収納空間から刀を取り出し、身を低くする。
「…貴方達に恨みはないけれど…仕えた主人が悪かったと思いなさい」
居合い斬りの要領で、襲いかかってきた警備兵を全て斬った。
血飛沫を上げて、彼らはその場に倒れ伏す。
まぁ、不死の結界を張っているので、解いたら死んでいる事も無くなるわけだが。
あたしは牢がある場所から出る。
屋敷の中が騒然としているのは、襲撃者が現れたからか、もしくは殺人鬼が屋敷に紛れ込んでいたからか。
どっちも違うけど。
歯向かってこなければ、別段手にかける必要もないのだから。
あたしを止めようと警備兵が向かってくるが、全てを刀一本で薙ぎ払う。
あたしの姿を見たメイドの何人かが隠れたり、遠巻きにしていたりしていたが、それが賢明な判断だ。
ふと、あたしは思い出した事があり、あの先輩を探す。
「あ、そこの貴女。聞きたい事があるのだけど」
「ひっ! ひぃぃぃっ!!」
あたしは脚力強化を使いメイドの一人に接近すると、彼女は怯えた声を上げた。
それもそうなのだが、あたしはニコリと微笑みながら尋ねる。
「ルーチェ・ガルシアは何処? それさえ答えてくれたら、見逃してあげる」
「ひっ…ル、ルーチェお嬢様は…にっ、二階の西棟に…!」
西棟のどこ、と聞くと場所まで教えてくれたので、あたしはにこやかに感謝を述べ、その場所に向かった。
何人警備兵を雇っているかは知らないが、鬱陶しいくらいに湧いてきたので、重力魔法で握り潰しておく。
あたしは先輩の部屋に辿り着くと、その扉を蹴破った。
「ひっ!! な、何ですの?!」
時刻はもうそろそろ夕方。
まぁ、自室にいるだろうなとは思っていたが、いてくれて助かった。
でなければ、屋敷中探す羽目になっていたから。
「こんばんは、ルーチェ先輩。ご機嫌よう」
「シ、シャルロット・テスタロッサ?! な、なんで貴女がここに?!」
うん、驚くよね。
でも、あたしは貴女に対して鬱憤溜まってるし、今回ばかりはあの時のように、許してはあげられないんだ。
あと、ミドルネーム抜けてんですけど。
名前を言うなら、ちゃんと正式名称言いなさいよ駄目女。
「先輩、あたし小耳に挟んだんですよ。貴女、ナズナ殿下と恋人同士なんですってね? あたし、もうそろそろ彼と結婚する予定なんですよ。それなのに、貴女ともお付き合いしていたなんて…酷い裏切りだと思いません?」
あたしを捕まえようと湧いてきた警備兵を、また重力魔法で潰す。
その様子を見て、先輩が悲鳴を上げた。
「きゃぁぁあっ!! 違っ、違いますの!! アレはただの戯言でして…っ!!」
「戯言? なら、不敬罪になりますよ先輩? 殿下の名誉を貶めるような発言なのですから。虚言も良い加減にして頂けませんか? …あたしを不安にさせて、彼を寝取ろうとか思ったその神経、その性格。死んで詫びて貰えません? あたし今、すごく腹立ってるんですよ。貴女のせいで任務に支障をきたすし、ナズナの政務や戴冠式の準備も邪魔してしまった。ねぇ、先輩…学生気分が抜けていないその頭、いりますか?」
あたしは風魔法を使い、先輩の髪を切り落とす。
ヒュ、と先輩の口から息を吸い込む音がした。
今のあたしは、さぞかし冷たい目をしている事だろう。
「あ、あの、ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
「謝って許してもらえるのは幼い時までですよ、ルーチェ・ガルシア。つい出来心で、なんて言い訳も不要です。あたしは、今、途轍もなく、怒っています。それを、貴女は、理解していますか?」
言葉を区切りながらあたしが刀を振るうたび、先輩の四肢が斬れてどこかに行く。
痛いと泣き叫ぶ先輩を、あたしは見下した。
「痛い? 大丈夫ですよ、先輩。不死の結界張ってますから。解けば貴女のそれも元に戻りますよ」
「…こ、の……化け物っ!! 人でなし!! 貴女みたいな女、ナズナ様に相応しくありませんわ!! 貴女、いつかナズナ様をも殺すのよ!! 自分が気に入らないからって、この国も滅ぼすのだわ!! 気違い!! 人外!!」
あぁ、その通りだ。
あたしは化け物だし、人外だし、気も狂っているだろう。
こんな事をしているのに、全く心が動かないのだから。
以前のあたしなら、人を斬っただけで罪悪感で泣いていたはずだから。
それに、貴女のその言葉は、何度あたし自身に問いかけた事か分からない。
あたしはナズナに相応しくない。
いつか必ず、何処かで彼を殺す。
国どころか、世界をも滅ぼしてしまう化け物だから。
ねぇ、あたし。
ナズナの隣にいて、本当に良いの?
彼の迷惑にならない自信なんて、ないでしょう?
幸せな夢ならもう見たじゃない。
この騒動に乗じて、消えたって良いのではなくて?
「それ以上、俺の妻を愚弄するな。彼女の心を傷つけるな。彼女は自分の力を理解した上で振るっている。シャルロットに殺されるなら、俺は本望だ。彼女がそうしたという事は、俺自身が何かをやらかし、彼女が俺に殺意を抱いたという事だ。ならば、その罰を受けるのは当然の報いだろう」
あたしの肩にナズナが手を置きながら、先輩にそう言う。