「カヅキおばさんの娘の、ユーカちゃん。ぼくと同い年」
あたしの問いかけに、律儀にヘンリは答えてくれる。
そういえばシンク達が来た時に、カヅキがリューネにいるっぽいみたいな話してたけど。
「…ヘンリ、貴女何歳なの?」
あたしが70過ぎだから、成人してるはずなんだけど……同い年くらいに見えるんだよなぁ。
それともあたし頑張って、かなり年老いてから産んだのかしら?
「ぼく、35だよ」
「……元が悪魔だから、外見変わらないのかしらね」
彼女の年齢を聞いて、あたしは自分の頭を押さえる。
何なの、ここ。
子供が年相応に見えないなんて事ある?
あの馬鹿神、何してくれてんだ一発以上ぶん殴る。
怒りで拳を振るわせていると、ヘンリを呼んでいた声の主が現れる。
光に当たると金色に見える茶髪、金色の瞳をもつその女の子は、ヘンリを見つけると両腕を広げて駆け寄ってきた。
ユーカちゃん、とヘンリから呼ばれていたその子はヘンリと同い年らしいが、やっぱり外見年齢が年相応に見えない。
「ヘンリ! 会いたかった!!」
「…煩いんだよ、ユーカちゃん。もうちょっと静かに出来ないの?」
あたしから離れ、ガッと音がしそうなくらいの勢いで、ヘンリはユーカちゃんの顔を鷲掴みにして、力を込めているようだった。
「へ、ヘンリの愛…!!」
「ぼくは君を愛していないと、何回言えば良いんだろうね? あ、母様。いつもの事だから気にしないで」
そう言い、ヘンリは指を鳴らす。
その瞬間ユーカちゃんの姿が消えた。
あたしの娘だからなのか、元々悪魔だからなのか、結構な力を持っているようだ。
「ヘンリ、ユーカちゃんを何処に飛ばしたの?」
「アンナ姉様のとこ。まったく…過労死させるくらいの量をユーカちゃんに投げれば良いのに…アンナ姉様ったら…」
ヘンリはあたしの手を引き、城の中へ誘導し始める。
というか、過労死って…ヘンリ、あの子の事結構嫌いなのかしら?
まぁ、煩いって意見には賛成だけれど。
あたしはふと、思った事を彼女に問いかけた。
「今の王は誰? ナズナ?」
「…父様と母様は引退して、テスタロッサ領の端辺りに住んでるよ。今の王はグンジョウ兄様。今から会わせるからね」
ヘンリはあたしを見ながら寂しそうに笑う。
なんでと思ったが、愛情表現というか何というか、この子割と寂しがりやなのではないのだろうかと思った。
この時代のあたし、手元に置いてあげれば良かったのに。
一階から二階へ上がって暫くしてから、ある廊下に差し掛かり、あたしは足を止めた。
「母様?」
あたしが止まった事により、ヘンリがガクンっと前のめりになってしまう。
それは申し訳ないと思いながら、あたしは彼女に尋ねた。
「あの、ヘンリ。一つ聞いて良いかしら。この廊下何かおかしくない?」
今から進もうとしている場所を指差すと、ヘンリはあぁ、と納得したようだった。
「母様、魔力探知凄いもんね。これは侵入者対策用の罠だよ。正しい道順を進まないと、ずっと迷い続けるやつなんだ。何だっけ…カヅキおばさんが、迷いの森を参考にしたとかなんとか」
「それにしては、結構複雑な術式使ってるじゃない…。そういえば、カヅキってまだ生きてるの?」
ヘンリの横に並びながら聞く。
彼女はうん、と頷いた。
「まだ健在だよ。母様と同じく引退して、自分が作った別荘に引きこもってるけど」
「…後で会わせて貰ってもいいかしら?」
そう尋ねると、ヘンリは少し嫌そうな顔をする。
カヅキの事嫌いなのかしら、この子?
それと、結構表情豊かだなぁ。
コロコロ変わって可愛い。
「…別に良いけど」
「ヘンリ、貴女カヅキ嫌いなの?」
気になって聞いてしまったが、聞いちゃダメなやつだったかしら。
ヘンリはあたしの手を引き、廊下を進みながら少し首を横へ振る。
「嫌いなんじゃない。苦手なんだ。この世界でぼくを殺し切る事が出来るのは、龍種であるケーネ先生と、カヅキおばさんだけ。ケーネ先生は一瞬で殺してくれそうなんだけど、カヅキおばさんはねちっこいから。敵には容赦なく、苦痛に苦痛を与えて殺すから苦手なんだよ。良い子にしている限りはそんな事にはならないし、人間なんてマズいから食べる気にもならないんだけど」
ベルゼビュート対策してたのか、カヅキ。
それに、とヘンリは続ける。
「母様から貰った体、亡くすのは惜しい。とっても綺麗なんだよ、母様は。その母様と同じ色なのに、死んだら勿体無いじゃん」
「…えーと、ありがとう?」
思わずお礼を言ってしまったが、勿体無いのだろうか。
若干首を傾げていると廊下を抜けたようで、三階へ続く階段をあたし達は上り始めた。
◆◆◆
三階に上がると、見慣れた景色になりあたしはホッとなる。
ここは変わっていないのか、と安心したのだ。
「こっち」
ヘンリに連れて行かれたのは、王の執務室。
ナズナの専属護衛をしていた時ここまで着いて来た事はあったけれど、中までは入った事が無かった。