ノーム2の月。
ナズナと結婚して、早一ヶ月経った。
あの日から毎晩求められていて、あたしは若干寝不足気味に陥っている。
「天気が良くて、眠くなるわねぇ…」
ぼんやり空を見上げていると、横から声をかけられた。
「寝るなシャル。俺と散歩してるんだから」
ナズナと腕を組んで歩いているのだが、あたしの言葉に彼は少しムッとしてしまう。
この人の政務の合間、体が固まるという理由で、あたし達はこうやって度々城の庭を散歩する事にしていた。
のだが。
寝るなとはどういう了見なんだ、こいつ。
寝かせないのは貴方のくせに。
あたしはそういう意味を込めて、ナズナを睨むように見上げた。
その視線に気付いてか、彼はニヤリと笑う。
「…本当、手加減してくれないかしら…」
「無理だな。お前が可愛すぎるから燃えるんだ」
何の理由にもなっていない。
それに夜だけではなく、何か理由をつけて襲いかかってくるのは何なのよ。
流石に嫌な時は、はっ倒すけど。
「貴方ね…!」
少し声を荒げて抗議をしようとした瞬間、あたしは眩暈を覚え、体がふらついた。
あ、マズい。
これ倒れるやつだ。
経験から来るものを感じ取り、受け身を取ろうと少し体を捻る。
「シャル!!」
ナズナの慌てた声と体を支える力強い腕に、あぁ、そういえば一人で歩いていたのではなかったと、そう思った。
「どうしたんだ? コケたのか?」
「…そういう風に見えたのなら、貴方の目は節穴ね…。ちょっと眩暈がしただけよ…絶対寝不足から来てるやつだわ、これ」
だから今日は相手をしないと、暗に彼に言う。
「むぅ…仕方ない。もう今日は休め、シャル。歩けそうか?」
「歩きたくないから抱っこして、あなた?」
あたしはナズナに手を伸ばした。
彼は仕方ないなと笑い、あたしをお姫様抱っこしてくれる。
「まったく、うちの妻は甘える時も可愛らしい。だからお前を離したくないんだ、シャルロット」
「口説かないでよ。でも、甘えさせてくれる貴方が大好きよナズナ」
あたしを運ぶ彼の腕の中で、眠りに落ちてしまった。
どれだけ寝不足だったんだ、あたし。
◆◆◆
そんな日からまた数日経ったある日、あたしは自分の体調がおかしい事に気付いた。
ナズナから求められてはいたけど、眠いという理由で断っているから寝不足という事は無いはずなのに、ずっと眠い。
それに、食べ物の匂いを嗅ぐだけで気持ち悪くなってしまっていた。
どうしても、体が受け付けてくれなくなってしまったのだ。
一体どうしたというのだろうか。
王妃という重圧のせいか、ストレスで体調でもおかしくなった?
そんなまさか、と自分で自分を笑い飛ばす。
前世に比べれば、ぬるま湯に浸かっているも同然の暮らしをしているのに。
「シャル、何か食べないと体に障るぞ…?」
「ごめんなさい、あなた。本当に体が受け付けないの…」
ナズナとの食事でも、あたしは一切自分の食事に手を付けられず、かなり困っていた。
一回、おやつの時間に無理やり食べてみたけれど…その場で吐き戻してしまったのだ。
それはナズナも知る所で、無理に食事を勧めたりはして来ず、助かっている。
そして魔力も不安定になってきており、レヴィやルティを常時現界させてあげられなくなっていた。
レヴィには大変申し訳ないと思ってしまう。
彼らとの縁は切れていないから、この状態が回復すればすぐに呼び出せるのだが。
原因が全くわからない。
「サカネに診てもらった方が良いんじゃないのか?」
「サカネ先生に?」
サカネ先生は、この王宮の侍医である。
この時代では珍しく、女性で医者をしている人だ。
それに、騎士団を相手にしているせいか多少言葉遣いが荒い。
カヅキで慣れているから、あたしは別段気にしていなかったのだが。
「陛下…お言葉ですが、王妃様は体調がお悪く…サカネ先生に相対するのは…」
「大丈夫よ、ルーティ。ありがとう、気を使ってくれて。明日、お部屋にサカネ先生を呼んでくれる? 流石に、自分の魔力だけで賄うのキツくなってきたの」
あたし付きで、テスタロッサから一緒についてきてくれたルーティが、ナズナに苦言を呈する。
そんな彼女に微笑みつつ、お願いした。
「畏まりました…」
そして次の日、王妃専用の執務室となった元自分の部屋に、サカネ先生がやってくる。
色々触診やら何やらを経て、先生はニコリと笑った。
「ご懐妊ですね。おめでとうございます、王妃様」
「………へ?」
ご懐妊?
誰が?
あたしが?
「嘘…」
あたしは驚きすぎて、そうポツリと呟く。
「なんで嘘つく必要あるんですかね。それに、あんだけ陛下と毎晩盛ってたら、出来るもんも出来ますよ」
言い方!!
本当カヅキそっくりだな、この先生!!
オブラートに包まないあたりとか!!
「…あの、先生…ご飯食べられてなくて…」
「暖かい物や、固形物が駄目な患者も中にはいます。王妃様の場合、冷たいスープとかが良いんじゃないですかね。固形物も何も入っていないものとか」
確かに、スープ類は温かい物ばかりだった気がする。