「ノクス、ネイサン。お姉様に連絡を。殿下、申し訳ありませんがお時間をいただきたく思います。私はこの場所から離れられませんので、ここで失礼させて頂きますが…」
「わかっております。お時間を割いていただき、尚且つ容赦を頂き感謝致します、マーレ女王陛下。マーテル女王陛下には、此方から謝意を述べさせて頂きたく…」
ナズナが頭を下げたので、あたしももう一度下げる。
とりあえず、外で待っていたルルさんとブリジットさんと合流し、カーン先生にこの事を伝えてもらうようお願いして、あたしとナズナはスェッド国の紋章が入った馬車に乗り、王城へ向かう事となった。
◆◆◆
馬車に揺られて城に着き、あたしとナズナは応接室と思われる場所に通された。
待つ事数分、扉が開いてナズナが立ち上がったのであたしも彼に倣う。
「お久し振りです、ナズナ王太子殿下。お会いしたのは貴方の立太子の時でしたか」
「お久し振りです、マーテル女王陛下。その節は有り難うございました。それと…今回、大事にしてしまい大変申し訳ありません」
頭を下げるナズナと共に、あたしもマーテル女王陛下に頭を下げた。
マーレ女王陛下とは違い、こちらは黒い髪に黒い服という全身真っ黒な方だった。
チラリ、とこちらを見たであろう女王陛下がナズナに尋ねる。
「殿下、そちらの女性は…あぁ、妹から話が来ました。貴方のご婚約者殿ですか」
「女王陛下にご挨拶申し上げます。シャルロット・マリアライト・テスタロッサと申します。お会い出来て光栄です」
カーテシーをしながら挨拶をするが、頭は上げない。
偉い人が頭を上げても良いと言うまで、上げてはならないと長谷川から教えられていたからだ。
「顔を上げてください、お二方。席にお掛けになって? 別にお二方を責めるつもりはございません。我らの宝剣が、何故殿下方に反応したのかは解りませんが…この意味がお分かりになりますね?」
あたしとナズナは、勧められて今まで座っていた椅子にもう一度着席し、その向かいに女王陛下が座る。
真剣な顔になった女王陛下に、ナズナは頷いた。
「詰まる所、我々を国許に帰すわけにはいかない…と仰るわけですね?」
「その通りです」
あたしは驚いて、目を丸くしてしまう。
なぜ宝剣が反応しただけで、リューネに帰れないという事態になるというのか。
「テスタロッサ嬢。驚くのも無理からぬ事かと思います。そうですね…少し、我が国の歴史について語りましょうか。宝剣が初めてこの国に現れたのは、我が国が立国して数百年後の事でした。暗黒大陸にあるグレアと、我が国は友好国だったのですが…ある年、グレアが魔物を率いて戦争を仕掛けてきたのです」
メイドさんが、失礼しますとカートを押しながら扉を開け、入ってくる。
そのカートにはお茶一式が乗っており、お茶を淹れて女王陛下の前に置き、あたしとナズナの前にも置いてくれた。
「当然の事ながら、当時の女王は訳がわからずグレアに停戦を訴えましたが、聞き入れてもらえず…エデンは魔物が跋扈する土地となってしまったのです。魔物の被害は凄まじく、民が何人も魔物の餌食になって倒れていきました。そんな折、聖女が我が国に現れたのです」
女王陛下はお茶を一口飲み、はぁ、とため息を吐かれる。
このスェッド国の歴史の一部分ではあろうが、語るには長いのだろう。
「聖女は言いました。彼の国は魔王に乗っ取られ、いくら停戦を訴えようとも無駄だと。当然ながら、その当時の女王は聖女を頭のおかしい人間だと決めつけ、牢に投獄しようとしました。しかし聖女と共に旅をしてきた、姫の婚約者がその場で女王に進言したのです。身分を隠して、彼女と一緒に旅をして来た自分だから分かる。彼女は誠実な人間だ、嘘をつくような人ではない。これは真実だ、と」
その婚約者さん、なんで聖女と旅なんてしてたんだろうか。
元々、聖女と知ってて一緒に行っていたのか、もしくは何らかの事情で、聖女と旅をせざるを得なかったのか。
「婚約者の話を姫も擁護したおかげか、聖女は牢に投獄される事なく、客人としてこの城に泊まりました。そしてその日の夜、グレアからの敵襲があったのです。聖女の仲間の一人が裏切り、この城に魔物を招き入れたのです…大聖堂の聖具殿で、二本の剣を見ましたね? 青色の方が、聖女が使用していた剣。赤色の方が、その仲間が使用していた剣です……その仲間の正体は、魔王でした。聖女も、何もかも騙し、この国の懐へ入る為に聖女を利用していたのだと、そう伝わっています」
うわ…それは酷すぎる。
聖女も信頼してここまで旅をしてきただろうに。
仲間に裏切られるなんて…。
「その後、聖女は魔王を討伐し、スェッド国に安寧を齎しました。エデンに蔓延っていた魔物も聖女の力で一掃され、平和になり…聖女は宝剣を残し、姿をお隠しになったそうです。当時の姫が、聖女が使用していた剣と、魔王が使用していた剣を一緒に保管するよう言いました。この二本の剣を引き離したから、この悲劇が起こったのだと。聖女がいた証として、そして悲劇を二度と繰り返さぬようにと」