あたしの姿に目を丸くしていた彼へ、頭を下げて謝る。
専属護衛として、あるまじき失態だ。
罰なり何なり受けよう。
そう思っていたのだけど。
「いや、体調は大丈夫か? 今日は新学期の初日だが、まだ無理そうなら使い魔を寄越して、休んでいるといい」
…優しすぎない?
あたしは顔を上げ、頭を横へ振った。
「もう大丈夫。ぐっすり眠れたし、体調も魔力も万全。なんか、朝食もカナリアが作って行ってくれたって聞いたし。朝ご飯は何かなー?」
ナズナに微笑み、踵を返してキッチンへ行く。
到達した瞬間、あたしは固まった。
「? シャル、どうした?」
「い、いや、何でもない」
部屋の内装を見てても思ったのだけど、キッチンも現代風で驚く。
これ作った人誰よ?
冷蔵庫や電子レンジもあるって、洋風な魔法ファンタジー世界なのに、日本みがあるって世界観バグってるわよ?
別荘は、かまどがあったり、薪が置いてあったりしたのに。
「キッチンなんて、ありきたりなものだぞ? 何を驚いている?」
「いやー…この建物とかこれ作った人って、誰なのかしらって思って」
ナズナに怪訝そうな顔をされ、あたしは尋ねる。
「テスタロッサ卿だったはずだ。魔道具開発に熱心な男でな。少し変わり者だが、話はわかる奴だ」
そっか、ナズナ会った事あるんだ。
王太子だもんね。
ナズナにブラックコーヒー、あたしはカフェオレを入れて朝食をとり、部屋に戻って制服に着替える。
ミッドナイトブルー色の、ワンピースタイプのようで、ショートブレザーが上着のようだ。
同じく濃い色のリボンをつけるが、首回りには余裕を持たせる。
何でか知らないけど、首周りをきつくしたら一回気絶したことがあったのだ。
それ以来、首周りには何もつけないか、どうしてもつけなきゃいけない時は緩めるか。
どちらかにしている。
リビングに戻ると、ナズナも同じ色のブレザータイプの制服を着ていた。
そうしてみるとちゃんと学生に見えるから不思議だわ。
◆◆◆
学校に登校して、あたしとナズナは校長室に来ていた。
一応転入生という形にあたしはなるらしく、ナズナと一緒に先生に連れられて教室に入るという話をされる。
「さて、あなた達の担任をご紹介するわね。カーン、入ってきてちょうだい」
校長に呼ばれて入ってきたのは、肩まで伸ばした黒い長髪に、黒縁の眼鏡をかけた男性だった。
「カーンです。よろしくー」
白衣を着ているという事は、科学の専門教師なのかしら?
「よろしくお願いします。シャルロットと申します」
「ご丁寧にどうも。でも、僕は王子だろうが護衛役だろうが、贔屓するつもりはありませんので。そこんとこご了承いただければ」
そう言い、カーン先生は懐から煙草を取り出して火をつける。
その瞬間、あたしは煙草自体を奪って握り潰してしまっていた。
脊髄反射的にやってしまったので、やられたカーン先生もだが、あたしも驚いてしまう。
「あ…すみません…。煙草の弁償します」
「良いのよー。室内で吸うなんてナンセンスにも程があるもの。それよりシャルロットちゃん、火傷してない? 火がついたのそのまま握っちゃったでしょう?」
煙草を握った手を開く。
自己修復能力が高いおかげで、火傷跡は全くなかった。
「もう、吸うなら外で吸ってちょうだい」
「はいはい。んじゃ、教室に行きましょうか」
先生が校長室を出る。
あたしとナズナは、彼の後を追った。
「シャル、さっきはどうした?」
あたしの行動に驚いたのか、ナズナがこっそり尋ねてくる。
確かに、あたしらしくない行動ではあった。
だけど、あたし自身もよくわかっていない。
「わかんない。気がついたらあんな行動してた」
「そうか」
彼はその話を続ける事なく、前を向いた。
暫く歩いていると、カーン先生がある教室の前で止まる。
クラス名を見ると、2年7組と書いてあった。
「…ナズナ、貴方18よね?」
「そうだか?」
「…留年したの?」
あたしの言葉に、ナズナとカーン先生が驚いた顔でこちらを見てくる。
一体何だとこちらも見ると、ナズナはため息をついた。
「俺は17の時にここに入ったんだ。戦後の後処理とか、各地の視察、親父の仕事の代理とかでな。入るのが遅れただけで、決して留年などしていない」
「ナズナ君は寧ろ、学年主席ですよ。留年なんてとてもとても。素行も悪くはありませんし」
先生がベタ褒めしている。
むしろ素行不良なのは先生の方ではないかと思う。
「さて、無駄話はこれくらいで。僕が呼んだら中に入ってきてください。さ、ナズナ君は先に」
先生に促されて、ナズナは教室の中に入っていく。
「勉強等、わからないことがあったら彼に聞いてください。まぁ、王太子殿下の護衛ですから、落ちこぼれというわけではないでしょうが」
「そうですね。殿下に教えていただくのも申し訳ありませんし、
ニコリと笑い、安い挑発をかわす。
カーン先生はそうしてくださいと一言言って、教室の中に入って行った。