どうして、ナズナが怒るのだろう。
あたしに別れ話を切り出せばいいのに。
手から血が流れてる…治さなきゃ。
あたしは彼に近寄り、回復魔法を施す。
治った瞬間、ナズナはあたしを腕の中に閉じ込めた。
「あの声、ガルシア家のルーチェ・ガルシアだな? シャルロット。あれは全て嘘だ。これは言い訳ではない、真実しか俺は述べない。あれとデートなんぞせん。あぁいう女が好かんのは、お前も知っているだろう? それに、お前からの束縛なら喜んで受けよう。寧ろ、俺を縛ってくれシャルロット。四六時中傍にいて鬱陶しい? 俺はお前に、ずっと傍に居て欲しいと願っているんだ。今お前が傍にいなくて、俺はとても寂しい。仕事で離れているのだと、分かっていても。早く帰ってきてくれと、毎夜寝る前に思っているんだ。あぁ…お前と心を共に出来たのなら、離れていても寂しくないのにな」
彼は体を少し離し、本当に寂しげに笑う。
あたしは、ポロポロと涙を溢した。
ごめんなさい、と言いながら。
「…泣かないでくれ、シャルロット。謝る必要などない。俺の様子がわからない場所で、そんな事を聞いたら不安になるのは分かる。お前を責めはせんさ。お前は自分を卑下する癖があるからな。そんなお前に不安を抱かせた、あの令嬢は許しておけん。大丈夫だ、シャルロット。前も言っただろう? 不安なら何回でも、俺を試していい。何度でも、俺はお前を愛していると言い続ける。結婚したら、ずっと傍で愛を囁き続けるよシャルロット。態度でも行動でも、お前を愛していると示し続ける。だから、泣くなシャル」
ナズナはあたしの目にキスを落とす。
最後は唇にキスをくれた。
「…ナズナ、怒らないの? あたし、仕事放り出して、貴方に会いに来ちゃって…」
そう言うと彼は額にキスをし、あたしの目に残った涙を拭う。
「何を怒る必要がある。責任感の強いお前がこうしたという事は、何か原因があるという事だ。むしろ、不安がらせてすまなかったなシャル。数日ぶりだが、会えて嬉しい。ナツキも良いが、やはりシャルの方が良い。好きだ、愛している。この気持ちは不変のものだ、シャルロット。俺の妃、俺の
ナズナはまたあたしにキスをしてくる。
不安だった気持ちが溶けていき、あたしは彼の首に腕を回した。
これだけ、言葉を重ねてあたしを愛していると言ってくれているナズナが、あたしも大好きで、愛している。
不安になって、疑って、ごめんなさい。
深い口づけになり、立っていられなくなったあたしは、ナズナに縋り付いた。
「ナズ…ナ…」
キスの合間に彼の名前を呼ぶ。
目が合ったナズナは、あたしから唇を離した。
「…これ以上は歯止めが効かなくなりそうだ。あと二ヶ月だが…つまみ食いしては駄目だろうか…?」
「つまみ食いって…あたし食材か何かなの…?」
あたしが言うと、ナズナはため息をついてあたしの肩に顔を埋める。
だって、と彼は言葉を続けた。
「今のお前、扇情的過ぎて…もう抱きたい…お前と出会ってニ年…我慢して来た方ではないか…?」
「扇情的って…今のあたし、メイド姿なのに? あと二ヶ月なんだから、もうちょっと我慢してよ。それに、つまみ食い? した所でターニャにバレて、即婚約破棄にされるわよ? 有無を言わさず。それでも良いの?」
それは嫌だ、と彼はあたしを抱きしめる腕に力を込めた。
【我が主、これ以上はお体に堪えるかと思われます。戻った方が宜しいかと】
雛桔梗がディスプレイを表示させ、そう言ってくる。
そうね、とあたしは返事をするが、ナズナがそれを見て怪訝そうな顔をした。
「体に堪える? どういう事だ?」
あたしは先程、雛桔梗がしてくれた話を彼にする。
それを聞き、ナズナは複雑そうな顔をしてあたしを離してくれた。
「あまり無理をしないで欲しいのだが…あぁ、いや。お前のこの行動は、あの令嬢が原因だったな。シャル。何も証拠が上がらなかったとしても、不敬罪やら何やらで処してやるから安心しろ」
「…それ、安心していいのかしら…」
この人、あたしの事になると周りが見えていないのではないかと、若干不安になるんだけど。
あと、離れて寂しいのはあたしもだったので、もう一度彼に体を寄せた。
「シャル…」
「浮気したら許さないんだから」
しないとわかっているけど、一応釘を刺しておく。
そんなあたしに、ナズナは笑いかけた。
「しないさ、俺の最愛の君。お前以上の女がいるならまだしも、この世界の何処を探したとているはずがない。お前に溺れて溺死しても良いと思っている男だぞ? お前が俺を破滅させようとしても、喜んでそれを受け入れる。シャル…シャルロット。愛している」
ナズナはあたしの顔を上に向かせ、口付けてくる。
軽めなのは、我慢をしてくれているからだろう。
唇を離した彼に、あたしは少し背伸びをして耳元で囁いた。
「結婚したら甘やかしてね、あなた」
「…っ!! だから…っ! あまり煽るなって言ってるんだ、シャル…っ!!」
自分の顔を覆い、ナズナは蹲ってしまう。
そんな彼を見たあたしは、クスクスと笑った。