「ノーム1の月15日はどう? 貴方の誕生日の一週間後。あたしの誕生日の十日後。覚えやすくない?」
「確かにな…シャル? また思い出したな?」
ジト目で見られたので、あたしは顔を背けた。
本当に、この話題を出すとすぐ嘆かれるので、ちょっと困るのだが。
「覚えやすい日なら、忘れないでしょって思って…」
「確かにそうだが…予防線を張らないでくれ…」
ナズナは腕を組み、目を閉じて窓枠に頭を乗せた。
寝てしまったのかと思ったが、寝息は聞こえてこなかったので、目を閉じているだけだろう。
あたしは鞘とナイフホルダーに納められているティアリーに触れる。
〈貴女、この世界の人間じゃないわね?〉
〈えぇ、まぁ。それが、どうかしましたか?〉
途端、ティアリーに話しかけられたので答えた。
確かにあたしは、この世界で生まれたわけではないが。
〈少し気になっただけよ。あと、別に敬語を使う必要性はないわ。あの子も、私に別に敬語なんて使ってなかったから〉
〈あの子っていうと…聖女様の事?〉
えぇ、そうよとティアリーは肯定した。
〈あの、ティアリーさん〉
〈ティアリーで良いわ。えぇと、確かシャルだったわね? 彼がそう呼んでいたから。何かしら?〉
少し思考してから、気になった事をあたしは彼女に尋ねてみる。
〈聖女のお話、少し聞いてみたいんだけど…良いかな?〉
〈馬車が貴女達の泊まってる所に着くまでね。そうね…あの子の名前はミクと言ってね。ケンドー? が出来る女の子だったの。フラムベルグがちょっと、人に悪さをしようとしてて。それを止めたくて、あの子を異世界から呼んだの。まぁ…結果的に、あの子を傷つけてしまったのは申し訳ないと思っているわ。今も、後悔はしてる〉
ティアリーの声のトーンが少し下がる。
〈やっぱり、あれは悲劇で終わったの?〉
〈ミクは、フェステルっていう…フラムベルグが操ってた男の子が好きになっててね。彼を刺しながら号泣していたわ…殺す事でしか、救えなかったからなんだけど。でも、彼はありがとうと笑っていたわ。来世では一緒になろうと、ミクに言いながら息を引き取ったの。だからなのかしら、フラムベルグが彼に着いて行こうと思ったのは。彼、口調は違うけれど、フェステルに似てるわ。貴女を大事に見ている所とかね〉
ナターシャさんの言葉を信じるなら、フラムベルグはティアリーと一緒なら、もう悪さはしないと言ったという。
でも、それが偽りなら?
あたしも、ミクさんと一緒にならないって、誰が保証してくれるの?
〈シャル、大丈夫よ。もしそうなら、既に事が起こっているわ。ね、フラムベルグ?〉
〈…貴様の番には、手は出さん。俺は、ティアリーと共にありたいだけだ。あそこにずっと据えられているのも、飽きてきたんでな。たまには、外の空気も吸いたくなるというものだろう〉
本当かよ、こいつ。
疑いの眼差しを向けると、ナズナがクックッと笑い出した。
「…ナズナ?」
「いや…こいつの記憶を見せてもらっていたんだ。確かに最初は人の心なんざ無いのだろうなという位、悪逆非道を重ねていたし、お前達の会話の中に出てきたフェステルの記憶もあった。だが、それ以降はティアリーを慈しむ事しか考えてはいなかったぞ、こいつは。フラムベルグ、お前不器用な男だな」
ナズナは鞘からフラムベルグを出し、掲げながら笑う。
〈ふん…〉
「ティアリーからの感情がわからなかったなら、彼女に聞けば良かっただろうに。お前、人間の頃からそうだったみたいだな? ティアリーも苦労するわけだ」
人間?
どういう事だ、と首を傾げるとナズナは、後でティアリーに聞けと言った。
聞いて教えてくれるんだろうかと、あたしは彼女を見つめる。
〈そうねぇ…なら眠っている間に見せるわ。その方が貴女には分かりやすいでしょうし、体験型になるでしょうし…〉
「…ティアリーって結構お茶目?」
そんなわけ無いじゃない、と返されたが、口調といい、性格性と言い、レイラさん思い出すんだよなぁ。
そういえば脱隊したからもう無関係になってしまったが、親衛隊って今どうなっているのだろうか。
オリヴィエさんも辞めてしまったようだし、次の副隊長レイラさんかもなぁ。
「もうそろそろ宿泊施設に着くぞ、シャル。あと、ティアリー。俺の名前はナズナだ。彼とかで呼ばないでくれ」
〈あら、失礼。ナズナね。覚えたわ。フラムベルグ共々、よろしくね。シャル、ナズナ〉
こちらこそ、と返して、あたしはナズナにティアリーを渡す。
なんで渡してくるんだという顔をする彼に、あたしは言った。
「なるべく一緒に居させてあげたいというか。宝剣って言っても、ちゃんと武器として扱えるし。結構な力秘めてるっぽいから、何かあったら助けてくれるだろうし。あたしよりナズナに預かってて貰った方がと思って」
仕方ないなとナズナは笑い、ティアリーを預かってくれる。
その後は案の定というか、カーン先生にお説教され、次の日にリューネへ帰国した。