ノーム1の月。
あたしは感慨深げに、鏡に映る自分の姿を見つめていた。
「うっ…うぅ…っ!! お、お嬢様ぁ…っ!!」
「あの…泣かないでもらっても良いかしらね、ターニャ。まだ式も何も挙げていないのに…」
感極まったのか、ターニャがハンカチを取り出し、自分の涙を拭きまくっている。
そんな彼女を、あたしは困惑気味に見てしまった。
今日、天気がとても良いこの日。
あたしは、ナズナと結婚式を挙げる。
白いウェディングドレスを身に纏い、プリンセスラインと呼ばれるデザインのドレスの腰に付けられたリボンは、ナズナの色である金色。
ドレスにはレースの刺繍が施されて、一針一針縫われたであろうと思われ、とても優美だ。
化粧も華美にならず、とてもシンプルである。
シンプルすぎて、やってくれたメイド達に尋ねてしまったけれど。
「このお化粧、地味過ぎないかしら?」
「何を仰います、お嬢様。お嬢様はそのままでも大変お美しいのです。これ以上手を加えすぎますと、寧ろお嬢様の美しさを損なわせる結果になりますとも」
そう力説されてしまった。
ナズナとはサンテブルク教会の式場内で会う事になっていて、教会の控室であたしは身支度を整えている。
ドレスと同じく白いベールで顔を隠され、本当にあたし花嫁になるんだなぁ、なんてぼんやり思ってしまった。
全く実感が湧かない。
結婚式を挙げなくても、あたしはナズナの妻っていう頭なのも、どうかとは思うが。
「シャル、準備出来ましたか?」
お義父様が控え室に入ってくる。
あたしはお義父様の方を見ながら、尋ねた。
「あの、お義父様。陛下は?」
「もういらっしゃって、式場内でお待ちですよ。入場していく時、緊張の面持ちで…いやぁ、あんなナズナ君見たの初めてですねぇ」
ナズナが緊張してる?
いや、うん。
それはそうか。
ナズナだって初めての結婚式だ。
緊張くらいはするだろう。
いくら、ジルベルト卿から説明を受けているとは言ってもだ。
「いやぁ、綺麗ですねぇ。君の時も充分綺麗でしたが、娘となるとこう…感動というものが込み上げてきますね、ターニャ?」
「うぅ…お嬢様がお嫁に…嬉しいやら、悲しいやら…」
悲しまないで頂きたいんだけど。
「泣かないでよ、ターニャ。むしろ自慢? 自慢、なのかしら…自慢(仮)の娘が陛下に嫁ぐのだから、もっと胸を張ってもらいたいのだけど…」
「仮ではなく、自慢の娘ですとも!! うぅ…もっと早くお会いしたかった…!!」
ターニャはあたしの足元に跪き、手を取ってくる。
あたしはそれに苦笑した。
「そうね、貴女と再会したの16の夏だったものね。あたしにとってはすぐの再会だったけれど、貴女にとっては24年も経ってからの事ですもの。『でも、ごめんね長谷川。生前もだけれど、あたし貴女に我儘ばかり言って困らせてきたね。それでも、あたしの望みを叶えようと奔走してくれてた事、とても嬉しかったよ。大好きだよ、長谷川。貴女が慈しみ、育ててきてくれた15年間。そして今までの事。とても幸せだった。ありがとう、長谷川。あたし、それ以上に幸せになるからね。
途中日本語に切り替えて、ターニャにお礼を言う。
それを聞いた彼女は更に涙腺が崩壊したのか、ボロボロと涙を零し始めた。
「『お嬢様…
あたしは彼女の手を握り、微笑む。
「ありがとう、ターニャ。たまにはテスタロッサに帰っても良いって、陛下は仰ってくださってるから。帰ったら甘えさせてね?」
「勿論ですとも…っ!! いつまでもお帰りをお待ちしております!」
ターニャの様子にお義父様も苦笑し、屈んで彼女の肩に手を添えた。
そしてあたしを見上げ、笑いかけてくれる。
「私も、貴女が義理の娘になったこの数年は、とても楽しい時間でしたよシャル。陛下が嫌になったら、いつでも帰っていらっしゃい。貴女が元気で過ごす事が、私達の望みですから」
「お義父様…ありがとうございます。あたし、二人の娘になれてとても幸せです」
うん、とお義父様は頷き立ち上がった。
そういえば、準備が出来たのかと呼びに来てくれていたのだ、お義父様は。
「さて、式場に行きましょうか。皆さん首を長くしてお待ちでしょうからね。まぁ、逃亡するって手もありますけどね」
「お義父様…」
冗談か本気か分からない事を、言わないでくれないだろうか。
相変わらず、この義理の父の思考は読めない。