シルフ1の月。
もうそろそろ学校も卒業するという事で、冬休みの間あたしはナズナと一緒に城に帰り、各王妃が結婚式で着たという、ウェディングドレスの選別をしていた。
後ろについているホックやチャックが閉まらず、良いなと思ったデザインの物が悉く入らなくて、あたしは落ち込む。
というか、あたしの体に合うやつが少なすぎる。
「…太ったのかしら」
「何を馬鹿な事を……その…シャルの胸に合うやつがないだけだと思うのだが…」
ナズナと部屋でお茶をしながら、彼に相談するとそんな返答が返ってきた。
彼を見ると、あたしから顔を背けている。
少し耳が赤くなっている所を見るに、想像したなコイツ。
「…えっち」
「本当の事だろうに…あと二ヶ月か、卒業まで」
あたしを見ずにそう言うナズナへ、そうね、と返答する。
収納空間からデザイン画を何枚か取り出して、あたしは机の上に並べた。
紙の音で、ナズナは机の方を見る。
「これは?」
「ターニャが、もしマトモな物がなかったらここから選んでくださいって渡してきたやつ。うーん…どれも捨て難い」
ターニャがこれを渡して来たという事は、テスタロッサでこれを作るという事だ。
テスタロッサならあたしのサイズも把握しているし、安心して袖を通せる。
あたしはデザイン画を見て、悩んだ。
ベルラインのも可愛いし、マーメイドラインのも清楚で好き。
スレンダーラインのはいつも着ているようなドレスのデザインだし、エンパイアラインは大人っぽい。
エーラインはシックだし、ミニラインは…ないな、足を出したくない。
「これはどうだ?」
ナズナが一枚のデザイン画を指差す。
それはプリンセスラインの物で、あたしはデザイン画からナズナへ目線を向ける。
「可愛すぎない?」
「何言ってるんだ? お前は美しいし、可愛いだろう? 可愛すぎるという事はない。それにここのリボン部分、俺の色にすれば良い」
コンコン、と指でその部分を叩きながら、ナズナは微笑んだ。
学校を卒業して、一ヶ月後にあたし達は式を挙げる。
その時、あたしはナズナのものになるのだ。
スッと、あたしはそれを想像し恥ずかしくなって目を背けてしまう。
「シャル?」
「…何でもない。貴方がそれで良いというのなら、あたしもそれに賛成。これ、ターニャに渡してくるわ。ルルさん、少し席を外します。ナズナの事お願いしますね」
はい、とルルさんは微笑み、あたしはブリジットさんを伴って、ナズナの部屋から退出する。
「シャルロット…殿下ちょっと不安な顔してたよ?」
「…いや、あの…ちょっと、初夜を想像したら…恥ずかしくなっちゃって…」
ナズナの部屋から出て、暫くしてからブリジットさんがそう声をかけてきて、あたしは歩みを止めて言いつつ、自分の顔を覆った。
あたしの背後でブリジットさんが苦笑していたが、途端空気がピリついて、あたしは顔を上げる。
「よぉ、幸せ絶頂って感じだなぁ?」
「…エンリケ様。何か御用でしょうか」
錆色の髪、にやけ顔。
あたしがここに来た初日に転がした王族。
エンリケ・ハイドランジア・ブリリアントが、あたしを見てニヤニヤと笑っていた。
あたしは彼を冷たい目で見る。
これがナズナの兄弟など、思いたくもなくて。
「おいおい、俺達イトコ同士だろう? 他人行儀にするなや」
「あら、平民風情をイトコと呼んで頂けて光栄ですわ」
あたしはデザイン画をブリジットさんに渡し、小声でナズナを呼んでくるよう頼む。
彼女は一つ頷き、踵を返して走っていった。
「護衛役が離れちまったぜ? 俺達二人きりだな? くくっ…変な噂が立っちまうかもなぁ?」
「何をご冗談を。そこの廊下の影に、ヴィクトリア様、ファウスト様、マルシオ様がいらっしゃるではありませんか」
あたしはチラリと、三人がいる場所を見る。
言い当てられ、エンリケが少し動揺した。
「あら、
「勿論です、伯母様。初めまして、シャルロット・マリアライト・テスタロッサです。義父のベルファから、お噂はかねがね」
廊下の影から、ヴィクトリア・テスタロッサ・ブリリアントが現れる。
あたしは軽く会釈をしながら微笑んだ。
それが彼女には気に食わなかったようで、扇子を取り出し口元を隠しながらあたしを睨みつける。
「ふん…卑しい平民が。私に対してちゃんと挨拶も出来ないのですか?」
「申し訳ありません、伯母様。挨拶をしたいところなのですが、頭を下げたらエンリケ様に組み敷かれそうなので、怖くて出来ないんです」
組み敷かれた所で、時魔法で時を止めてから抜け出してやるが。
「こいつ、ちょー生意気じゃね?」
「母上、少し痛い目を見せてやっても?」
ヴィクトリア様の背後から、ファウスト・カンナ・ブリリアント、そしてその弟であるマルシオ・アザミ・ブリリアントが出てくる。
3対1か…。
傷つけずに制圧するのは良いんだけど、あたしはまだナズナと結婚してない。
王族の籍ではないので、彼らの方が立場が上だ。