お祖父様、と彼女はナズナから離れそうもなく、あたしはヘンリを見た。
「マリアはお祖父ちゃんっ子だったから。父様によく、模擬戦っていうか稽古つけて貰っててね。父様が死んだ時も生き返らせよう、って言い始めたくらいで、ケーネ先生に寿命だから無理だって言われてたんだ」
「…待て? 俺は年相応に老けているのでは? 子供達を見てて思ったが、誰も年相応に見えないな? シャルの遺伝子か? それでよく俺が祖父と分かったな、この子?」
疑問だらけで、彼はヘンリに尋ねる。
彼女は肩を竦めながら、ナズナの質問に答えた。
「父様も老けなかったよ。多分、長い時間母様の傍にいたからじゃないかな? 母様の魔力に当てられ続けていたから、老けづらかったんだろうとは思う。ぼくらが老けないのは、確かに母様の遺伝の力が強いとは思うけどね」
…やっぱり、あの神どものせいじゃないか。
あの世に行ったら思う存分ぶん殴ってやる…!!
結構大きな音をさせたので、ラゼッタが何だろうと様子を見に来る。
あたし達の様子と、マリアが泣いているのを理解した彼は苦笑した。
「マリア、父様困ってんだろ。離れなさい」
「やだー!! お祖父様にまた会えたんだもん!! ここに残ったら私達生まれないから、私がお祖父様の時代に行くー!!」
それはラゼッタ達が大変困るのでは?
というか、多分この後カヅキの所に行くだろうから、そこで拘束されるのがオチなのでは?
泣き喚き始めたマリアに金属の鎖が絡まり始め、彼女をナズナから引き剥がす。
鎖の行先を見ると、リオンさんがニコニコ笑いながらマリアを拘束していた。
「申し訳ありません、お義父様、お義母様。うちの娘がご迷惑をおかけしました」
「ママ離してよぉっ!!」
マリアがもがいているが、彼女の声が五月蝿いと感じたのだろう。
リオンさんは鎖で彼女の口を塞いでしまった。
「…なんか、すまない」
「いえいえ。むしろ迷惑をかけているのはこちらなので。ラゼル、物理的にでも良いので娘を止めてくれないと困ります」
父様じゃあるまいし、とラゼッタがリオンさんの言葉に返す。
それを聞いて、立ち上がったナズナは困惑した表情を浮かべた。
「…俺は、娘に手を上げるような親だったのか?」
「あー、いやいや!! 訓練!! 訓練で!! むしろ、父様に手を上げられたのは俺だけというか…」
ん?
ナズナが手を上げた?
ラゼッタに?
俺だけってどういう事?
何となーく嫌な予感がして、でもそれは勘違いだと言って欲しくて、あたしはラゼッタに尋ねる。
「貴方まさか…学生時代に子供が出来たとか…」
「………はい」
ナズナは頭痛がしたのか、自分の頭を押さえ眉を寄せてため息をついた。
まさかユキヤ君のような事態を、自分の息子が引き起こすとは思ってなかったのだろう。
あたしも思わなかった。
「ねぇ、ラゼッタ…まさかリオンさん以外と婚約とか…してたのかしら?」
「してないしてない!! 俺、高等部でリオと婚約したんだけど、その…なんていうか…」
その先は親にも言い渋るって相当じゃないの。
いや、聞きたくはないけれど。
どうせ、気が昂ってーとか言い始めるに決まってそうだったから。
「ラゼッタ、すまんがそれ以上は言わないでもらえないか…シャルもだが、俺も頭が痛くなってきた…」
「ごめん父様、母様…」
しょんぼりしてしまったラゼッタに、リオンさんが微笑む。
「それでも、子供が出来た時に結婚しようかと言ってくれて嬉しかったんですよ、ラゼル? 私が選んだ男性は、責任逃れせず、ちゃんと私との将来を考えてくれているのだと」
「いや、それは当たり前じゃん。リオと結婚したくて婚約結んでもらったんだから。まぁ…時期が早まっちゃって、双方の親から半殺しにはされたけど…」
それはそうだろう。
むしろラゼッタを殺しても良いと、ナズナやあたしがカヅキに言ってそうだなと思った。
◆◆◆
頭が痛くなる未来を知ってしまい、最後に来たカヅキの所でナズナが言う。
「ラゼッタまで作らないといけないのか…?」
「ヘンリに会う為よあなた。それに記憶封鎖されるのだから、この事は覚えていないわよ…」
二人してため息をついてしまう。
そんなあたし達を見て、ヘンリは聞いてきた。
「おばさんに口添えして、記憶残してもらうよう言おうか?」
「口添えした所で無駄よ、ヘンリ。あいつの性格はあたしが一番把握してますとも。一度決めたら、此方が何を言おうとも実行するのがカヅキですもの。その行動は自分の為であるのと同時に、周りの為にもなる。だからこそ、あたしは彼女を信頼しているのよ」
あたしはヘンリを抱きしめ、頭を撫でながら彼女に微笑む。
「彼女の行動は全て正しい。あたし達が記憶を持ち帰ってしまったら、それこそ歴史が変わってしまう。それは、貴女にも会えなくなってしまうという事なのよ、ヘンリ? あたしは嫌だわ。ラゼッタはまぁ…今はちゃんと領主が出来ているみたいだから、目溢しはするけれど。貴女みたいな可愛い娘に会えなくなるのは、とても嫌だと思うの。ね、あなた?」
「そうだな。どうせやらかした時、俺とシャルは何回もあいつを殺しているはずだし、それで反省すれば良い方だろう」
ナズナもヘンリの頭を撫で、微笑んだ。