「欲張り」
好みを聞いたのに、どちらともとはなんだ。
言っては悪いが、
顔も美少女とは程遠く、童顔とはよく言われた。
髪も天然パーマが入っており、手入れをしなければすぐクルクルになるような髪質で、長谷川達が苦労していたのを知っている。
スタイルも良い方ではない。
運動はしていたが、あまりカロリーの高くないものを食べさせられていた気がする。
逆に
この世界では絶対に産まれる事のない色素をもった、唯一の人間である(ナズナ談)。
目も大きく、少し垂れ目かなとは思う。
髪質はストレート、スタイルももちろん良く、背も高い。
いくら食べても太らないという、前世からしたら羨ましい体質だ。
そんな真反対なのに、この人のストライクゾーンって広すぎなのではないだろうか?
「妻になる女が好みだと言っている。ナツキはコンパクトで持ち運びしやすい。俺の腕の中から逃げられそうもないから、安心感がある。逆にシャルロットは抱き心地が良いから、そちらでも安心感が得られていい」
そう言いつつ、ナズナはあたしを抱き上げた。
そして、もう少し体重を増やせ、と彼は言ってくる。
そんな事言われても、前世で体重がいくらだったかなんて把握してないし、今世だって体重計という物がこの寮の中にないのだから、あたしが今どれくらいの重さなのか確認しようもない。
だから仕方ないのだが、彼にとってあたしは軽すぎる分類になるのだろう。
むしろ、今までナズナが出会ってきた女性達の体重が、重かっただけなのでは無いだろうか?
それになんだ、安心感って。
あと抱き心地がいいって、あたしそんなにお肉ついてるのかしら。
少しお腹の肉をつまんでみる。
そんなあたしの動作を見たナズナが、違うと首を横に振った。
「………胸が、な」
「…あー…成程……男の人って、変態なんだってターニャが言っていたけど…その通りだわ…降ろしてもらえない?」
嫌だ、と彼はあたしを抱き上げたまま抱きしめてくる。
そのまま降ろしたら、自分から離れると思ったのだろう。
その通りだけど。
「変態はお断りなのだけれど。いくら成長しているとはいえ、背も低い今のあたしは幼女と見間違えられてもおかしくはないのよ? 貴方、幼女も守備範囲なの?」
「だから! 妻になるお前が好みだって言ってるんだ!! 言っただろ?! お前の見た目や能力ではなく、お前の心に惚れたんだって!!」
そんな大声で言わないでもらえないだろうか。
耳が痛くなる。
わかったから、と言いつつ、あたしは自分の耳を押さえた。
近距離で言われたものだから、耳鳴りがし始めている。
「す、すまない、シャル…大丈夫か?」
「…大丈夫…すぐ治るわ。そんな顔するなら怒鳴らないでちょうだいよ…仕方ない人ね、貴方は」
ペチリ、とその額をあたしは軽く叩いた。
◆◆◆
クロエが依頼を持ってきた数日後、あたしはナツキに変装、というか幻術を使ってなり、ある貴族の屋敷に潜入する。
メイドを募集しているとの事でそれに応募し、すんなり通ったのだが…先に潜入してたギルド員がいたらしい。
採用担当までなっている所を見るに、結構優秀なのだろう。
それでも情報が掴めないなんて、ターニャ並にここの当主は用心深いというか、情報統制が得意なようだ。
そのギルド員があたしの教育係になってくれ、まず手始めにと掃除の仕方を教わる。
「光姫にまでお願いする羽目になるなんて…情けない限りです…しかもテスタロッサのお嬢様なのに…次期王妃様なのに…掃除させるなんて…」
窓の掃除をしていたギルド員…マーサが本当に申し訳なさそう…いや、泣きそうになりながら言う。
「仕事だから仕方ないわよ。それに、メイド達の仕事ってどんなものなのかしら、って思っていたの。ほら、その人の仕事を体験しないと分からない事って、あるじゃない? 泣きそうにならないで、マーサ。貴女ここでは先輩なのだから」
あたしは苦笑しながら、マーサを慰める。
こんな会話をしているのも、周りに人がいないからだった。
一応、謀反の疑い有りで調べにきているだけで、無実なら早めに切り上げようと考えている。
それにこの貴族、あたしには覚えがありすぎる人の屋敷だった。
去年か一昨年だったか。
あたしにいちゃもんつけてきた、ガルシア家の屋敷だったのだ。
「あのお嬢様は関係ない、とは思いたいんだけどなぁ…」
今のあたしはナツキであるからして、先輩に会った所で面識はないのだが、あまり見たくはない顔かな、と思ってしまう。
マーサに付いて、色んな場所の掃除をして行きながら、屋敷の構造を覚えていった。
途中あの先輩にも会ったが、魔力波形も姿もあたしとは全く違うので気づかず通り過ぎていく。
内心、気づかれたらどうしようとは思っていたので、心のうちでホッと胸を撫で下ろした。