「お嬢様…じゃなかった。王妃様、こいつらどうします? 陛下に言います?」
「言わなくて良いわ。近くにいる親衛隊に引き渡して、拷問にかけてちょうだい。吐けばよし、吐かなければ吐くまでやって下さいって伝えてね」
はい、とあたしについてきてくれたアーチェが、部屋の外へ出ていく。
数分後に、親衛隊の数名があたしの部屋に来て賊を連れ出してくれた。
これでようやくウェディングドレスが脱げると思ったのだが、今度は青紫色のイブニングドレスを着させられる。
そういえばこれから披露宴だったと、あたしは思い出した。
「王妃様、気を抜きすぎですよ。陛下も首を長くしてお待ちです」
「そうだった…ルーティ、あんまりコルセット締めないで、苦しい…っ!!」
ギュッとコルセットの紐を締められ、あたしは自分付きのメイドであるルーティに言う。
しかし彼女は、ターニャの直弟子とも言えるメイドだ。
あたしの苦言など、意にも介していなかった。
「申し訳ありません、王妃様。しかしこのドレスは、コルセットを締めなければ見栄えが悪くなるのです。ご容赦を」
「うぅ…貧血で倒れない事を祈っておいて…」
まぁ、倒れた事なんて数度しかないので、大丈夫だとは思うが。
ようやく締め付けられるのに慣れた頃、扉がノックされる。
応答すると、親衛隊の皆が迎えに来てくれていた。
部屋に入って来たブリジットさんに、何故ですか? と尋ねる。
「いや、何故? じゃないんだよ、シャルロット?! 貴女、王妃になったんだからね?! しかも、暗殺未遂にあったって言うし!! 王妃の護衛役増やすの当たり前でしょ?!」
…凄い剣幕で言われてしまった。
流石、あたしの専属護衛。
言う事は言うなぁ…。
まぁ、こんな馴れ馴れしくしていたらニーナ隊長に怒られるんだろうけど。
あたしは気にしないんだけどね。
親衛隊の皆を伴い、あたしは披露宴会場に入る。
会場の上座にナズナが座っていたが、あたしの姿を認めて立ち上がった。
青紫色のイブニングドレスには造花が縫い付けられていて、ボリュームがある。
髪も片側に流れるように緩く結われ、頭にはティアラを頂いていた。
ナズナがいる上座に行くには階段を数段登らなければならなかったが、あたしがその下まで行くとナズナが手を差し出してきてくれる。
あたしは彼の手を取り、ドレスの裾を少し摘んで持ち上げ、階段を登った。
「あぁ、シャル…とても綺麗だ。ウェディングドレスのお前も綺麗だったが、今のお前も美しい。俺は幸せ者だな。こんな美しい妻を迎えられるなど」
「あまり褒めないで、あなた。口説いてくれるのは嬉しいのだけど、ここでは恥ずかしいわ…」
衆人環視の中で言われるのは、とてもとても恥ずかしいのだ。
いくら新婚で、この後初夜を控えているからと。
「それはすまなかった。だが、俺が幸福の只中にいるのは理解してくれ」
「それならあたしもよ、あなた」
ナズナはあたしに微笑みかけ、凛とした表情になると集まってくれた人達に挨拶を始め、立食中心の披露宴が始まった。
あたし達は21貴族の当主達から祝福の言葉をもらっていく。
その間、上座に設置された椅子に座っていた。
「シャルロットさん…」
「王妃様と言わんか、馬鹿息子。陛下、王妃様。ご結婚おめでとうございます。我がベルナール家、これからも王家の剣となり、この国を守護していく所存でございます」
グレゴワールが未練がちな目であたしを見つめてきたものだから、ナズナの眼光が鋭くなる。
それを察したのか、ベルナール卿はグレゴワールの頭を引っ掴んで下げさせた。
「これからも、お前達の働きに期待している。よく励め、カルデラ」
「はっ!!」
グレゴワールの頭を下げさせた状態で、ベルナール卿は下がっていく。
あの体勢キツそうだなぁ、なんて頭の片隅で思った。
「シャル、気になるのか?」
「ん? あぁ…あの体勢で下がるの、キツそうよねって思っただけよ」
ナズナはグレゴワールの方をチラリと見て、少し吹き出す。
クックッと笑い出したので、あたしは彼に耳打ちした。
「貴方より格好良くもない、ただ気持ち悪いだけの男に、あたしが目移りするわけないじゃないの」
「ぐ…っ、ふ…っ! シャル、笑わせないでくれ…っ! お前、言うようになったな…!」
彼は口元を押さえ、肩を震わせている。
そんなに面白かったのだろうか?
招待客のダンスを眺めていると、コルセットで締めているはずのお腹から、クゥ…と音が鳴った。
うっ、と思った時には、隣にいたナズナが苦笑していて、聞こえてしまったかとあたしは彼を見る。
「シャル、そろそろお開きにしようか」
「いや…まだ大丈夫だから…」
無理するな、と言われて、ナズナはダンスの曲を演奏していた楽団の指揮者に目配せした。
曲が終わり、ナズナが閉会の挨拶を始める。
招待客をメイド達が案内していき、それを眺めているとナズナから手を差し出された。
「シャル、食事にしようか」
「…何か、ごめんなさい」
少し申し訳なくなって彼に謝ると、気にするなと笑いかけてくれる。