「事前に連絡してあるんで、母様の部屋は用意されてますよ」
「父さん、どこに行ってたんですか。執務について少々聞きたい事が…」
ホールにある階段の上から、そんな声がかかる。
あたし達はその声の方を見上げた。
黒髪青目の眼鏡をかけた男性が、あたしを見て怪訝そうな顔をしている。
シンクを父さんと呼んだ事から、彼はあたしの孫なのだろう。
まぁ、両親が連れてきた女が、昔の祖母とそっくりの外見をしていたら、怪訝そうな顔をするのも頷けるが。
「父さん、その人…」
「カナデ、お義父様帰ってきたの?」
更に上の方から女性の声が聞こえ、トントンと階段を降りてくる音がする。
カナデ、と呼ばれた男性と同じ位置に来た女性は、彼と同じ黒髪の青目だった。
腰までつきそうなロングの子で、前髪は編み込みをしてあるのか、三つ編みを真ん中から分け、ゆるく後ろの方に流している。
妹だろうか、とあたしはシンクの方を見た。
「あー…うちの息子と、息子の嫁です」
シンクがあたしに顔を向けて説明してくれた。
まぁ、髪と目の色が一緒な事だってあるだろうと、あたしは納得する。
「お帰りなさい。お義父様、お義母様。母様の用事って何だった…きゃあ?!」
何をしたのか、彼女の体が傾いで行く。
カナデ君がお嫁さんを支えようとしたが如何せん、反応が遅い。
あたしは急いで指を鳴らし、時を止めた。
トトト、と階段を上がり、あたしはお嫁さんを見る。
「…えぇー…この人、ドジっ子なのかしら…」
履いていたロングスカートの裾を踏んづけて、尚且つ階段も踏み外すとか。
体格差はあたしの方が優位ではあるし、受け止めてあげよう。
あたしは手すりを掴み、彼女の体を抱きしめるようにして自分に身体強化を施す。
そして、指を鳴らして時を戻した。
「…っ!! …あれ?」
「貴女、いつの間に…」
彼女が落ちかけた衝撃が体にはきたが、無事にお嫁さんは怪我しないで済んだ。
カナデ君が驚いた顔をし、お嫁さんは落下してない事を不思議そうにしている。
シンクが慌てて、階段を上がってきた。
「ユズリハ! お前、階段降りる時は慎重に降りろって言っただろ?! お前誰に似たのかドジなんだから!!」
「えへへ、ごめんなさい叔父様…じゃなかった、お義父様。えっと、この方……お祖母様?!」
ユズリハと呼ばれたお嫁さんは、あたしの正体…というか、あたしの存在について看破したようだ。
そしてあたしをお祖母様と言ったあたり、彼女もあたしの孫のようだった。
「シンク、あの、説明して欲しいんだけど…」
「…ユズリハは、グンジョウとユエの第二子ですよ。第一子は王太子してるんで。数年前に嫁もらいましたけど」
成程ー、降嫁して来たのかこの子。
可愛い子をお嫁さんに貰ったな、カナデ君。
「父さん、説明して下さい。何故お祖母様がここにいらっしゃるんですか? しかも、結構若い時分の御姿じゃないですか。何です? もうボケたんですか?」
カナデ君、結構辛辣な子だなぁ…。
まぁ、もう70過ぎだしボケ始まっててもおかしくはない…か?
ここのあたし、迷惑かけてない?
大丈夫?
「カナデ、母様はまだボケてないよ。あとユズリハ。母様からいい加減離れてよ」
「…ヘンリ叔母さん、いつの間に来たんですか」
本当にいつの間に来たのかヘンリがあたしの背後に立っていて、ユズリハちゃんの横に移動して彼女の体勢を整えてあげていた。
「その通りなんだけど、2個しか違わないのに叔母さんはやめてほしい」
「なら良いじゃありませんか。リーゼ叔母さんとルージェ大叔父さんに比べればまだマシでは?」
なんか知らない人の名前出てきたー。
多分将来、その人達とも知り合いになるんだろうけど。
これ、本当にタイムパラドックス大丈夫なのかしら。
バチバチと火花が散っていそうなヘンリとカナデ君を尻目に、ユズリハちゃんはあたしに抱きついてくる。
「ありがとうございます、お祖母様。私、いつも何かしらでコケてて…階段から落ちるのも、初めてじゃないんですよ」
「…とりあえず、ロングスカートは履かない事をお勧めするわ。あとヒール! なんでそんな高いの履いてるの?! こんなの、普段使いする物じゃなくない?!」
えへへ、とユズリハちゃんは笑うが、この子の感性がズレているの、誰か直してあげなかったのかしら…?
むしろ傍付きつけてあげなさいよ、危ない。
「何回言っても直らなかったので、諦めました」
「それ奥さんに対して薄情だよ、カナデ」
また火花が散り始めた二人のうち、あたしはヘンリに話しかける。
ユズリハちゃんはといえば、ユタカちゃんが階下まで下ろしていた。
「ヘンリ。どうかしたの? お城で別れたばっかりなのに」
「ん、ぼくは付き添い。シャナ姉様に母様の事話したら、会いたいって言ったから」
「馬鹿お前!!」
ヘンリの言葉に、シンクが慌て出す。
シャナ? と首を傾げたあたしに衝撃が来て、あたしは階段から宙に投げ出された。
風魔法を使って落下ダメージは抑えられたものの、驚きすぎて言葉を失くす。
二重の意味で。