その言葉に、あたしは驚く。
「これ、貴方が作ったの? 何処にそんな時間があったって言うのよ」
「寝る時間を少し削っただけだ。ベルファにも手伝っては貰ったが、ほぼ俺一人で作ったものなんだ、が…気に入らなかったか?」
あたしは、ピローからナズナ用の指輪を取り、彼の指に嵌めながらベールが取れないよう、少しだけ首を横に振った。
「驚いただけ。とても嬉しい。でも、今寝不足ではないの? 大丈夫?」
「これを作っていたのは、戴冠式の前だ。大丈夫だ、シャルロット。心配するな」
小声で話していたのだが、ジルベルト卿には聞こえていたようで、また咳払いをされる。
「では、誓いのキスを」
その言葉に、ナズナはあたしのベールに手をかけた。
ベール越しに見えていた彼の顔が、上げられた事ではっきり見える。
その顔が近付いてきて、あたしは目を閉じた。
触れるだけのキスを、あたし達はする。
「これにより、二人の婚姻が成立した事を認めます」
ジルベルト卿が、参列者達に宣言した。
言葉が終わるくらいで、ナズナは唇を離す。
「シャル…愛している」
「あたしも、貴方を愛してるわナズナ」
ふっ、とお互いに笑い合った。
今が幸せの絶頂というやつなのだろう。
ナズナはあたしをお姫様抱っこで抱き上げて、バージンロードを歩く。
方々からおめでとうと言う声が上がる中、グレゴワールが情け無くあたしの名前を呼んだ。
その声に応えてやる義理もなかったので、無視はしたが。
教会の入り口に着くと、幌無しの馬車があたし達を待っていた。
「シャル」
少し心配そうに、ナズナがあたしの名前を呼びながら見つめてくる。
こういう目立つ行動を、あたしが好かない為だろう。
そんな彼に、あたしは微笑んだ。
「大丈夫よ、あなた。貴方の妻になったのだもの。それに、顔は覚えられないけれどみんなの顔が見たいわ」
「そうか。ありがとう、シャル。俺の妻は、やはり優しく美しい」
あたしを抱えたままナズナは馬車へ乗り込み、壊れ物を扱うかのようにあたしを席に降ろしてくれる。
彼が着席したのと同時に、馬車が動き出した。
あたし達を祝福しようと、沿道に民達が集まって口々に幸せを祈ってくれる。
たまに、あたしが綺麗だとかの声が上がるが、あたし達は気にせずみんなに手を振った。
「綺麗ですって」
「民達に、お前の姿絵は出回っていなかったからな。女神だと呟いている者もいるぞ。うん、それは理解出来る。俺の妻は、女神もかくやという位だからな」
それは褒めすぎだろうと思うが、でもナズナに褒められて悪い気はしない。
これが妻になった心境の変化というやつだろうか?
「なら、貴方は神様かしらね? あたしを拾って、見初めてくれて…ここまで連れてきてくれたのだもの」
「やめてくれ。俺はお前の夫であれば良い。それ以上を望むつもりはないさ」
その言葉に、あたしはクスリと笑う。
「どうした、シャル?」
「それ以上になってもらわないと困るわ。子供が出来ても、貴方は父親になるつもりはないの?」
そうは言っていない、とナズナは不機嫌にはならずに、苦笑いを浮かべた。
弁明しようとした彼の口を、指で押さえて微笑む。
「分かってるわよ。今は、あたしの夫でいたいって事よね? いずれ、父親にもなってくれる。そうでしょう?」
ナズナは自分の口を押さえているあたしの手を取り、その手の甲に口付けを落とした。
「勿論だ、シャルロット。お前との子は、とても可愛いと思うよ。その子の父親になれるんだ。今以上の幸福を感じる事だろう」
「あなた…」
ナズナはあたしの肩を抱き、頭にキスをしてくる。
あたしはされるがまま、微笑んだ。
◆◆◆
王都を一周した後、王城に戻ってくる。
先にナズナが降りて、あたしに手を差し出してきた。
その手を取り、馬車を降りる。
「陛下。会場の準備は出来ております。王妃様はお色直しがございますから、先に会場へお越し下さいますようお願い申し上げます」
「分かった。妻を頼む」
ナズナは出迎えた騎士を引き連れ、披露宴会場に向かった。
あたしに、またな、と言って。
「王妃様。こちらへお願い致します」
「え…あ、はい…」
王妃と言われ、一瞬誰の事だと思い、あぁ自分かと納得する。
前王妃のベアトリーチェ様は、ライラント様と共に新しい居城に移ってしまったし。
ここで王妃と呼べる存在は、あたしだけだ。
あたしはメイド達と共に、自分の部屋へ入る。
そして、ため息をついた。
「本当にいい加減にして欲しいのだけど。一体何処の家の者なのかしら。晴れの日なのだから、少しは遠慮というものを覚えたらどうなの?」
そう言い、指を鳴らす。
あたしと共に入ってきたメイド数人を、
その手から凶器のナイフやらが転がり落ちる。
ナズナ程ではないが、自分付きのメイドの顔くらい覚えている。
というか、テスタロッサのメイド達ばかりなので、その中に見慣れない顔があったら警戒ぐらいはするのだ。
寄越した奴、馬鹿なんじゃないの?