「余計なこと言わないで! 親衛隊の中だけのみならず、他にもあたしの噂が飛び火するでしょう?!」
「えー? もう皆噂してると思うよ? 団長だって、シャルの噂聞いたからどんなもんか、って事で手合わせしたいって言ったんだろうし」
それはそうだろうけど…そうだろうけども!!
ナズナの方をチラリと見る。
彼は少し考え込んでいるようだった。
嫌な予感がひしひしとする。
「ふむ…シャル、後始末は出来るな?」
ニヤッと笑って、ナズナはあたしに命を下した。
ほーらー!
言うと思ったー!
「…御意」
不服そうに言うと、彼は途端笑い出す。
あたしは更に自分の眉が寄るのを感じた。
「何をそんなに笑っているんですか、殿下」
「いや、結末が予想出来てな。シャル、思い切りやってこい」
しっしっ、と手を振られ、あたしは踵を返す。
団長さんには悪いが、八つ当たり相手になってもらおう。
◆◆◆
「よぉ、嬢ちゃん。どうだった?」
「…殿下から、許可は得ました。貴方方が決めた方法で手合わせします。誰でもお好きなのでどうぞ」
声が先程より低くなっているのを自覚するが、こればかりはしょうがないと言いたい。
何でどいつもこいつも、強い奴に戦いを挑んで来るんだか。
それもこれも、あの筋肉バカが神だからか?
「よーし、んじゃやろうや! お前ら、何でこの嬢ちゃんと戦いたい?」
「組み手ですかね」
「剣がいいな、俺は」
「魔法の腕がどんなものか、ちょっと見てみたい気が」
三者三様の答えが返ってくる。
滅茶苦茶バラバラじゃない…。
団長さんも少し困っているようだし。
「お前ら、意見は一つに統一しろって言ってるだろ」
「良いですよ」
あたしの了承の言葉に、団長さんが目を丸くする。
「全部出来んのか? 嬢ちゃん」
「やろうと思えば」
やり方はいくらでもあるし、今むしゃくしゃしているので合法的なサンドバッグになってもらいたいというのもある。
「なら、俺は最後に相手してもらうわ。お前ら、嬢ちゃんに力見せてやんな!」
「「「オスッ」」」
体育会系特有なのかしら、あぁいう返事の仕方って。
3人は陣形を組んで、あたしに向かってきた。
1人は剣で斬りかかり、もう1人は獲物も何も持たず殴りかかってくる。
あたしは腰に下げてた剣を抜き、抜き身を後方に下げて斬りかかってきた奴の剣を弾き飛ばす。
そのまま、身を反転させて殴りかかってきている奴の側頭部を踵で蹴り、その反動を利用して上へ飛んだ。
もう1人は何かを詠唱していたが、あたしはそこへ指を差し、一言呟く。
「ガンド」
詠唱していた人は、あたしのその言葉に体が硬直したように動かなくなり、その場に倒れた。
多分体感時間、五分にも満たないだろう。
「…流石シャル」
着地すると、カナリアが呆けたように言う。
「嬢ちゃん、今のどうやったんだ?」
「拘束の呪いと呼ばれている、ガンドというものです。対象を指差し、呪いをかける事で身体を拘束します。とはいっても、軽いものですからすぐに解除出来ると思いますけど」
戦いを挑んできた3人を見る。
剣を持っていた人は、弾き飛ばされた衝撃から手首が折れてしまったようで、腕ごと抱えて苦しんでいた。
殴りかかってきていた人は昏倒、詠唱していた人はピクリとも動かない。
「…あれ?」
「あれじゃないよ、シャル。隊長にも勝ってる自分の力、見誤ってない?」
カナリアの言葉に、あたしは首を横に振る。
見誤っているつもりはない、これでも十全に動いたとは言えないのだ。
「ほんの軽い運動のつもりで…」
「…シャルが味方で良かったと本気で思うよ、私は」
それどういう意味なんだろう?
あたしは軽くため息を吐いて、3人に魔法をかける。
「
緑色の光が広範囲に広がり、3人を癒していく。
それを見ていた団長さんが口笛を吹いた。
「話には聞いていたが、本当に傷が治っていってら」
「またニーナ隊長からですか?」
問うと、おうと返事が返ってくる。
ニーナ隊長が、あたしの事をどう言っているか問い質したい所だけれど、この回復が終わったら今度はこの団長さんと模擬戦闘をしなければならない。
それもこれも、ナズナが許可を出したせいだ。
馬車の方をチラリと見るけれど、もうナズナの姿はそこにはない。
他に馬車へ追随していた騎士の人達と一緒に、宿へ行ったのだろう。
「はい、終わりました」
魔法の発動を止めると騎士の3人が起き上がり、驚いた顔であたしの方を見る。
それから歓声を上げて、彼らはあたしに握手を求めてきた。
「凄いっす! 尊敬します!」
「あの身のこなし、とんでもない手練れなんですね!」
「全然反応出来ませんでした! 呪いの類もお上手なんですね!」
「あ、どうも…」
こういう時って、プライドをズタズタにされたって怒る場面じゃないのかしら?
案外あっさりしている人達なのね…。
「おいおい、お前ら。感激すんのは良いが、後には俺が控えてんだぞ? 順番守れよなー」
団長さんが軽い口調で、騎士団員達を嗜めていく。