぁ。
ちょっとおかしくて、クスリと笑ってしまう。
「シャル?」
「ううん、何でもない。守られるって、こんな感じだったなぁって思い出しただけ」
その言葉が彼には嬉しかったようで、あたしの頭に頬擦りをしてくる。
暫く歩いていた感覚があったが、唐突に彼が止まった。
「ナズナ?」
「シャル、お化け屋敷から出たぞ。もう目を開けて大丈夫だ」
ソローっと顔を上げて薄目を開ける。
確かにもう薄暗くなく、一般生徒の話し声も聞こえ始めていた。
あたしはホッとして、ナズナを見る。
「ありがとう、ナズナ。降ろしてもらっていい?」
「この状態で歩きたいんだが…」
流石にそれは恥ずかしいんですが。
いやいや、とあたしは首を横に振った。
「そうか、嫌か…残念だ」
本当に残念そうに、ナズナはあたしを降ろしてくれる。
人がいなければ、別に良いのだが。
あたしはナズナにだけ聞こえるよう、こっそり耳元で言う。
「帰ったら、いくらでも抱き上げてくれて良いわよ。人前なのが恥ずかしいだけだから」
「…絶対だぞ」
彼の真剣な顔に、あたしは頷いた。
というか、一緒に寝てもいるのにスキンシップ足りないのかしら?
◆◆◆
またテスタロッサの音ゲーコーナーに行ったり、食い倒れを満喫したりと二日目も楽しく過ごして三日目。
最終日の今日。
ナズナが朝から離してくれなくて、あたしは少し困った。
「ナズナ? 文化祭は? 行かないの?」
「…今日は、シャルとゆっくり過ごしたい」
と言っても、朝ご飯とかどうしたら…。
まだ食材はあるから、作れはするけれど。
「…ナズナ、疲れちゃった?」
ベッドの中の彼の頭を撫でる。
コクリと頷いたナズナは、あたしの胸に顔を埋めてきた。
少し恥ずかしかったが、彼の頭を抱きしめる。
「…卒業まで、あと四ヶ月だね。ねぇ、ナズナ。あたし、ウェディングドレスは可愛いのが良いな。一生に一度だから、貴方と決めたい。どんなデザインが、あたしに似合うと思う?」
スッと顔を上げたナズナが、そうだな、と言いつつ目を閉じた。
「お前は、色んなのが似合うからな…美姫なのも考えものだな、シャル…。体の線が出ているのも良いが…裾が広がっているデザインもいい…」
「ナズナ、貴方眠いんでしょう?」
うん、と頷かれたので、仕方ないなと笑う。
「息苦しくない? 離れましょうか?」
「嫌だ…シャルの、甘い匂いが…離れるのは…俺の…傍、に…ずっと…」
すー、とその言葉の後寝息が聞こえてきて、彼の体が脱力する。
あたしは起こさないようにそっと抜け出し、音を立てずに扉を開閉した。
というか甘い匂いって何。
あたしそんな匂いさせてたの?
自分の匂いを嗅いでみるが、やはりよく分からない。
まぁ、分からないものを考えた所で仕方ないので、あたしは魔法で家事をする。
「技術革新が進んでて良かったなぁ…それはターニャに感謝しなきゃ…」
三種の神器と言われている、冷蔵庫、洗濯機、掃除機が普通にあるのは有り難かった。
でなければ、夏の食材保管は大変だっただろうし、掃除はまぁ、箒とちりとりがあれば何とかなるとして。
洗濯は流石に、ナズナの下着とかは恥ずかしくて触れない。
家事を終了して、あたしは一息つくためにお湯を沸かしてお茶を淹れる。
学校の方からは結構な騒がしさが聞こえたが、寮の中は静かだ。
砂糖とミルクを入れてぼーっと飲んでいると、寝室の扉が開いた。
そちらに目を向けると、寝ぼけ眼を擦りながらナズナが出てくる。
「…すまん、シャル…今何時だ」
「まだ午前10時よ、あなた。おはよう、あたしがいなくてよく眠れたかしら?」
尋ねると、眠る直前の事を思い出したのか彼の頬が少し染まった。