「母様、ちゃんと元の時代に帰すから安心して。王の権限を使ってでも、絶対に」
「…ありがとう、グンジョウ。あたしの子供達って、本当に優しいのね」
母様の教育の賜物だよ、とグンジョウはあたしから離れて微笑を浮かべる。
あたしもそれへ微笑みを返した。
「アオ、シンクに連絡しといたよ。多分すぐ来ると…」
ユエちゃんがそういうのと同時に、魔力の揺らぎを感知する。
部屋の隅に、グンジョウと同じ蒼髪の男性が現れた。
あたしはその姿に見覚えがあり、彼に微笑む。
「久しぶり、シンク」
「マジで母様じゃん。え、母様今何歳?」
17と答えると、若いと言葉が返ってくる。
まぁ、彼らの年齢を考えるとそう言われても仕方ないとは思うけど。
「貴方が来てから、こっちはまだ半年しか経っていないわよ」
「マジかー…こっちは約30年も経ってますよ、母様。うわー、ユタカ連れてくれば良かったー」
連れてくれば良いじゃん、とユエちゃんが言ったので、そうすると彼は言い、転移していく。
数分経って、彼はユタカちゃんを連れて戻ってきた。
「うわー! 若い時のナッちゃんだぁっ!! 久しぶりーっ!!」
ユタカちゃんはあたしに駆け寄り、抱きしめてくる。
そんな彼女を見て、ユエちゃんが呆れた声を上げた。
「ユタカ…あんた、テレジア夫人としてそれはどうなの?」
「元だもーん。今は前テレジア夫人だし。息子達に代は譲ってるから、私暇だし。ユエとは違って」
なんだとぉっ?!
とユエちゃんは激昂してユタカちゃんに掴み掛かろうとしたが、それをグンジョウが羽交い締めにする。
「ユエ、落ち着きなよ…。君王妃なんだよ、一応? で、シンク。何か案ないか?」
「案はあるにはあるんだけど…母様、この事態初めてです?」
ユタカちゃんとヘンリに抱きしめられてるあたしは、フルフルと首を横に振った。
「前に一回だけ。ユエちゃん、ユタカちゃんが5歳の時だったか…に、カヅキの所に行ったわ」
そういえば来てたっけね、なんてユタカちゃんは軽い調子で言う。
それに対して、ユエちゃんが再び呆れた目をユタカちゃんに向けた。
「じゃあ、同じ方法で戻せるか…多分ですけど、そのデータ作ったのルカさんですよね?」
うん、と頷くとシンクはマジかという顔をする。
何か問題でもあるのだろうか。
首を傾げるあたしに、彼は頭を掻きながら苦笑いをした。
「ルカさんの研究資料、何処にあったかな…って」
「…だから、普段から整理整頓しなよって言ってたのに…」
ユタカに言われたくないと思う、とユエちゃんがポツリと呟き、姉妹喧嘩が勃発してしまう。
息子達はお互いの伴侶を宥めるのに必死になっていた。
ふと、あたしは二人の様子を眺めながら思う。
彼らの言い方からして、ルカさんはもう亡くなっているのだろう。
あたしが知っている人達も、大体は亡くなっているはずだ。
…なら、ナズナは?
彼はまだ生きて、あたしの隣にいるの?
少し怖い想像をして、俯いてしまう。
そんなあたしを見たヘンリが、母様と言いながら見上げてくる。
「父様の事考えてる?」
「え、えぇ、まぁ…ナズナ、まだ生きてるのかしら、って…」
あたしの言葉を聞いた息子夫婦達が、ピタリとその動作を止めた。
それであたしは悟ってしまう。
「…亡くなってるの? ナズナ…死んじゃったの…?」
「いや! 違うんすよ母様! 父様、そのー…こいつの政務の手伝いしてるんですよ! そう! こいつ仕事出来なさすぎて、目に余るからって!」
シンクはグンジョウの肩に腕を乗せ、指を差す。
そう言われた彼は、少しムッとした。
「…仕事出来なくて悪かったな。これでも精一杯やってるんだけど」
「スケジュール管理出来てねぇんだから、そんなムッとするなよ」
こっちはこっちで兄弟喧嘩が始まりそうになり、あたしは苦笑する他ない。
そして、あたしはそこまで気を遣われるほど弱くなっているのかと、息子達の気遣いに感謝する。
誤魔化しが下手だこと。
それじゃあ、ナズナは亡くなってますよと言っているようなものだ。
…この時代のあたしは、ちゃんとナズナが死んだ事を受け入れて、生きているのかしら。
ヘンリの頭を撫でつつ、あたしはそう思った。
◆◆◆
とりあえず、あたしの身元引き受けはシンクがする事になり、あたしは彼についてテレジア家に転移する。
「ようこそ、ナッちゃん! 我が家だよー!」
「ユタカテンション高すぎ。まぁ、分からなくもないけどな」
シンクが苦笑しながら、扉を開けてくれた。
結構大きいお屋敷で、そういえばテレジアとか何とか言ってたな、とあたしは思い出す。
「テレジアって…確か、お義父様と張り合ってるっていう…」
「あー…まぁ。多分昔の俺が説明はしてると思うんで、俺からは何も」
苦笑するシンクを見たあたしは、自分の記憶を探った。
確か一族郎党斬首刑になったのだったかしら。
何やらかしたのかな、前テレジア卿。
まぁ、それも未来で起こる事だからあまり聞くのもな、と思ってしまう。
裏話
相方の小説の方で
75歳のなっちゃんは
ナズナが死んだ事を忘却し
長期出張に行っていると
思い込んで生活していますが
このなっちゃんが帰った直後思い出して
一回魔力暴走を起こし
強大な魔力も相まって
ケーネからまた
忘却させられていると思います
ナズナもなっちゃんも
お互いの事を深く愛し合っていたからこそ
なっちゃんはナズナが死んだ事に
耐えられなかったのでしょうね