「兄様に至急伝えたい事がある。取次をお願いしたい」
ヘンリは扉前で警護をしている親衛隊の人達に、中にいる兄へ取次してもらうようお願いしている。
少ししてから、あたしとヘンリは中に入れてもらえた。
落ち着いた調度品に加えて、重厚な机が二つ。
そしてその机に向かうように座っていた、あたしと同じ蒼い髪を持つ男性と黒髪の女性が、あたしを見て驚いているようだった。
「ヘンリ、その子…」
「過去の母様。何かあってこっちに来たみたい。前にギャースカ騒いでる四人組来た事あったじゃない? 多分あれと同じ経緯」
蒼髪の男性がヘンリに尋ね、彼女は肩を竦める。
四人組、と聞いたので、あたしはヘンリにこっそり尋ねた。
「もしかして、テスタロッサって名乗ってなかった? その人達」
「ご名答だよ、母様。あんまりにも煩かったし、凄く嫌な気配がしてたから、スイカ義兄様が尋問したんだけど、なんか精神が脆かったみたいでみんな廃人になっちゃったっぽい。ぼくも報告書見せてもらったけど、支離滅裂な事ばっかしか言わないし、尋問って言っても話してただけなんだよね」
…精神が脆かったくせに、それでよくあたしを襲おうとか考えたな、あいつら。
まぁ、廃人になっているのならもう無害だろうし。
あたしが元の世界に連れて帰る義理も義務もないので、ここで朽ちてもらおう。
次元断層に巻き込まれたと、見ていたナズナ達から証言してもらえるだろうし。
ちゃんと後で報告すれば…一人くらい、証拠として持って帰った方がいいのかしら。
ナズナがここにいれば聞けたのにな。
「………」
蒼髪の男性があたしを見つめている。
顔立ちはシンクに似てるけど左目に一本傷跡があり、その左目は金色になっていた。
右目は青色で眼鏡をかけていて、何か考えているのだろう眉が凄い寄って眉間に皺が出来ている。
対して、黒髪の女性は紅色の瞳で、心配そうに蒼髪の男性を見つめていた。
「…ヘンリ、タイムパラドックスって言葉を知っているかい?」
男性はヘンリを見ながら問いかける。
だが彼女は腕を組み、男性の問いに返した。
「知ってるけど、これは非常事態じゃないか。シンク兄様の所に連れて行っても良いけど、多分ぼくと同じ行動すると思うよ? 一回、王であるグンジョウ兄様に相談しないとって」
ヘンリがそう言うと、グンジョウと呼ばれた男性は深いため息をつく。
「えっと…何かごめんなさい…。あの、迷惑ならそう言ってくれて良いから。その…一人ででも、帰る方法探すから…ね?」
「その場合、ぼくも一緒に行くからね母様。グンジョウ兄様、そんなに薄情だったっけ?」
ヘンリがあたしを抱きしめて、頬擦りしてくる。
彼女の身長からいって、頭がちょうど頬辺りにくるので、くすぐったくて仕方ないのだが。
「…あーもー!! バタフライエフェクトだってどうなるか分かんないのに!! わかった、分かったよ!! ちゃんと帰せるように、僕からシンクに言っとくよ!!」
髪を掻きむしり、グンジョウと呼ばれた男性は大声を出して机に突っ伏した。
そんな彼の様子を見て、黒髪の女性は苦笑する。
「アオ、落ち着いて。お義母様が驚いてるから。それに、ヘンリが羨ましいならそう言えば良いのに」
「…ユエ…僕らもうすぐ還暦なんだって…羨ましいとか…」
ユエ、という名前にあたしは黒髪の女性を見た。
確かに、カヅキの娘であるユエちゃんの面影がある。
という事は、シンクと同じパターンなのかしら?
あと、二人共還暦間近に見えない。
見られている事に気付いた女性は立ち上がり、ヘンリと同様にあたしを抱きしめてきた。
それでも、あたしの身長より下なんだけど。
「アオ、羨ましいでしょ」
「君ねぇ…」
なんだろう、まだ三十代に見えるのだけど…二人共。
どうなってるの、あたしとカヅキの血は。
不老の呪いでもかかってるのかしら。
あとアオって…どういう事?
群青だから?
なんでそんな名前つけたあたし?
片目金じゃん。
まぁ、詳しく知ってはダメだろうとあたしは口を噤む事にした。
「羨ましくないといえば、嘘にはなるけど…大の男が、しかも還暦近いジジイが、若い時の母親を抱きしめるとか…なくない?」
「アオ、シスコンに加えて軽めのマザコンじゃん。忙しくてお義母様に会いに行けないって、この間嘆いていたじゃない」
言うな、とグンジョウはユエちゃんに慌てて言った。
成程、とあたしは納得する。
「だからここに連れてきたの、ヘンリ?」
「それもある。ぼくら兄弟姉妹は、母様が大好きなんだ。時に厳しく、だけど優しく僕らを慈しんで愛してくれる母様が、僕らは大好きなんだよ。グンジョウ兄様、別に母様抱きしめたって、ユエ義姉様は浮気だなんだと叫ばないよ。目の前でやるわけだし」
うんうん、とユエちゃんも頷く。
また深いため息をついたグンジョウは、立ち上がってあたしの前に来ると、あたしを抱きしめてきた。
すごく優しい抱擁で、しかも背格好もナズナとほぼ同じで、あたしは彼を思い出してしまう。