「ここは聖女様が祈りを捧げた場所、と伝わっている大聖堂です。暗黒大陸から魔物と共に攻め入ってきた魔王との決戦前夜に、ヴェスタ神に勝利を祈ったと云われています」
あの筋肉マッチョに、祈りを捧げる?
無理、絶対無理。
あんな無能に祈った所で、無駄の極みでしかないわ。
「シャル、顔が険しくなってるぞ」
小声でナズナに注意されたので、あたしは自分の頬を押さえ、目を閉じた。
「…ごめんなさい。ちょっと、ヴェスタには良い思い出がないというか…」
「お前、神と何があったっていうんだ…」
移動を開始したようで、ナズナがあたしの肩を抱き移動を促してくれる。
あたしは他の人に聞かれないように、会話を念話に切り替えた。
〈あたしの生前の姿は、貴方に一回見せたわね? 髪と目の色は指定したけど、他は全く何も言ってないのに、勝手に背は伸ばされ胸は大きくされ…死にたくないから世界最強にしてくれとはお願いしたけれど、本当にそれだけ。あの無能、勝手にオプションつけまくってくれて…!〉
〈今のシャルと、ナツキとの違いはそのせいか。んー…まぁ、俺はどちらでもお前を愛したに違いないから、構わないが〉
ナズナを見上げるとフワリと笑われたので、顔を背ける。
〈あんな、背も小さいし目付きも悪い女、貴方の隣に相応しくはないわよ…。身長差だって凄い事になっているもの。周りから見たら、婚約者ではなく妹とかに見られたでしょうね〉
〈そんな偏見の目を持つ輩を気にする必要はない。お前はお前なんだから。それに、その髪色はこの世界にはない色だ。俺に相応しくないと言う連中がいるなら、その髪の事で追求されているだろうな。シャル、心配するな。そんな奴らがいても、お前を守ってみせるから〉
ナズナの言葉に、あたしは彼の方を見て微笑む。
この髪色と目は、カヅキに見つけてもらう為にして貰ったものだ。
だが、ナズナはそんな珍しい髪色をしたあたしでも愛してくれるという。
外見ではなく、中身に惚れたと前に彼は言っていたから。
〈ありがとう、好きよナズナ〉
〈俺もだ。愛してる、シャル〉
彼が顔を寄せてきたので、あたしはナズナの顔を掴んだ。
部屋ならいざ知らず、ここは大聖堂で尚且つ周りに人がたくさんいるのだ。
ちょっとは抑えろ馬鹿。
◆◆◆
その後色々見て周り、昼食を摂り、また観光という名の勉強をして行った後、宿に着く。
カーン先生にもう一部屋用意してもらったナズナだったが、先生から何かお小言を貰っているようで、長い時間話している。
「あーあ、シャルロットさんと同室ラッキーって思ってたのに」
「まぁ、殿下の溺愛は鰻登りひつまぶしだからね。仕方ないよ」
「…殿下、先生にシャルロットさんをお手付きしないように言い含めてるのかなぁ…」
クラスメイトのアウロラさん、フェレスさん、ミラーさんが、ナズナを待ってるあたしの所に来て話しかけてくれた。
「殿下とはちゃんとそこのお話はしてますので、お手付きになんてしないですよ」
「いやいや、シャルロットさん甘いよ。男の人なんて、結構狼な所あるんだから」
アウロラさんが、ニヤニヤ笑いながらあたしに耳打ちして教えてくれる。
どこそこの子息が、どこそこの令嬢と関係を持ったとか、あそこのクラスの人が平民に手を出したとか。
「…人それぞれだと思いますが…」
「殿下のあの溺愛ぶりだからね、シャルロットさんが嫌がる事はしないだろうけど」
フェレスさんの言葉に、ミラーさんが頷いた。
「…シャルロットさんと、殿下…同室だから…その、そういう関係になるなら…前からだと思う…」
「だよねー」
ケラケラ笑うアウロラさんだったが、フェレスさんが彼女の腕を引いて、あたしにまたねと挨拶した後、ミラーさんと共にあたしから離れていく。
どうしたのだろうと、彼女達が去っていった方向を見つつ首を傾げていると、背後から声がかかった。
「シャル、待たせた。すまん」
振り向くと、ウンザリした顔をしたナズナが立っていた。
成程、彼が来たから彼女達は離れて行ったのか。
あたしは彼に微笑みながら、首を横に振った。
「大丈夫だよ、ルームメイトになる予定だった三人とお話ししてたから。鍵貰ってきたの?」
「あぁ。カーン先生から、旅先だからとシャルに手を出すんじゃないぞ、と釘を刺された。誰が出すか…出した瞬間、シャルと婚約破棄になるというのに…」
肩を落としたナズナを労るように、あたしは彼の背を撫でる。
ターニャの念書は絶対だ。
ただの紙切れだが、露見した瞬間あたしが嫌だと言ってもテスタロッサに連れ戻されるし、二度とナズナに会わせてもらえないだろう。
テスタロッサにいるとナズナが来るだろうから、あたしはカヅキの世界に連れて行かれるかもしれない。
それはナズナも理解しているから、頑張って耐えてくれているのだ。
ナズナの先導で部屋に辿り着き、入る。
ちょっとしたビジネスホテルのようだったが、ベッドがダブルベッドで、お風呂とトイレが別。