「…なんか、すまん」
「甘えん坊な貴方、可愛かったから良いわよ」
ふふふ、と笑うとナズナはあたしに近寄ってきて、キスをしてくる。
おはようの挨拶だろうと、あたしはそれを受け入れた。
「…紅茶の味がする」
「それはそうでしょ。今飲んでいるのだから。貴方も飲む?」
聞くと頷かれたので、もう一杯入れて渡す。
受け取ったナズナはそれを飲み、あたしに微笑んだ。
「寮の中が静かだな。俺達しかいないみたいだ」
「みんな、文化祭に行っているんでしょう。貴方、今日は行かなくて良いの?」
良い、と言われたので、じゃあ朝ご飯どうしようと冷蔵庫の中を覗く。
「シャル」
「んー? なぁに、あなた」
冷蔵庫の中を覗きながら、ナズナに返事をする。
右手を取られ、手の甲にキスを落とされた。
いきなりどうしたのかとそちらに目を向ければ、あたしを愛おしそうに見る彼の目と合う。
「結婚式で着るドレス、冬休みに城に帰ったら選ぼうか。各王妃が着たものが今も保管されているんだが…それが嫌なら、新しくデザインしても良いな。俺達がやる事なんて、あまり無いんだ。後は、マリッジリングだけだが…それは、俺の方で用意しよう。シャル、俺の気持ちはあの頃から変わっていない。お前を何者からも守ると誓う。だから、安心して嫁に来てくれ」
「ナズナ…それプロポーズのつもり? もう…貴方って人は。あの時に言われた言葉の方が、グッときたわよ」
クスクス笑うと、ナズナは少しムッとしてあたしの前に跪いた。
「シャルロット、俺は生涯お前だけを愛すると誓う。この気持ちは、不変のものだ。だから、俺と生涯を共にして貰えないだろうか…俺の、最愛の
そう言い、彼は懇願するようにあたしの手の甲に自分の額をつける。
懇願されなくても、あたしの答えは既に決まっているのに。
「…こんな未熟者で、貴方に迷惑ばかりかける不束な女ですが…よろしくお願いします、ナズナ王太子殿下」
あたしの言葉にナズナは顔を上げ、嬉しそうに笑う。
「何が未熟者か。お前ほど完璧な淑女を、俺は知らない。迷惑など俺の方がかけているだろう。あぁ、シャルロット…愛している」
唇にキスを落とされ、あたしは冷蔵庫の扉を閉めつつそれを受け入れた。
キスが深いものになっていって、あたしは立っていられなくなったが、それもナズナが支えてくれる。
「…ナズ、ナぁ…」
「…シャル、もうちょっと…」
もう止めてと懇願するが、ナズナはまだしていたかったようで、そう言われてしまう。
何分経っただろうか、気が済んだナズナが唇を離し、あたしは息を荒げながら彼の胸に顔を埋めた。
「し、しつこい…っ! いったい、どれくらい、していたいのよ、貴方は…っ!!」
抗議してみるが、ナズナはあたしを抱きしめつつ苦笑する。
「出来れば、ずっと。お前が愛おしくて仕方ないんだ。多種多様な生物の中にはオスを取り込むメスがいるらしいが、俺もお前に取り込まれて生涯共にいたいと思う時がある」
「…いや、サイコパスなのかしら貴方。嫌よ、あたしは。あたしの中にいるなんて、そんなの触れ合えないじゃないの。貴方の熱を感じて、肌に触れて、キスをして。それが出来ないなんて、貴方がいないのと一緒だわ」
ナズナは驚いたみたいで、あたしを自分から引き剥がした。
一体なんだと彼を見れば、顔を真っ赤にしている。
「…シャル、煽らないでくれ。今一瞬、理性が揺らいだ…」
「貴方が馬鹿な事言い出すからでしょ。ほら、朝ご飯何食べたい? 文化祭に行かないのなら、何か作らないと」
お前を食べたい、なんて言い出すものだから、頭を殴ってやった。
少し冷静になれ、ばーか。
◆◆◆
朝ご飯を食べたあたし達は、特に何をする訳でもなく、ボーッと手を繋ぎながらソファーに身を預けている。
家事はナズナが起きてくる前に終わらせたので、本当にする事がない。
「…シャル、本当に静かだな」
「外の喧騒の音が聞こえるとは言えね。確かに静かで眠くなるわ、あなた」
そうだな、なんてナズナは返してきたが、欠伸を噛み殺しているようだ。
「なんで貴方そんなに眠いの?」
「…いや、お前が寝ている間に、仕事片付けてて…あのクソ親父…書状で、俺が学校を卒業したらすぐ戴冠式するとか…言ってきやがって…」
それは、まぁ。
自分の奥さん達と何処かで暮らす算段でも立てているのかしら、陛下は。
それはそれで、別に構いやしないけれど。
「怒りで叫び出しそうになるの、我慢して…お前を起こさないように…」
「起こしてくれても良いわよ。仕方ない人ね、ほら膝枕してあげるからまた寝なさいな」
あたしの言葉通りに動いたナズナは、あたしのお腹辺りに顔を埋めた。
「…お前の匂い、安心する。こんなに、安心出来たの…お前に会ってからだ。お前は母性の塊だな、シャル…」
「はいはい、眠くて何言ってるか自分でもわからなくなってきてるでしょ? 寝なさい、ナズナ。ずっとあたしは、傍にいるからね」
その言葉に安心したのか、ナズナはすぐに寝入ってしまう。
あたしは愛おしくて、彼が起きるまで頭を撫で続けた。