なら、その選択肢はあたしの中で消える。
その内、王宮に荷物を持っていってくれたレヴィとルティが姿を現し、ルティがナズナを担ぎ上げてあたし達は王宮に飛んだ。
◆◆◆
あの日から何日か経って、今日はナズナの戴冠式の日だ。
あたしは自分に与えられた部屋で、緊張からか俯いていた。
「なんでお前が緊張してるんだ」
「主役は貴方なのは理解してるわよ。でも、こんな式典参加した事ないから…あぁ…自分が何か粗相をやらかさないか、心配だわ…」
何をやらかすと言うんだ、とナズナは苦笑いを浮かべているようだ。
今日の彼は髪を下ろし、後ろ髪は綺麗に結われて、赤いマントを羽織っている。
今日の為にと、白い軍服姿にあたしの目の色である紫を刺繍されたものを着ていた。
なんでその色なのと聞いたら、お前と共にあるという証だと言われてしまう。
そこまで深く愛してくれているのはありがたいが、戴冠式っていう大事な式典にそれはないだろうと、あたしは聞いた瞬間苦笑いを浮かべた。
あたしの格好といえば、青紫色のドレスに、同じ色のヘッドドレスベールをつけて、髪は結われておらずそのままだ。
長袖ではあるが、シースルーになっており暑くはない。
あと趣味ではないが、ドレスのデザインが後ろは通常通り長いのに対し、前面が膝丈で足が出ている。
足元は可愛らしいデザインの靴で、これ本当にあたしに似合うのだろうかと、テスタロッサに来てまで選んだナズナに問うたりもした。
派手じゃないだろうか、ナズナより目立っていないだろうかと心配したが、メイド達が心配するなと言ってくれたので、あたしはそれを信じる事にする。
「殿下、お時間です」
あたしの部屋にいる事を知っていたニーナ隊長が、ナズナを呼びに来た。
彼は分かったと答え、あたしの手を取りそこへキスを落としてくる。
「また後でな、シャル」
「えぇ、あなた。無事に終わる事を、式典会場で祈っているわ」
不吉な事を言わないでくれ。
ナズナはそう言い、苦笑しながら部屋を出ていく。
あたしも式典会場に向かうため、彼の少し後に部屋を出た。
会場に着くとすでに多くの人がいて、あたしはテスタロッサの人達がいる場所へ向かう。
そこにはもうお義父様と、ターニャが立っていた。
「遅れました、お義父様」
「いえいえ。まだ始まってもいないので、大丈夫ですよシャル」
前列にあたし達21貴族が並び、その後ろから中流、下流と続く。
あたしの姿を見つけたグレゴワールがこちらに来ようとしたが、父親であるベルナール卿に頭を掴まれ元の場所に引き戻されているのが横目で確認できた。
というか、他の21貴族の人達を初めて見た気がする。
ベルナール卿はお義父様より歳を召していらっしゃるけど、纏っている覇気が凄い。
ダーカン第一騎士団長より、強いと感じる。
ロゼの隣に立っているのは、ヴァリエール卿だろうか?
少し、お顔の色が悪い気がした。
病でも患っているのだろうか?
後で、お義父様かナズナに21貴族の当主について聞いてみようと考える。
ザワザワとした会場内だったけれど、ラッパの音でそれは静まった。
ギィィと後方の大きな扉がゆっくり開けられ、そこから親衛隊を伴ったナズナが厳かに歩いてくる。
いつもの彼以上にその姿は凛々しく、見惚れてしまった。
壇上に上がった彼は、陛下と大司教であるジルベルト卿の前に跪く。
陛下とジルベルト卿が、戴冠式用の口上を述べていった。
要約すれば、民の為に生き、民の為に死ねるかという事らしい。
彼はそれに、是と答えた。
奥から王妃様が式用の王冠を持って現れる。
清められた聖油を塗られ、その王冠を頂いた時に、彼は晴れて玉座に座る事を許されるのだ。
ジルベルト卿が聖油が入った瓶を持ち、その蓋を開けようとした瞬間、後方の扉が大きな音を立てて開けられた。
皆そちらを見ると、見知った顔がずらりと勢揃いしていて、あたしは不愉快そうな表情を浮かべる。
「父上!! そいつを玉座に座らせるとは何事ですか?!」
「そうですわよ!! 大体、エンリケ兄様達がいなくなったのなら、次はアーロン兄様が次代の王なのではなくって?! そんな若造が功績を上げたからと、年齢はこちらの方が上でしてよ!!」
アーロン・カルミア・ブリリアント様と、ヴァネッサ・ガザニア・ブリリアント様、他数名の王族の方が、ナズナの戴冠の抗議をしに来たらしい。
「お前達…!! 式の最中だ、下がりなさい!!」
陛下がこの場を退室するよう促すが、ナズナの兄姉は引き下がらないようだ。
チラリとナズナの方を見ると、彼は頭が痛そうな顔をしてその場から動かない。
本当は怒鳴りたいのだろうが、我慢しているみたい。
あたしはお義父様の方を見る。
お義父様もあたしを見ていたようで、一つ頷いてくれた。
隣にいるターニャも、やっておしまいなさい、と声をかけてくれる。
普通なら、黙って見てなさいと言うべき二人が、行ってきなさいと背中を押してくれて、あたしは頷いた。
あたしはその場から歩き出し、刀を創造魔法で作り出してから、花道の真ん中に立つ。