それなぁに、なんて聞いた日には、ヘンリにそこへ連れていかれそうだし。
食堂に連れて行かれ、席に座ったあたしの前に食事が出される。
それを鑑定で見て、毒が入っていない事を確認した。
娘である彼女には悪いが、ナズナの専属護衛をやっている時からの癖なので、勘弁願いたい。
実際、何回かナズナとの食事に毒が混入されていた時があったのだ。
警戒するのも当然とは言えるだろう。
まぁ、当たり前で毒など入っておらず、あたしは食事を始める。
「若い時から、お母様の所作はお綺麗だったのですね。流石ですわ、お母様」
「…ありがとうございます? これで何故褒められるのか、あたしにはさっぱりわからないのですが…」
アンナに褒められて、あたしは首を傾げた。
こんなの、普通に出来なければどうするというのか。
その答えすらも、アンナには満足のいくものだったようで、彼女はうんうん頷きヘンリを見る。
「貴女も見習いなさい、ヘンリエッタ」
「なんで矛先がこちらに向くのかな、アンナ姉様。別にぼくの食事、汚いってわけじゃないだろう? 見苦しくないよう、母様やカヅキおばさんが教えてくれたんだから」
確かにヘンリの食事の所作は綺麗だ。
ぱっと見、普通に食事しているだけなのだが。
それがアンナには気に食わないのだろう。
あたしレベルになれ、までは言わないもののもっと洗練されるべき、なんて思っていそうだなと考えてしまう。
多分、その考えは当たっているのだろうけど。
「ヘンリエッタ…!」
「まぁまぁ、アンナ。食事時にそう怒るものじゃないと思うよ。それに、お義母さんが来てるんだから落ち着こう? ね?」
茶髪の男性がアンナを宥めている。
彼がスイカなのだろう。
それにあの髪色はユーリさんの色だから、彼は二人の息子なんだろうと思い至る。
スイカさんに宥められ、アンナはおとなしくなった。
彼女を御せるの、スイカさんだけなんだろうな。
「…そうね。見苦しい所をお見せしました、お母様」
「あぁ、いえ。別に気にしてはいないのですが…その。何故皆様方、あたしを母親だと言ってくれるのでしょうか? もしかしたら、あなた方の母親の異次元同位体とはお考えになりませんか?」
あたしの問いに、皆がキョトンとする。
それに思い至らないはずがないのに、なぜと疑問を口にしたあたしに、シンクが言う。
「いや、母様は母様ですし。それに、そんな覇気纏ってるのに母様じゃないなんて言えます?」
「異次元同位体だとしても、私達のお母様です。それは、お義母様でさえ同じ事を言うでしょう。気になさらなくてよろしい事かと」
…なんか励まされた気がする。
あたしの子供、本当に優しい子ばかりだ。
アンナは性格キツいけど。
これ、あれだ。
ターニャそっくりなんだ、アンナ。
言葉足らないやつ。
そのせいで周りから誤解されちゃうんだ。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、気が楽になる気がします」
「そういえばアンナ姉様。子供達は? 仕事?」
ヘンリがスープを飲みながら、彼女にそう尋ねる。
その所作にアンナの眉が吊り上がるが、一つため息をつき、えぇそうよ、と返した。
「サクラとアヤメは、監査局で昼食を摂ると。リンドウは大学院でやる事があるからと、先程連絡がありました。まったく…」
「そこはアンナに似たねぇ」
ケラケラ笑うスイカさんをアンナは睨みつける。
夫婦喧嘩になりそうな雰囲気を感じたか、夫婦間の事なのであたしが口を出すべきではないと思い、黙って食事する事にした。
その瞬間。
「アンナ。喧嘩をするなら、食事の後になさい。
『
あたしの背後からかかった声に、一同固まる。
かく言うあたしも、その声と存在に皆と同様固まった。
「…あら、貴女は別にカヅキより気にしないとは思っていたのだけれど…まぁ、若いのだし仕方ないのかしらね」
「…あたしより魔力が強い人が背後に立ったら…それもいきなり現れたら、驚くと思いません? そんなサプライズ好きになったの、『
椅子から立ち上がり、背後を睨むように見る。
あたしと同じ蒼髪、紫目。
歳はあたしよりだいぶ上だけど、それでも幼さの残る顔。
「こんにちは、『
「こんにちは…なんで貴女がここにいるの」
ご挨拶ね、と彼女は肩を竦めたがそれもヘンリが抱きつくまでだった。
「母様! 転移してきちゃダメじゃないか! 体が…!」
「心配しなくてもいいわよ、あたしの可愛いヘンリエッタ。ここまでレヴィに送ってもらったから。帰りも彼女に連れて行ってもらうから、安心してね。それと『
彼女が差し出し手のひらに、雛桔梗が乗っている。
あたしはそれを恐る恐る手に取った。
「いやね、取って食べたりはしないわよ」
「…悪かったわね、わざわざ届けに来てくれて。感謝するわ、『
あたしの五十年後の姿なのに、威圧感というか…何を考えているか分からない。
これが王妃になった後のあたしなのか。