それでも、あたしを大事に思ってくれている事は知っている。
あたしはクスクス笑いながら、ターニャの手から自分の手を外した。
「エスコートお願いします、お義父様」
「えぇ。娘の晴れ舞台です。ナズナ君に渡すまで、一緒に行きましょうか…シャル、幸せになりなさい」
立ち上がってお義父様の腕に自分の手を添えると、そう言われる。
あたしは満面の笑みで、はい、と答えた。
◆◆◆
式場に続く重厚な扉の前まで来ると、それがゆっくり開かれていく。
あたしのベールの裾が長いから、ターニャとメイド達が持ってくれていて、一緒に入場した。
オルガンの音が式場内に響き、あたしはお義父様と共に一歩、また一歩と歩く。
青いバージンロードの先、ステンドグラスから降り注ぐ光の中、ナズナがこちらを見ている。
あの式典で着ていた白と紫の軍服に、赤色の短いマントを右肩につけて彼はそこに立っていた。
お義父様がナズナの所まで、あたしを連れていく。
「綺麗だ、シャルロット」
彼の隣に立ったあたしの手を取り、微笑みながら小声でナズナはそう言った。
「貴方も素敵よ、ナズナ」
優しげな瞳であたしを見つめる彼に、そう返す。
数歩進み、祭壇の前まであたし達は歩いた。
「ハリトン・アゲート・ジルベルトが、お二人の式を執り行わせて頂きます」
祭壇前に居られたジルベルト卿が、宣言する。
ジルベルト卿は聖書らしき書物を開き、ナズナに尋ねた。
「汝、ナズナ・エキザカム・ブリリアント。貴方は、ここに居られるシャルロット・マリアライト・テスタロッサを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も。妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
ジルベルト卿のその問いかけへ、ナズナはすぐに返答する。
「誓います」
その言葉を聞き、あたしは涙を溢した。
とても、とても嬉しくて。
生花のブーケを握りしめ、あたしは肩を震わせる。
その様子を横目で見ていたナズナは、あたしの方に少し顔を向け苦笑していた。
「汝、シャルロット・マリアライト・テスタロッサ。貴女は、ここに居られるナズナ・エキザカム・ブリリアントを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も。夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
ジルベルト卿も、こんな様子の女に困惑など見せず、むしろ慣れていらっしゃるようで、あたしへ優しげな目を向ける。
「…っ、誓います…っ!!」
あたしは少し大きめな声で、返事をした。
幸せすぎて、胸がいっぱいになってしまったのだ。
あたしの返答に、ジルベルト卿は頷く。
「それでは、指輪の交換後誓いのキスを…」
「その式、待ってもらおうか!!」
バーンっ!! と大きな音を立て、扉が開かれた。
参列していた人達もだが、あたしやナズナ、ジルベルト卿も驚いてそちらを見る。
「陛下!! その結婚、異議がありますぞ!! その女はテスタロッサの者ではありますが、純血ではないではないですか!! いくら功績を立てようとも、何処の馬の骨か分からん血を王家に入れるなど…!! 陛下、お考え直しを!! 王家の血は貴族の血によって守られているのですぞ!!」
「アドマー・ロドリゲス…」
ナズナが呟いたその家名に、聞き覚えがあった。
確か学年別対抗戦の時、あたしに突っかかってきた先輩達のうちの、一人の家だったはず。
それがなんでまた、こんな大事な式の最中に乱入してくるのよ。
「陛下、式の最中で申し訳ないのですが、発言をお許し頂けますでしょうか」
最前列にいたお義父様が、ナズナに発言を求める。
「許す。何だベルファ」
「はい。うちの娘の出自が気に食わないからと言って、陛下ご自身がシャルロットを見初めてくださったのです。陛下の決定に異を唱えると、そう言うのですねロドリゲス? 貴方は確か下流の貴族の出。下流はそのほとんどが平民から成り上がった貴族です。貴方如きに、うちの娘の出自をとやかく言う権利はない。それに、貴方の娘よりシャルロットの方が、見目も麗しければ所作も完璧です。あぁ、そういえば…うちの娘が在学中に、貴方の娘と学年別対抗戦で当たったそうですね? それも、噂ではシャルロットが圧勝したと。武闘でも勝てないのに、よくこの場に来ようと思いましたね? 恥知らずもいい加減にしてもらいましょうか」
花道に歩み出て、お義父様はロドリゲスの当主に棘を含みまくった言葉を投げかけた。
わぁ…お義父様、結構言うわね…。
ターニャもうんうん頷いているし。
「し、しかしだな、テスタロッサ卿! いくらその娘が陛下に見初められたからと、血だけは誤魔化せんだろう?! 陛下!! 血が汚れるという事は、王家の衰退をも意味するのです!! そこの娘より、私の娘の方が陛下に相応しい!!」
ロドリゲスの当主がそう言うと、地響きが聞こえてくる。
当主の後ろからヌッと現れたのは、ロドリゲスのご令嬢だった。
相変わらず、ゴリラだわ彼女。
ゴリラに失礼かもしれないけど。
ナズナは頭が痛そうに押さえ、長く深いため息をついた。