あたし達に頭を撫でられ、ヘンリは気持ちよさそうに目を閉じ、あたしに甘えてくる。
ヘンリに会うためなら何回でも子供産んでやろうじゃないの、と思ってしまった。
「やっと来たか」
「えぇ。待たせてしまって、ごめんなさいね…」
車椅子に乗り、あたし達を出迎えてくれたカヅキだったが、あたしは彼女の足元辺りが気になってそちらを見てしまう。
なんか虫みたいな物が這っているのだけど…あれなんだろう?
ヘンリも微妙そうな顔でそれを見ているし。
「カヅキ、あれは何だ?」
ナズナも気になったようで、彼女に虫っぽい何かの存在について尋ねる。
ん? と自分の足元をワサワサ動いているそれに目をやり、あぁ、と何か合点がいったかのように、それについて教えてくれた。
「ダイオウグソクムシ型の、ロボット掃除機だが」
「「気持ち悪…」」
ヘンリと同時に同じ事を言う。
流石親子だわと思ったが、カヅキはヘンリを見て首を傾げた。
「ダイオウグソクムシは美味いらしいぞ?」
「あれ食べるくらいなら、ケーネ先生のウロコ食べてた方が美味しい。味一緒だし」
ケーネ先生のウロコ?
彼、人じゃなかったの?
あと、うちの子がそれを食べてても何も思わない事にしよう。
だってヘンリ、ベルゼビュートの転生体だし…。
疑問と自答が頭をよぎって行くが、どうせ今から記憶封鎖されるのだからと、あたしはヘンリに尋ねる。
「ケーネ先生、人じゃないの?」
「装甲龍っていう、レア中のレアな龍種だよ。リューネには龍はいないけど、オーシアにはいっぱいいるんだ。ケーネ先生はオーシア産の龍種だよ」
オーシア産ってなんだろうか?
そんな国産だの外国産だのの違いみたいな言い方して、あとでこの子ケーネ先生に怒られないかしら…。
「ヘンリ、まだケーネを食べ物だと思っているのか?」
「思ってるわけないじゃん。小さい頃は確かにケーネ先生を食べ物として追いかけちゃったけど、今は普通に異種族のお医者さんとしか見てないよ」
それを聞いて、あたしは思わず顔を覆ってしまう。
うちの子が迷惑かけてすみません、ケーネ先生…。
あと、うちの子達癖強すぎないかしら?
まともなの、グンジョウだけなのでは…。
ナズナも苦笑しているようで、あたしの頭を撫でてくる。
「さて、お前達に記憶封鎖を施す、が……ナズナ、てめぇ…過去の私の手を煩わすんじゃねぇよ。師匠に、お嬢様の一大事だっていうから仕方なくそっちの世界に行って、解析してた次元の狭間に躊躇なく飛び込みやがって」
「それは申し訳なかった…憶測で物を言うのだが…多分俺が帰ってきた後、同じ事言わなかったか? お前」
言ったわボケ、と眉を吊り上げて彼女はそう言う。
まぁ、事故でこちらに来てしまったあたしと、自ら飛び込んだナズナじゃ苛つき度の具合が違うだろう。
作業量を増やしてしまって大変申し訳ない…。
「お嬢様は良いんだよ、仕方ねぇから。お前は何なんだ?! お前まで探す羽目になるとは思わなかったぞ、こっちは!!」
「いや、その…すまない…」
カヅキに叱られて、しょんぼりとしてしまったナズナに、ヘンリが腕へ抱きついていく。
そんな娘の頭を、彼は苦笑しながら撫でた。
「ごめんなさいね、カヅキ。本当に助かりました。貴女がこの時代でも生きててくれて良かったわ」
「ふん…まぁ、良いだろう。だがナズナ、お前ナツキに迷惑かけまくるんじゃねぇぞ? また今度呼ばれるような事態になったら、お前半殺しにするからな」
彼を脅すカヅキだったが、ナズナは少し困った顔をする。
「記憶封鎖されるから覚えていられないんだが…」
「あぁ言えばこう言うんじゃねぇよ!! そこは、はい、とでも頷いとけクソボケ!!」
まぁ、口が悪いこと。
それでこそカヅキではあるのだが。
彼女はため息をついて、あたし達を手招きした。
ヘンリはナズナから離れ、カヅキの横に並ぶ。
素直に二人して近付くと、屈めとジェスチャーされたのでそうやったら、彼女に頭を掴まれた。
「雛桔梗、オートモードで二人を運んでやれ。意識を取り戻したら、もう元の時代だ。またな、ナツキ。ナズナ、テメェは一回反省しろ」
「またね、父様、母様。二人の所に産まれてくるぼくを宜しく」
意識が遠のく。
ナズナがあたしの手を掴んできたので、それを握り返し、視界が暗転した。
◆◆◆
「お嬢様、起きてください。風邪を召されますよ」
ターニャの声で、あたしは目を開ける。
彼女の顔が目の前にあって、ここは何処だと思った。
体の下が冷たい事から、廊下辺りで寝てしまっていたのだろうと推測出来るが。
「ターニャ…ここ何処?」
あたしは起き上がり、彼女に尋ねる。
「城の廊下ですよ、お嬢様。ほら、あちらに愚の骨頂の極みみたいな方が、カヅキからお説教を受けていますとも」
何だそれはと彼女が指差す方へ首を向けると、ナズナが正座でカヅキから怒鳴られている所だった。
「お嬢様、何があったのですか?」
「何…何か?」
思い出そうとしても、記憶に靄がかかっているみたいで思い出せない。