「…とりあえず…貴女とは一回、ナズナと一緒にお邪魔した…事はある。あと、あたしがいた季節は、高等部三年生のシルフ1の月…学校卒業したら、ナズナと結婚する予定…」
その場にいた全員が、マジかという顔をした。
カヅキの背後にいた黒髪紫目の男性はあたしを見ていたが、その顔をシンクに向ける。
「これ、帰さないと歴史変わるんじゃね?」
「なら協力しろよケーネ」
俺医者なんですけど、とケーネと呼ばれた男性はシンクに文句を言う。
お医者さんなんだ。
全くそう見えないけれど。
なんかここに来て、いっぱい人に会っている気がするわね…。
「大丈夫なのかしら…歴史改変とかに、ならないのかしら…」
「安心しろ、ナツキ。この時代のお前になるまで記憶封鎖してやる。だから存分に孫やら子供達と会ってくるがいい。あと、お前をどうやって帰したものか…。オーシアのベルケンド領の屋敷に、あの装置がまだあれば…いや…ナツキ。雛桔梗は持ってきてるな?」
カヅキの問いかけに、あたしは頷く。
足のアンクレットを外し、彼女に差し出した。
カヅキはそれを受け取り、ケーネ先生に渡す。
「問診ついでに、ヒナと同期するようナツキに頼んでおけケーネ」
「はいはい。んじゃ、シャルさんちょっと失礼しますよ」
ケーネ先生はあたしの目の前に来て、診察を始めた。
軽めの検査? をして問題ない事を確認し、カヅキに向き直る。
「じゃあ、いってきますカヅキさん。帰りはユタカかシャナに連れてってもらってくださいね」
「あぁ」
雛桔梗を連れて、ケーネ先生は転移していく。
まぁ、カヅキが任せたのだから信用は出来る人なのだろうけど。
雛桔梗がいなくなって、少し心細い。
「シャナ、お前ナツキから着物類預かってるだろ。お前の事だから収納空間に入れっぱに決まってる。出せ」
「…おばさんよく分かったね」
何十年お前と付き合いがあると思ってる、とカヅキは言い、シャナが収納空間から出した着物に、あたしは驚く。
「これ、吾妻の…」
「シャナの結婚祝いで、譲ったそうだ。お前何着も買ったろ? 全て子供達の手に渡ってるぞ」
ぼくはまだ貰っていない、とヘンリが少しムッとしていた。
十着くらいは買ったはずだから…え、ヘンリ貰ってないって…あたし子供何人産んだんだろう…。
これからの事に少し末恐ろしくなる。
「お前はいずれ貰えるはずだろうに。大体、婚姻してないのはお前だけじゃないか」
「…ぼくと吊り合う人がいないんだから、しょうがないじゃん。ぼくは悠久の時を生きるからね。人間以外じゃないと無理だよ、おばさん」
はぁ、とヘンリはため息をついた。
人間以外って…まぁ、ベルゼビュートだからなのだろうけど。
「ほらほら、シンク。出て出て。ナッちゃん着替えするから」
「言われずとも出るよ。母様、後で兄弟姉妹と孫巡りしますんでそのつもりで。カヅキおばさんが許可したんで、大丈夫って事でしょうし」
ユタカちゃんに背を押され、シンクが部屋を出ていく。
出る際そう言われ、あたしは苦笑いしながら彼に手を振った。
「じゃあ、ユタカ。私が言う手順でナツキを着付けろ。シャナとヘンリはそこで見てろ、邪魔をするな」
邪魔って何、と膨れっ面になるシャナに抱きつきながら、ヘンリはうん、と頷く。
ユタカちゃんの手際は見事なもので、流石カヅキの娘であると感心した。
あとその着付けの技術何処から、と思ったが、多分ターニャが生前カヅキに仕込んでいたのだろう。
本当何でも出来るな、長谷川もといターニャ。
桜柄の着物に、髪も編み込んでもらい、姿見で確認したが完璧すぎてあたしはカヅキへ苦笑する。
「貴女本当に、先生が天性だったのではなくて? 人に教えるのが上手だこと」
「さぁな。生前にそれを知れたとて、私はお前の元から離れるつもりなどなかったぞ。師匠もそうだろうしな。私の唯一の主君だ、お前は」
なんと嬉しい事を言ってくれるのだろうか。
これも、この時代のあたしの年齢になるまで思い出せないのは、少々惜しいが。
「ありがとう、カヅキ。やっぱり貴女が大好きよ、ナズナの次くらいに」
「浮気者め。あいつが聞いたら嫉妬に狂うぞ」
クックッと笑い、彼女はニヒルに笑う。
黙っててね、と彼女に笑いながら言った。
娘達は、あたし達の様子に胸を撫で下ろしているようだ。
やっと母様笑ってくれた、とヘンリは言う。
さっきもちゃんと笑っていたはずなんだけど…笑顔に見えていなかったかしら。
あたしは姿見で自分の頬を指で持ち上げてみる。
シャナがあたしの肩に手を置き、フルフルと首を横に振った。
多分違う、と言いたいのだろう。
「さて、私は帰る。シャナ、送っていけ」
「おっけー。じゃあ、ユタカちゃん、ヘンリ。母様の事よろしく」
シャナはカヅキの車椅子に触り、彼女と共に転移していった。
◆◆◆
部屋から出ると、シンクが少し目を丸くしている。
何か変な格好かしら、とあたしは首を傾げた。