ナズナは、あぁ、と何か納得がいった顔をして説明してくれた。
「親衛隊の多くは、平民出身が多いんだ。貴族令嬢が入るのは稀でな。それに、ヴィオレッタはよく社交界に一人で出向いている質でな。顔を出している令嬢の顔も、多少は覚えているんだろう」
「なるほど…」
でも、顔を出していない令嬢が親衛隊に入って、尚且つナズナの専属護衛になったらあのお嬢様どうするんだろう?
しかも自分の家より家格が高い所だったら、家同士の争いになるんじゃないかしら。
まぁ、あたしが心配するような話ではないけれど。
「シャル、昼を食べに学食へ行こうか」
「別に良いけど、毒殺とか気にしなくて良いの?」
王族は多方面から命を狙われる、だからあたし達みたいな護衛役が必要なのだと教わった。
王族の食事等を用意するのも、護衛役の仕事なのだとも。
だがナズナは、気にするなと一言言う。
「その為に、毒にも慣らしてある。死なない程度の少量だがな。王位を狙う兄弟が多いんだ、それくらいするさ」
「…今度からそれやめてくれる? あたし鑑定スキルも持っているから、貴方が食べる物を見て大丈夫だったら渡すから」
頼もしいな、と彼は笑う。
その顔にも、胸が高鳴ってしまった。
…不整脈かしら?
◆◆◆
一体この学校は、何人くらいの生徒と教諭を収容しているのだろう。
ここにきた時と同じ感想を、あたしは食堂を見た瞬間思ってしまう。
それくらいに、広すぎたのだ。
端が見えないのだから。
推定100メートルは超えてるかしら…。
「シャル、ユキヤ達だ。合流するぞ」
離れた所にユキヤ君達を見つけたのか、ナズナはあたしの手を取ってそちら側に移動し始める。
「先導しないでもらえませんかね?! 貴方、護衛対象なのわかってるの?!」
雑踏過ぎて、声を張り上げないと声が届かないと踏んで、大声を出す。
しかしナズナは、大丈夫だというように微笑んだ。
「何笑ってんのよ?」
「いや、もう着くからな」
言われて、前を見ると確かに目前にはユキヤ君達がいる。
心配は無用だったという事だ。
あたしは納得がいかなくて、眉を寄せる。
「シャル、ご機嫌斜め?」
「殿下が勝手に動くからよ」
カナリアがあたしに抱きついて聞いてきたので、ちょっと不服そうに返事を返した。
「兄さん、またシャルに迷惑かけたんですか?」
「かけた覚えはないがな」
ユキヤ君は呆れた目でナズナを見るが、彼は肩をすくめただけだった。
迷惑だとは思わないけど、前に出る癖だけは治してもらえないだろうか、と切望してしまう。
「まぁ、専属護衛がいなくて、歳の近い親衛隊員を代わる代わる連れてきていた兄さんですから。自分が護衛対象だという自覚がないんです。王太子としてどうかと思いますが」
ユキヤ君の苦言に、ナズナは目を逸らした。
先に前へ出た方がやりやすい、と言い訳をしている。
ユキヤ君、もっと言ってやって!!
「まぁまぁ、ナズナ殿下いじめはそれくらいにして。お腹空いたよ、早く何か食べようよ」
「で、どうやってご飯を頼むの?」
こういう所、記憶をなくす前は来ていたのだろうが、それすらもわからない。
「席が空いてる所に座ったら、ウェイターさんが注文取りに来てくれるよ」
カナリアがそう説明してくれる。
成る程、わかりやすいシステムだ。
早速空いてる席を見つけ座る。
すぐさまウェイターが来て、メニュー表を渡された。
種類がとても豊富だったのだが、選び切れず結局ナズナと同じものを頼む。
「種類が多いのね…」
昼食を食べ終わり、カナリア達と別れあたしたちは寮への帰路についていた。
「一年に一回メニューは改定されるらしいが、俺もそう頻繁に行くわけではないからな。あそこで食事をとっているのは、侍従を連れて来れなかった子息達や、平民達だな。ここは、色んな仕事を斡旋してもいるから、働いた賃金で食事しているらしい」
「ふぅん…」
貴族や、あたしみたいに王族に雇ってもらってるわけではないから、それはそうよね。
学費もそうなのかしら?
ナズナに尋ねると、そうだと答えが返ってくる。
「学校の仕事を手伝ったりして、学費代わりにしている奴らもいる」
「あたしは運が良かったのね」
若干伸びながら言うと、ナズナがあたしの頭を撫でてきた。
「シャル、一つ聞いてもいいか?」
ナズナがあたしに質問してくるなんて珍しい。
彼が立ち止まったので、あたしも歩くのをやめる。
「お前は、記憶が戻ったらどうする? 国許に帰るのか?」
「何よ、いきなり唐突に」
あたしの方が数歩前に出てしまっていたので、振り返ってナズナに聞き返す。
彼は寂しそうな笑顔を浮かべ、あたしを見つめていた。
「…そんな顔しないでよ。それに、あたしは拾ってもらった恩義を忘れて、帰るような女じゃないわ。ちゃんと、返してから帰るなりするわよ。だから…」
あたしはナズナの手を握り、頭を彼の胸につける。
「あたしは、貴方の専属護衛よ。大丈夫、いなくなったりしない。だから、泣きそうな顔しないで」
「…あぁ」
あたし達はしばらくそうしてから、寮の自室へと帰った。