そして、ナズナを背にし、あたしは王族の面々にその刀を突きつけた。
「な…シャルロット…!? お前、不敬だぞ?! まだ王族でもなんでもない貴様が、我々に刃を向けてタダで済むとでも思っているのか?!」
アーロン様があたしを指差し、睨みつけながら言う。
あたしは一回目を閉じ、再び目を開けると冷たい目を相対している彼らに向けた。
「あたしは、この方の元専属護衛だ。国に脅威が訪れる時、それが難敵であろうともこの方の為に排除する。この方が即位なされば、国はもっとより良いものになる。その為ならばこの命、ナズナ様の為に捧げても惜しくはない。散れ。さもなくば、あたしの命と引き換えにしてでもその命、奪わせてもらう」
ヒィっと声を上げて、彼らはあたしから離れようと後退る。
クッ、と背後から笑う声が聞こえ、それは爆笑するように大声になった。
あたしは背後を見ず、眉を寄せる。
「ナズナ様…何故笑うのですか…」
「くっ…ふははは…っ!! これが笑わずにいられようか!! 俺の妻になる女は、気が強いばかりか愛国精神もあるようだ!! アーロン、ヴァネッサ、クレイグ、ルイーゼ、他の俺の兄弟姉妹達!! 俺から王位を簒奪したければするがいい!! ただし、この国最強…いや、世界最強の女が、俺の盾であり剣である! 命を賭けて、奪いに来るがいい!!」
ナズナは立ち上がったようで、自分の兄弟姉妹達にそう宣言した。
そしてあたしには、
「シャル、やれ。命までは奪うなよ。あれでも有益に使える駒だ。動けなくするだけでいい」
そう仰った。
「はい、ナズナ様」
あたしは身を低くして、脚力強化で王族の面々に接近する。
すれ違いざまに、その四肢の腱を切り捨てた。
途端、彼らはその場に崩れ落ちる。
「ぐ…シャルロット、貴様…っ!!」
アーロン様が地に伏せながら、あたしを睨みつけた。
それに冷ややかな目を返す。
「ナズナ様のご命令ですので。それにご安心を。腕の良い治癒士なら、通常通りに治す事が出来るでしょう。まぁ、すぐに処置をすればのお話ですが」
あたしは刀を鞘に戻し、元来た道を戻って、ナズナ達の前に跪き、頭を垂れた。
流石に式典の邪魔をしてしまったので、何らかの処罰を与えられると思ったからだ。
しかし陛下からは、
「良くやった、シャルロット。褒めて遣わす。お前が次代の王であるナズナと共にある事、私は嬉しく思う」
そうお言葉を頂いた。
あたしは少し驚いて、陛下を見上げる。
陛下は少し困ったように笑った。
その顔がナズナに似ていて、父親なんだなぁ、なんて不謹慎にも思ってしまう。
「有難うございます、陛下。生涯をかけ、ナズナ様を支え、お守りする事。ここに誓います」
「うむ。さて、式典の続きを行うとしようかハリトン」
ジルベルト卿に、陛下が声をかける。
あたしは立ち上がり、陛下達に一礼してテスタロッサの場所へ戻った。
◆◆◆
戴冠式が終わり、ナズナが王位に就いた事を知らせるパレードが行われる。
馬車の中、片方にカーテンが掛けられ外から見えない場所で、あたしは顔を覆って俯いていた。
ナズナは手を民衆に振り、にこやかに笑いながらあたしに念話で問いかけてくる。
〈なんでそんなに落ち込んでるんだ、お前は〉
〈…やらかしたからよ…ごめんなさい、ナズナ。貴方の為の戴冠式だったのに、出しゃばってしまって…。うぅ…穴があったら埋めて欲しいくらい恥ずかしい…〉
パレードは王都を一周するそうで、まだ始まったばかりのこれから降りられそうもない。
いや、なんであたしも乗ってるんだって話なんだけど、あんな啖呵を切ってしまったものだから、陛下達に乗れと言われたのだ。
ナズナのお披露目であって、別にあたしのお披露目ではないので、カーテンを引かせてもらっているのだけど。
〈気にするな、シャル。むしろ俺は嬉しかったぞ。俺の為に行動してくれたお前が。それに、あいつらに手を出す事を許可したのは俺だ。親父からも特に処罰も何もなかっただろう? あいつらの行動に、親父も頭を悩ませていたんだ。逆に感謝してるんじゃないか? あいつらをようやく、他国に嫁がせたりして駒として扱えるんだから〉
ナズナは足を組み、くっくっと笑う。
目の上のたんこぶだったけれど、我が強すぎて他国に行くよう提案してもテコでも動かなかったのか、あの人達は。
「…ナズナ様、あたし一つ懸念があるんですけれど…」
「どうした、言ってみろ」
あたしは身を起こし、彼に問う。
ナズナはこちらを見ず、続きを促した。
「彼らが他国に行ったとて…侵略してきたりしませんかね…」
「…まぁ…そこの懸念はあるが……馬鹿をやらかすだろうな、あいつらは。それはそれで、領土を奪うチャンスでもあるが。別に、リューネを大国にしたいわけではないが…侵略されたままだというのは癪に障る。俺は、お前やこれから生まれてくる俺達の子供、民が幸福であればいい。皆を不幸にするような物事は、出来る限り排除したい。シャル」
彼は、民衆からあたしへ目線を投げかける。