まぁ、婚姻間近なのに婚約者が帰って来ないと焦るか。
もしかしたら、マリッジブルーになってしまったかもと、不安だったのかもしれない。
そんな事ないのに。
「……あの時のか…」
ナズナは少し肩を落とした後、あたしに笑いかけた。
それに対して、あたしもぎこちなく笑う。
ターニャが抱きしめてくれていなかったら、あたしは彼に抱きついて泣いてしまっていた事だろう。
帰りたいと言いながら。
「お嬢様。ちゃんとお帰りになられたので心配なさらないでください。まぁ、この方の慌てようは見るに耐えませんでしたが。カヅキの所にいないと知るや否や、スェッド国の宝剣を出して来てお嬢様の所へ行く、と言って聞かなかったのですから。そんな次元を斬る能力はない、とお二方は仰っていたようですが。カヅキも異世界からこちらに来て、この方を抑えながら呆れていましたとも」
それは…カヅキにも苦労をかけたというか何というか…。
そこまでナズナが慌ててくれていて嬉しいという気持ちと、少し落ち着いて物事を判断してほしいという気持ちが半々で、あたしは複雑な表情を浮かべていた事だろう。
ナズナが更に肩を落として、顔を俯かせた。
「仕方ないだろう…婚姻間近なのに、やっとシャルと結婚出来ると思っていた矢先にあれだぞ? 慌てもするし焦りもするに決まっている。これでシャルが帰って来なかったら、という不安もあった」
「だから、カヅキが来て解析していたのではないですか。あぁ、お嬢様。申し上げますが…この方、カヅキが解析したこちら側の次元に躊躇なく飛び込んだので、多分もうそろそろこちら側に現れるかと」
…何ですって?
ナズナがこちら側に来る?
五十年後の未来に?
それ、『
「お祖母様、忠告遅いよ。あと最高神、あまり悪戯するのは流石にどうかと思う。若い時の父様、母様の事になると暴走するじゃん。ユタカ義姉様が今抑えてくれてるけど、こっちにまで押し入りそうだよ?」
「その方が物語的には面白いでしょ? あたしは、面白ければ人なんてどうでも良いんだよ。人間って奴は醜悪だからね。善悪の判断なんて、その場の気持ち次第でどうとでも転ぶ。善人ばかりなんて面白くはない、悪人ばかりなんて物語が破綻する。良いじゃないか、若人よ。
ヘンリが呆れた目で見た方向、今まで誰もいなかった場所に最高神がいた。
黒い服を着た彼女は、魔女かと思われるような甲高い笑い声を上げる。
本当に薄気味悪いったら。
最高神ではなく、邪神と名乗った方がいいんじゃないの、こいつ。
「邪神、邪神か…まぁ、それでも良いかもね? あたしが作る子達はみんな変だと言われているから。あたし自身が邪神だからこそ、この世界は変で面白いって事だろう? まぁ、あたしが面白ければなんでも良いんだよ、なっちゃん。人からどう評価されようが、あたしの世界はあたしのものだ。そこで生きる君達もあたしのものだ。まぁ、こう言ってしまっては男神に怒られてしまうけれどね」
最高神は肩を竦め、ニヤリと笑う。
怒られてしまえ、とあたしは思った。
「お祖母様、母様離して。父様が慌ててるから」
「すまんなヘンリ。若い時の俺をよろしく頼む。あとシャル、これから苦労をかけるが…それは、大変申し訳ないというか…」
少し眉を下げて言う彼に、あたしは笑いかける。
「分かってる。あたしも多分、貴方に凄い迷惑をかけまくっていたのよね? なら、夫婦だもの。気にしないで。ただ、一つ聞いていいかしら…やっぱり結婚記念日忘れたの?」
「………すまない」
謝ったという事は、やっぱりそういう事なのだろう。
忘れてしまうとしても、これだけは逃れられないのかとあたしもナズナ同様肩を落とした。
「母様、ごめんね。もっとここにいさせてあげたいんだけど…」
「大丈夫よ、ヘンリ。とりあえず、最高神。お前だけは何があろうと許さないから」
クスクス笑いながらあたしを見る最高神…もとい、邪神はあたしに手を振りながら言う。
「君だけのつもりだったのに、ナズナも登場させてあげたんだから感謝してほしいくらいだね。本当に君のメンタルどうなってるのかな? 情緒ジェットコースターなの?」
「知るかばーか!!」
カヅキに習った、中指を立てながら相手を罵る行動をあたしは取る。
お嬢様!! とターニャから怒られたが、若い時分なので許して欲しい。
ナズナに至っては、やっぱりシャルは最高だと爆笑していたが。
意識が遠のき、次に目を開けたらナズナの顔がドアップであって、あたしは固まる。
まだあの場所にいるのだろうか、と錯覚してしまった。
「シャル! シャル!!」
「父様。そんなに揺さぶらなくても母様の意識がはっきりしたら、ちゃんと喋るって。あ、母様。気が付いた?」
ナズナの横にいたであろうヘンリが、あたしに声をかけてくる。