「こんにちは、お父様。リーゼ・クレマチス・テスタロッサです。昨日ぶりです、お母様」
にこやかに挨拶されたので、ナズナも毒気が抜かれたようだ。
「あ、あぁ。こんにちは?」
「ふふ。ほら、ルージェ。お義父様ですよ? ちゃんとご挨拶してくださいな、あなた」
出来るでしょ、という笑顔の圧を受けて、ルージェはあたし達に頭を下げる。
「ルージェ・アクロアイト・テスタロッサです!! お世話になっております!!」
「誰も世話などしていないが」
それはそうなんだけど、萎縮しまくってるじゃないルージェ。
あたしは一つため息をついて、ナズナに言った。
「あたしの義理の弟なのだから、もうちょっと愛想良くして」
「…リーゼ、何故シャルの弟とお前が婚姻を結んでいるんだ?」
ふふ、とリーゼは笑ってルージェを見る。
というか娘が可愛いのはわかるんだけど、初めての娘はシャナなのだから、それはシャナの旦那さんであるツルギ君に向けるべきなのではと思う。
まぁ、あの場にツルギ君がいなかったから仕方ないのかもしれなかったが。
「学生時代、毎日口説かれていたんですよ。お花を一輪、朝に渡されて可愛いと言われ、放課後は私に好きだと言って帰っていく。まぁ…絆されてしまいまして。ね、ルージェ?」
「あ、うん…本当、俺のお嫁さんになってくれてありがとう、リーゼ」
それを聞いてムッとしたナズナに、あたしは尋ねる。
「なんで、そんなにムッとするのよ貴方は」
「いや…髪色がシャルと同じなものだからその…つい」
あたしと髪色が同じだからって、あたしと混同しないで貰えないかしら。
そういうのは、彼女が産まれてからにしてくれないだろうか。
ついじゃないのよ、ついじゃ。
あたし達の会話に、リーゼがクスクス笑った。
なんでそんなに笑うのだろうと、彼女を見る。
「すみません。いつも見てきた両親が、若い時からそうだったのだと思って嬉しくて笑ってしまいました。仲が宜しくて羨ましいです、ねぇ、ルージェ?」
「…えっと、うん…俺達も仲良いよ、な?」
体勢を戻したルージェがリーゼに聞くが、彼女の笑みが深くなった。
ルージェがやらかした事を聞いた身としては、そのリーゼの笑みに何かしらの意図が見えて、目を逸らす。
ナズナだけがそれを知らないので、なんでリーゼがルージェに圧をかけているのかわからず首を傾げていた。
疑問に思い、尋ねようと口を開きかけたのでそれを塞ぐ。
「…シャル、何をする」
あたしの手を掴み、自分の口から外したナズナが、あたしを見ながらムッとした。
「夫婦間の問題なのに、まだとは言え父親が口出して良いはずがないでしょう。何でもかんでも聞くのやめなさいよ。突っ込まれたくない事情だってあるんだから、人には。ね、ルージェ?」
「義姉様…!!」
助かった、とルージェのその表情は物語っていた。
まさか、妻であり彼の娘の初産で寝落ちしました、なんてナズナの前で言おうものなら、文字通り雷が落ちるだろう。
というか、その時ナズナは何をしていたのだろうか?
ルージェが生きているという事は、雷は落ちなかったという事なのだが。
「リーゼ、あの時ってナズナ何してたの?」
やらかした事を言わず、あたしはリーゼに尋ねる。
彼女はそれを理解して困った顔をした。
「あの時のお父様も、お怒りになってはおられましたよ? でも、それ以上にお祖母様とおばさまがお怒りになっておられたので、その矛を収めた感じでしたね」
「…ルージェ…貴様、浮気でもしたのか?」
ナズナの圧に、ルージェは首を思い切り横に振る。
まぁ、やらかした事を言わないで話をすればそう聞こえてもおかしくないんだけど。
「リーゼ以外眼中にないです!! リーゼに捨てられたら俺生きていけないです!! むしろ死にます!!」
「そんなに大きな声を出さないでくださいな、あなた。自分の歳考えてください」
ごめん、とルージェはリーゼに謝る。
彼はリーゼの事になると、周りが見えなくなるらしい。
自分の娘が愛されているのを見るのは、微笑ましいものを感じる。
ナズナはどうか知らないが。
「なら、何をしたんだお前は」
「えーっ…と…そのぉ…」
ナズナの問いに、ルージェはまた冷や汗を流し始める。
それは道中話してあげるとあたしは言い、時間があまりないからとテスタロッサ家から辞した。
◆◆◆
「……はぁ?! お産の時に隣で爆睡していただと?!」
次の目的地、立花邸に着いてからあたしはルージェがやらかした事を彼に告げる。
それについて怒った彼の体からプラズマが放出されたが、一旦落ち着けと宥めた。
「まだあたし子供産んでないのに…貴方、もう父親の自覚が芽生えたの?」
「いくら俺達より年上だからと、俺達の子供に変わりはないだろう。というか、ルージェの奴…記憶を持って帰れるのなら、あいつと婚姻など許さんのだが」
ムッとしているナズナの右腕に、案内をしてくれているヘンリが抱きつく。
落ち着いて欲しいという意図が見えたので、あたしは彼女の頭を撫でた。