ナズナの遥か後方から、ルルさんとブリジットさんが駆けて来ているのが見えて、大変申し訳なくなった。
「ナズナ…貴方、待ても出来ないの?」
「人を…犬みたいに、言うんじゃ…ない…っ!! っ…はー…で、シャル。ここに何の用なんだ」
やっと息が整ったのか、ナズナが顔を上げあたしを見る。
「用っていうか…声が聞こえるの。此方にいらっしゃいって、女の人の声。まだ微かだけど、あっちの方」
指を差した先を見たナズナの眉が寄った。
それもそうだろう。
関係者以外立ち入り禁止の札がかけられている扉を、あたしは今指差しているのだから。
「シャル…流石に今回は…」
「わかってるから、あたし一人でって話だったのに。んー…時を止めて入ってから、動かして少し話をして、出てくるって戦法じゃダメかしら?」
ナズナに首を傾げながら問う。
彼は少し難しい顔をした後、ため息を吐いた。
「…わかった。俺も一緒に行く。衛兵に見つかっても、如何にかしてやる。だから、一人で行こうとするな、良いな?」
彼の言葉に頷き、あたしは指を鳴らして時を止める。
札がかかっている扉を開け、中に侵入した。
廊下には人が全くおらず、あたしはまた指を鳴らして時を動かす。
ナズナと共に歩いていると、ある一室からまた声が聞こえて、その部屋の扉を開けた。
そこは大聖堂の貴重品を納めたかのような部屋で、聖具と呼ばれていそうな物が並べられている。
その部屋の壁に二本の剣が掛けられていて、どうやら声はその剣からするようだった。
あたし達は部屋の中に入り扉を閉める。
そしてその剣の傍に寄り、見上げた。
緋色の剣と蒼色の剣。
光に当てなくても、キラキラと煌めいていて、とても綺麗だ。
「シャル…? お前、目が…」
「え?」
ナズナの方を振り向く。
あたしの目がなんだと思い彼を見るが、そう言った彼の瞳も変わっていた。
「ナズナ、貴方の目…紅色じゃなかったわよね?」
「そう言うお前だって、アメジストのはずなのに、あの剣と同じ青色になっているが…どういう事だ?」
二人して首を傾げる。
途端、耳鳴りがしてあたし達は蹲った。
《我等を扱うに足る人、見つけたり》
耳を押さえ、あたし達は剣を見上げる。
「な、何…?」
「今のは…」
呆然としていると部屋の外が騒がしくなり、次いで衛兵が部屋の中に入ってきた。
「貴様ら何をやっている?!」
「ここを聖具殿と知っての狼藉か、不法侵入者め!!」
警報装置でもあったのだろうか。
それにしては、少し来るのが遅いような気がしなくもないが。
あたしより早く回復したナズナが立ち上がり、身分証を見せながら衛兵の説得を始めた。
「侵入してしまった事は大変申し訳なく思う。俺はナズナ・エキザカム・ブリリアント、リューネ国の第一王位継承者だ。スェッド国の代表に、弁明をさせていただきたい。取次をお願い出来ないだろうか」
「何を…っ!!」
身分証を提示しているのに、衛兵は激昂してナズナを拘束しようと動く。
あたしはまだ耳鳴りの影響で動けず、ナズナを転移させて逃す時間がないと悟った。
しかし、衛兵の動きは凛とした女性の声で止まる。
「おやめなさい、ノクス、ネイサン。そちらの方は、ナズナ王太子殿下で間違いございません。それに、我らの宝剣が殿下方に反応したのです。無体を働いてはなりません」
「し、しかし、マーレ女王陛下…」
やっと耳鳴りの影響がなくなり、あたしもナズナ同様立ち上がる。
髪も着ている服も、全身真っ白な女性が衛兵を止めてくれていた。
あたしはナズナにこっそり尋ねる。
「あの女性の方は?」
「マーレ女王陛下だ。国を治めているマーテル女王陛下の双子の妹で、いつもは大聖堂の奥深くで祈りを捧げている方なのだが…俺もお姿は初めて見た。話は、マーテル女王陛下に初めてお会いした時に聞いてはいたんだが…」
大聖堂のトップという事か…そんな人がなんであたし達を擁護してくれているのだろう?
彼女を見つめていると、目があってフワリと微笑まれた。
瞬間、この国を覆っている結界を張っているのはこの人だと気付く。
あたしと同等か、それ以上の魔力の持ち主だと理解した。
「殿下、そちらの方は?」
「紹介が遅れ申し訳ない、マーレ女王陛下。こちらの女性は、シャルロット・マリアライト・テスタロッサ。私の婚約者です」
ナズナがあたしを紹介してくれ、慌てて頭を下げる。
そんなあたしを見て、マーレ女王陛下はクスクスと笑い出した。
「そこまで緊張する事はありません、テスタロッサ嬢。
「いいえ、何を仰いますかマーレ女王陛下! 陛下が結界を張ってくれているおかげで、我らは安全に暮らしていけるのです! 陛下のお力は悪しきものを退け、我らに安寧を
ナズナを捕えようとしていた衛兵、ノクスと呼ばれていたか。
マーレ女王陛下は、彼の熱量へ困ったように笑った。