一つは気配もなくあたしにタックル? してきて、あたしを階段から落とした事。
そしてもう一つは見慣れた金髪と青目だった事。
「わぁ! 本当に母様じゃん!! あんま変わんなーい!」
「…シャナ姉様、シンク兄様が怒りでプルプルしてる」
あたしに馬乗りになり、ニコニコ笑っている美人さんと、そんな彼女を呆れた目で見ているヘンリ。
ヘンリの背後には、眉を寄せ握り拳を作って肩を震わせているシンク。
カナデ君の姿は見えないが、多分ヘンリと同じ表情をしている事だろう。
「シャナ!! お前なぁっ?!」
「何よぅ。グンジョウもシンクも、母様が来てるって何で教えてくんなかったかなぁ。あたしだって、母様に会いたいに決まってるのに」
ぷぅ、と頬を膨らませ、シャナと呼ばれた女性はシンクに抗議の目を向ける。
だけど、あたしはそれに構っている余裕がなかった。
「ナズナ…」
ナズナと同じ、金の髪。
目の色。
シンクがシャナに気安い事から、彼女はあたしの娘なのだろうか。
ブワッと、涙腺が崩壊した。
ここまで気丈に振る舞っては来たが、やはり一人という寂しさと、知ってはいるけど知らない土地に放り出されたストレス、それらがない混ぜになってしまい涙が溢れる。
ナズナ、ナズナ…っ!
今、貴方に会いたい…っ!!
帰りたいよぉ…っ!!
顔を手で覆い、泣き始めてしまったあたしに周りは慌てた。
シンクだけはこの事態になる事が分かっていたようで、ため息をついている。
「シャナ、退け。この母様はまだ17だ。精神的にも脆い。ユタカ悪い、着いてきてくれ。ヘンリ、ケーネとカヅキおばさんに連絡しておけ」
「ご、ごめん、シンク。泣かないで母様…」
シャナが心配そうにあたしを気遣ってくれるが、あたしはそれに返答出来ない。
寂しいと、心が叫んでいたから。
「ちょっと失礼しますよ」
シンクはそう言い、あたしをお姫様抱っこして何処かに運び出した。
持ち上げた瞬間、うわ軽っ、と小声で呟いたのが聞こえたが。
◆◆◆
「母様、落ち着いた?」
「…ごめんなさい。取り乱して…」
あたしに宛てがわれた客室のベッドに降ろしてもらい、泣き止むまでシンクとユタカちゃんは傍にいてくれた。
ユタカちゃんが差し出してくれた紅茶を受け取って、あたしは一息つく。
「いや、取り乱すなって方が無理でしょうよ。うちの姉がすんませんね。ヘンリに、シャナへ口止めしとくの忘れてた俺の落ち度です」
シンクはあたしの目の前に椅子を持ってきて座り、ユタカちゃんはあたしの隣に座って頭を撫でてくれていた。
小さい子扱い…いや、実際あたしは彼らよりかなり下、孫と言っても過言ではない年なのだから、当たり前なんだけど。
「…ごめんなさい。あの子、あたしの娘なのよね? 悪い事したわ…」
「いやいや、母様が気に病む必要ないって。シャナが俺に確認取らずに、急に来たのが悪いんだってば。シャナー…お前さぁ…」
シンクは扉に向かって彼女の名前を呼ぶ。
少し扉が開いて、申し訳なさそうな表情をしたシャナが顔を出した。
「あの、母様…」
「ごめんね、シャナ。えーと…一応、過去の母です、って言えば良いのかしら…?」
少し疑問を覚えてしまい、自分で言ってて首を傾げる。
そんなあたしを見て、シャナは笑った。
「母様…やっぱり、あたし達の母親だね。ね、シンク」
「…いや、まぁ…昔の母様って天然ボケ酷かったのか…」
少し聞き捨てならない言葉が聞こえ、あたしはムスッとなり、シンクを軽く睨む。
「天然ボケって…悪かったわね」
「そこも可愛らしいって父様なら言いますよ、母様」
ニヘラと笑うシンクに、ナズナの面影を見出してしまい、あたしは苦笑いをした。
「…シンク、ナズナとやっぱり似てる。今もモテるんじゃない?」
「そりゃ息子ですもん。似てないの髪の色だけじゃないですかね。あと、それについてはノーコメントで」
自分の髪を一房摘んで、シンクは苦笑する。
その顔もナズナにそっくりで、あたしはまた涙ぐむ。
「ナッちゃん、泣かないで? 多分、ケーネとママが何とかしてくれるって」
「そうだよ、母様。あ」
シャナが何かに気付いたのか、背後を振り返った。
そのまま、大きく扉を開ける。
「そうそう。私様が来たぞ、ナツキ」
扉の先、懐かしい声が聞こえた。
あたしはその方向を見、思わず彼女に駆け寄って抱きつく。
「カヅキ…カヅキぃぃぃ…っ!!」
「よしよし。寂しかったな、ナツキ。私の平たい胸で良ければ、思う存分泣くと良い」
車椅子に乗って現れたカヅキは、抱きついて泣き始めたあたしの背を撫でてくれた。
あたしの背後で、シンクとユタカちゃんがホッとしているのを感じる。
自分達より、カヅキの方があたしの扱いがわかっているから、とか思っていそうだな。
その通りなんだけど。
「ナツキ、泣き止んだら教えて欲しいんだが…お前、何処の時空から来た?」
あたしは袖で目を擦りながらカヅキから離れ、彼女の質問に答える。