それに、と彼は続ける。
「あんまり親しくしてると、王太子殿下がお怒りなるぞ」
「「「ひぃぃ!!」」」
ナズナの名前を出した瞬間、団員達が震え上がった。
皆一様に青ざめている。
護衛するべき王族を怖がるって、ナズナは何をしたのよ。
チラリと団長さんの方を見ると、ニヤリと笑った。
「ナズナ殿下の武勇伝聞きたいか?」
「…まぁ、護衛対象ですし。何か不都合な事があると困りますから」
こんなに怖がられるという事は、絶対何かしでかしたとしか思えない。
団長さんは腕を組み、そうだなと話し始める。
「3年前、北の国がうちに攻めてきた事があったんだ」
「ノースイットでしたっけ。魔の森は抜けられないとして、どういう経路で?」
「西の方からだよ。なーんか西の国は、そんな軍隊がうちの国を通ったなんて報告は受けてないー、とか言ってたけど、ぜーったい嘘だよ!」
団長さんに続いて、カナリアがそう言ってきた。
確かに、大軍が動いて自国に来たら臨戦体制に移るだろう。
それを敢えて通したという事は、何かあるとしか思えない。
「その時の指揮を執ったのが成人を迎えたばかりのナズナ殿下だったわけだ」
「陛下ではなくですか?」
あたしの質問に、団長さんは頷いた。
「陛下は城に籠って、首都防衛するとか言ったらしくてな。他の兄弟も、歳がいってる連中は皆そうだった。戦地に行くと言ったのは、ナズナ殿下とユキヤ殿下だけだったさ」
「ユキヤ殿下もですか?」
オリヴィエさんにべったりのユキヤ君が、戦地に行くって余程の事なんだろうと思うんだけど。
今の彼と比べて、そう言われてもイメージが出来ない。
「兄さんが行くなら自分も、だそうでな。俺らはガキのお守りをさせられると、内心うんざりしてたぜ。でもな」
団長さんはそこで言葉を区切った。
「ユキヤ殿下は自陣内で作戦指揮を取り、ナズナ殿下は最前線で俺達を鼓舞しながら、戦ってくださったよ。魔法と剣技が冴えててな。齢15のガキがだぞ? 殿下達の奮戦の賜物で、北の国は撤退してったさ。その功績で、ナズナ殿下は王太子になられたのさ」
目がキラキラし、口調は熱がこもり始める。
そこまで、ナズナの姿が格好良かったのだろう。
今はそんな無茶をさせるわけにはいかないけど。
「そんな事が…」
「極々たまに、殿下は騎士団へ来ててな。新兵の訓練に混じって参加してる事があるんだ。そん時に模擬戦もしたりするんだが、嬢ちゃんが親衛隊でした事と同じくらいに、新兵をしごき倒しててな。殿下が甘ちゃんだと舐めてかかった奴らは、皆はっ倒されていたよ。あいつらは殿下の強さを知ってるから、あんな反応なんだわ。リューネのレオーネとの異名も持ってるんだぜ、殿下は」
「しごき倒してませんが」
そこは訂正する。
請われれば組み手くらいはするが、相手をしごき倒すなど以ての外だ。
あたしは専属護衛ではあれど、親衛隊の中では新人なのだから。
「さて、雑談はこのくらいで手合わせ願おうか嬢ちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
団長さんはあたしから少し離れた後、背中に背負っていた大剣を取り出した。
あたしも剣を構え、間合いを取る。
「うぉりゃあっ!!」
団長さんが剣を振り下ろす。
一見何の変哲もない大剣の振り下ろしたが、そこに魔力も乗せてきているため、剣圧が地面を削りつつあたしに迫ってきた。
「
何層もの土の壁を作る。
しかし団長さんの剣圧はそれらを破壊して、あたしにまで到達した。
「っ!!」
咄嗟に避けるが、そこへ団長さんが切先を真下に、あたし目掛けて落ちてくる。
パワー系かと思いきや、スピードも兼ね備えてるとは。
やばい、死ぬ。
そう思った瞬間、雛桔梗の防護シールドが展開され、シールドに阻まれて団長さんの剣があたしに届く事はなかった。
『ありがとう、雛桔梗』
【いいえ。我が主の御身をお守りする事が、私の使命ですので】
うちの相棒は本当に頼りになる。
距離をとって、団長さんに話しかけた。
「お強いですね、団長。魔武器を展開する羽目になるとは、思いませんでした」
「これでも、第一騎士団の団長だからな。あんまり舐めてると死ぬぜ、嬢ちゃん」
それは今痛感したばかりだ。
あたしは深呼吸をした後、剣を仕舞う。
「驕り高ぶった鼻をへし折っていただき、ありがとうございます。ダーカン第一騎士団長。今から本気で参ります。是非、胸をお借りしたく思います」
「おう、来いや嬢ちゃん!!」
体に身体強化魔法をかけ身を低くし、柄に手をかけた。
団長さんは走り出し、あたしに剣を振り下ろそうとする。
瞬間、あたしは剣を抜き、団長さんの体を切り裂きながら、彼の後方に移動した。
所謂、居合術を使ったのだ。
「こりゃ、見えねぇ、な」
そう言い、団長さんは倒れる。
団員達は拍手喝采をあたしに送ってくるが、それで良いのか?
あなた達の団長が倒れているんだけれど?
あたしは直様、回復魔法をかけた。
「大丈夫ですか? 団長」
「おぉ…本当、ニーナが言った通りだな、嬢ちゃん…」