上に立つ者の気迫というものを感じる。
「別に。雛桔梗がいなければ帰れないでしょう? あぁ、ナズナに会ったらよろしく言っておいてちょうだい。あいつ、長期出張に行って全く帰ってこないのよ。この間の結婚記念日もすっぽかして。せめて、何か送ってくればいいのに…!」
目の前の『
それに違和感を覚える。
「ナズナは…」
「母様、しー」
『
黙ってろ、という事なのだろうが、『
この違和感、どうして目の前の『
後で雛桔梗に聞いてみようかしら。
多分、記録も同期してあるはずだから。
どうせカヅキに記憶封鎖されるのだから、見ても問題ないだろう。
「ヘンリ、どうしたの?」
「何でもないよ、母様。頭撫でて」
仕方ない子ね、と言いつつ『
そんな時、アンナが咳払いをした。
「お母様、お食事は摂られたので?」
「ヒナが作ってくれた昼食を頂いてから来たわ。ごめんなさいね、アンナ。気を遣わせてしまったわ」
『
どうやら帰ろうとしているらしい。
威圧が凄いので、出来れば早く帰っていただきたいのだが。
「そんなに邪険にしないでちょうだい、『
「…読心術が使えるようで何より。あまり使いすぎると嫌われるわよ、『
そんなに使っていないわ、と『
その手を取るように、レヴィが現れた。
「我が主、帰るぞ。すまぬな、もう一人の我が主。こちらの我が主は日に日に弱っていく一方で…」
「レヴィ、余計な事言わないの。だから、貴女達と暮らしているんじゃない。まったく…ナズナも、あたしが死ぬ時には戻って来てくれると良いのだけどね」
フッと寂しそうに笑った『
後に残されたあたし達は、少しの気まずさを覚える。
「あの、彼女のあの状態って…」
「お父様が亡くなってからです。お父様の国葬を終えてから、気を張り詰めていたお母様は魔力暴走を起こし…治った後はもうあのように」
アンナが少し申し訳なさそうにあたしを見た。
彼女にとって、『
…将来あたしも、あぁなるんだろうな。
彼女のようにはならない、なんて言えない。
ナズナが亡くなった事を忘れた…それは裏返せば、彼を深く愛していたという事と同じだから。
ナズナ、何してるんだろう…。
沈黙が場を支配する食卓で、あたしは食事を終えた。
◆◆◆
次にやって来たのは、テスタロッサの屋敷だった。
一体何故、とあたしはシンクを見る。
「あー…妹…リーゼが嫁いだのがここでして…」
どういう事だ?
あたしの娘がテスタロッサに嫁いでる?
いや、血の繋がりがないから別に嫁いでても問題はないのだけれど。
少し考えて、もしかしてとシンクに尋ねてみた。
「ねぇ、シンク…もしかしてなんだけど…あたしの娘、ターニャの孫かひ孫に嫁いだのかしら?」
「いや、息子です」
予想が外れ、あたしは少し眉を寄せる。
…それは、また…遅くに出来たのね、ターニャ。
それかあたしが早く産んだ?
どっちだろう?
「シンクお兄様、お久しぶりです。連絡を頂いていたのですが、仕事が忙しくて…」
「いや、こっちがデバック頼んでたんだ。逆にすまねぇな、リーゼ」
蒼色の髪にスカイブルーの瞳の美女が、シンクに対してにこやかに応対している。
結構可愛い系なのね、と彼女を見ていると、リーゼと呼ばれたその人はあたしに微笑みかけた。
「こんにちは、お母様。リーゼ・クレマチス・テスタロッサです」
「こんにちは、リーゼ。過去の母親です…で良いのよね、多分?」
自分をなんと表現したらいいのか分からず、やはり首を傾げてしまう。
ナズナがここにいればなぁ…。
適当な表現を思いついてくれるかもしれないのに。
なんて、無い物ねだりしても仕方ない。
そんなあたしの様子を見て、リーゼは苦笑する。
「この頃から、お母様方の仲は良かったのですね」
「え? えぇ、まぁ…じゃなかったら、彼と結婚なんて考えなくない? あたしまだ17よ?」
あたしの返答に、彼女はクスクス笑い出した。
一体なんだと見ていたら、シンクが耳打ちしてくる。
「リーゼの場合、相手…母様の義弟のルージェから猛アタックされてたんですよ。それをのらりくらりと躱し、婚約していたにも関わらず20歳まで心変わりしなかったルージェと、その時ようやく籍入れたんですわ、うちの妹は」
「あら、いやですわお兄様。人の恋路をお母様にお話しするなんて」
まだ笑っている彼女はシンクを嗜めていたが、別段嫌がってはいなさそうだった。
仲は良好なのだろう。