あとナズナ、あまり揺さぶらないでほしいのだけど。
気持ち悪くなるから。
「やめ…吐く…」
「シャル!!」
ナズナはあたしを抱きしめ、安堵のため息をつく。
ほらね、とヘンリは呆れていたが。
「…ターニャの言った通りだった…貴方、なんて無茶するの…」
「それはお前だろう?! お前がいなくなって半月は経ったんだぞ、こっちは!!」
となると、もう学校は始まっている事だろう。
ナズナだって、もう授業を受けていなければならないはず。
あたしは若干青ざめて、心配して怒鳴った彼へ縋り付くように、服を握りしめる。
「あの、ナズナ、あたし留年…」
「…留年にはならないように、カーン先生には少し休む旨を伝えてはあるが…このままいけばそうなるだろうな…。まぁ、留年確定になる前に戻れば良いだけの話ではあるし、追試を受ければ授業は免除してくれるそうだ。シャル…無事で良かった…」
ナズナが額を合わせてきた。
本当に安心したと、その表情は物語っていた。
あぁ、ナズナだ。
あたしが大好きで会いたかったナズナだ。
「父様、母様。いちゃついてる所悪いんだけど、もうそろそろ退出しないと他の信者の迷惑になるから」
ナズナはそれを聞き、あたしを抱き上げて教会の入り口に向かう。
ヘンリとユタカちゃんもそれに続き、ヘンリが駐車場に停めてあった車まで誘導する。
彼はそれを見た瞬間、歩みを止めてしまったが。
「ナズナ? あの、降ろしてもらえない? 流石に歩けるから…」
「あ、あぁ…」
あたしを降ろしたは良いが、ナズナの視線は車に釘付けになっている。
物珍しくて観察しているのだろうが、後十数年もしたらカヅキの手によって登場するらしいので、そう観察しなくとも…。
「父様、こっちだよ。それともぼくの頭撫でる?」
誘導していたのに、ナズナが歩を止めてしまったのを見たヘンリが彼にそう聞く。
チラリ、とナズナがあたしを見た。
「? 何?」
「いや、その…自分の娘だって、説明は受けたし…シャルと同じ髪色と瞳だから、信じはするが…撫でて良いものなのか? お前、怒らないか?」
たかだか頭なのに?
体撫でたら流石にキレるとは思うけど。
あたしは呆れたように、ため息を吐く。
「別に怒らないわよ。だって、あたし達の娘なのよ? 娘の頭を撫でて、キレる母親が何処にいるっていうの」
「お前ならキレそうだと…」
そう言ったナズナの背中を軽く叩いた。
怒らないから早くしなさい、とあたしは彼に言う。
恐る恐るヘンリの頭を撫でるナズナに、彼女は笑いかけた。
「ん、ありがとう父様」
「いや…別に。これくらいなら…」
ユタカちゃんが後方で、微笑ましげにあたし達を見ている。
なんでだろうと、あたしは彼女の傍に寄りこっそり尋ねた。
「ユタカちゃん、何か思うところがあるの?」
「え? あー…ヘンリちゃんが産まれた時、私もユエも同時期に子供産んでてね。その時、おじさまがグンちゃんに言ったの。初めての子供なんだから、妻のサポートをしろ。お前の業務も俺が請け合おう。シャルには大変申し訳ないが、って」
まぁ、ヘンリが末っ子みたいだし。
何人も子ども産んでる『
むしろ、お嫁さんに来てくれてるユエちゃんを気遣ってやれ、グンジョウの業務くらい貴方一人で出来るだろうと、彼に言ったに違いなかった。
「それから子供が多少大きくなるまで、おじさまはヘンリちゃんに会う事もなく、ずっと執務室で仕事しててね。あんまり親子の触れ合いっていうのかな。そういうのして来なかったからヘンリちゃん、おじさまに甘えたいんじゃないかな、って思って見てただけなの」
「なるほど…」
こちらのナズナはもう亡くなってしまっているし、甘えるとしてもあの場所に行かなければならない。
過去のとはいえ、両親が揃っている今、ヘンリはとても嬉しいのだろうと思った。
「ヘンリ」
あたしは彼女の名前を呼びつつ、抱きしめる。
抱きしめられた彼女は、多少驚いているようだった。
「どうしたの、母様?」
「んー? 未来で貴女に会えるのが、今からとても楽しみだなと思っただけよ。あたしの可愛いヘンリエッタ。ね、ナズナ?」
彼に尋ねると、少し驚いた表情をした後フッと笑ってくれる。
「そうだな。シャルそっくりじゃないか、ヘンリ。他にも兄弟がいるのか?」
ナズナはヘンリの頭を撫でつつ、彼女に聞いた。
「いるよ、父様。上に兄三人、姉三人。ぼくは末っ子だからね。でも、みんなとっても優しいよ。ぼく、兄様や姉様達が大好き。勿論、父様や母様も大好きだよ」
満面の笑みでそう言うヘンリが愛おしく思え、あたしはヘンリを抱きしめる力を強める。
苦しいと言っていたヘンリだったが、それでも笑みは絶えなかった。
◆◆◆
車で移動している際、ナズナは物珍しげに車内を見る。
ヘンリやユタカちゃんから、この時代の話を聞いて目を輝かせていたが、カヅキから記憶封鎖されると聞いて、少ししょんぼりしていた。