シンクの屋敷に着く頃にはもう夕方になっていて、その場でヘンリとは別れる。
泊まらないのかとナズナが彼女に聞いたが、
「ぼく、大食漢だからね。シンク兄様が困るんだよ。食べ物を食べなくても、人の魔力を食べれば良いんだけど…それをするとおばさんに怒られるから。食べても良いのは死刑囚だけって言われてるしね。気にしないで、父様」
とにこやかに返されてしまい、ナズナは少し複雑そうな顔をしていた。
ちゃんとヘンリがご飯食べれているのか、心配になったのだろう。
なんか、ダンジョン? と呼ばれてる場所に行ってご飯を食べてもいるらしいので、それらを説明したが、ダンジョンが気になったらしいナズナがそこへ行きたいと言い始め、彼を説得するのに骨が折れた。
夕飯を頂いて部屋でのんびりする事にし、あたしから今までの事と、自分の子供達の話を聞いたナズナは、子供達に会ってみたかったと言う。
「会ってくれば良いじゃないの」
「最高神が言っていたんだろう? 明後日…もう明日か。明日には帰れるだろうって。なら、その通りになるはずだ。ヴェスタ神よりも上の存在に逆らえるはずもないだろうしな」
あの邪神の言う事なんて気にしなければ良いとは思うのだけど、確かにあれに逆らうには命がいくらあっても足りない気がする。
本当に、不本意ではあるけれど。
「なら、帰るまで巡ってくれば良いわよ。ヘンリにお願いすれば、連れて行ってくれるだろうし。貴方の願いなら無碍にはしないわよ、あの子」
「まぁ、そう…だな。しかし、そうか…俺はもう死んでいるのか。シャル…一人にしてすまない」
彼はそう言い、あたしを抱きしめてくる。
五十年後、彼はもう居ない。
それは、仕方ない事なのだが。
「本当よ。あたしを一人にするなんて、酷い人だわ。そのせいであたし少しおかしくなってるのよ? …早く、迎えに来てねナズナ。貴方がいなくて、きっとあたしとても寂しいと思うから」
ギュッと、あたしは彼の背に手を回し、服を掴む。
「あぁ。必ず、迎えに行くよ。俺もお前と離れるのは耐え難い。待っててくれ、シャル」
ナズナはあたしの頭を撫で、そう言ってくれた。
彼が何歳で亡くなったのかは、聞いていない。
それでも、あたしが狂うくらいにはきっと長い時間、彼は傍からいなくなってしまっているのだろう。
それでも、共に過ごした時間よりは短いのだろうが。
「嫌になるわね…あたし、こんなに弱くなってしまうの? 貴方の負担にならないかしら…」
「なってくれても良いさ。むしろ、もっと弱いところを見せてくれシャルロット。そこも含めて、お前が愛おしいんだ。俺の、
彼はあたしの顔にキスの雨を降らせ、長い時間唇を合わせる。
ナズナにとって、あたしは半月ぶりに会う婚約者なのだろうから。
あたしにとっては、二日ぶりではあるが。
ナズナと一緒に眠り、朝になって朝食を頂く。
その際、ナズナはシンクに急に来たのに持て成してくれた礼と、自分とあたしの子供達に会って見たいと告げた。
「…あー、ヘンリ呼びます…」
グンジョウから任された仕事が忙しいのだろう。
シンクが疲れたような笑顔を浮かべる。
ナズナは口を開きかけて、すぐさま閉じた。
手伝おうとか言いたかったんだろうけど、あたし達には時間がない事を思い出したらしい。
「あたしは良いから、貴方達だけで行ってらっしゃいな。母親の顔なんて、もう一度見るものじゃないでしょう?」
シンクに呼ばれたヘンリが、母様もと言ってくれたのをそう言って断った。
実際もう一回顔を合わすなんて、気まずいだけではないだろうか。
「そんな事ないよ。父様と母様が揃ってたら、みんな喜ぶよ。ね、母様?」
「んー…貴方どう思う?」
ヘンリから抱きつかれ、あたしはナズナに尋ねた。
「別に良いんじゃないか? 俺はシンクやヘンリしか今の所知らないが、お前と顔を合わせた所でどうとも思わないのでは? こちらにはまだシャルが生きているんだろう?」
「そうだけど…」
過去の、しかも自分達を産む前の両親が来たら、みんなどんな反応するのだろうか。
やっぱり、あたしここで大人しく待っていた方が良いんじゃないかしら。
そう思っていると、ナズナから抱き上げられる。
有無を言わさず連れて行く、という意志を感じた。
「ちょっと! あなた!!」
「嫌ならそのまま大人しくしてろ、シャル。ヘンリ、案内してくれ」
はーい、とヘンリは嬉しそうに返事をし、転位門へあたし達を案内していく。
こいつ、あたしの意思を無視しやがって…!!
帰ったら殴……記憶ぅぅ……っ!!
肩へ担ぐように抱き上げられていたので、あたしはナズナの背を腹いせに叩きまくってやった。
◆◆◆
「で、今度は上から行こう、ってのでここ来たんだ…」
あたしの状態を見ながら、シャナが苦笑いしている。
荷物の如く扱われているので、そうなるのも無理からぬ事ではあるが。
降ろしてってお願いしてみたが、シンクの屋敷に逃げ帰られたら困る、と言われ降ろしてもらえなかったのだ。
だから仕方無しに、この状態なのである。